鍛冶師の戦闘①
「闘う……?」
「うん、簡単だろ」
『闘おう』。
目の前の巨体は、確かに俺にそう言った。
彼のいう協力者が――それを求めていると。
……正直、対峙していた時から分かっていた。
確実に、『強い』。
それは彼のこれまで積み上げてきた勝利からか。
さっきまでのネフ太とかいう鍛冶師と同じ職業なのが、伺わしい程のモノ。彼は詐欺師だったが。
――まあつまり、俺が勝てるかなんて分からないんだ。
「……はは」
「?」
同じ生産職、ここまでの強者。
形はどうあれ――こんな俺に、挑んでくれる事に感謝しよう。
「喜んで受けるよ、ベアー」
☆
《決闘専用フィールドに移動します》
ラロシアアイス、非戦闘エリア。
時刻にして午後九時。テレビ的に言えばゴールデンタイム。
……要するに人が多い。
このラロシアアイスは特に、第一、第二の町よりも多くなっている気がする。
で、当たり前だがそんな人がいる中で闘うなんて出来るわけがない。
そんな訳で、街中の決闘は専用フィールドに飛ぶことになるんだ。
「……初めて来たけど、本当に『
「ほっほ、そうだろぉ~?雰囲気あってスキだよボクは」
ファンタジーによくある、中世の闘技場そのものだ。
楕円状のドームで、中央の地面に俺達が、見上げた周りは客席で覆われている。……もちろん客はいないが。
「――さて。準備はいいかい?」
「ああ」
「じゃ、決闘ルールは……うん、これにしよう」
《ベアーから決闘申請を受けました》
「制限時間三十分に……『全てのアイテム使用可』か」
「うん、実戦に近い方が楽しいしね――それにコレじゃないと、僕が有利すぎるかな」
「……そうなのか。まあ、俺もそっちの方が助かるよ」
含みのある言い方をする彼。
……この決闘には――俺の武器がかかってるんだ。
手段は多い方がありがたい。時間も多い方が考える時間も増える。
まあ、相手も同じ条件なんだが。
《決闘申請を受理されました》
《決闘は三十秒後に開始されます》
目の前、距離にして二十メートル。
同じ決闘をしたダストとは、距離感がおかしくなるほど大きい彼。
《決闘は十秒後に開始されます》
大事な勝負だ。
拳を握り込み、メニューを開く。
そこから、スキル――黄金の一撃の設定額を確認。
斧を持つ手を振り、左腕の感覚も加えて確かめた。
そんな様子を静かに笑って、それでいて野生の獣の様な眼差しを向けてくる彼。
手に持つ武器はハンマーの様な見た目の片手武器。彼の巨体で誤魔化されているが……片手武器の割にかなり大きい。
防具はガチガチの鎧ではなく、革と金属が合わさった様な軽鎧。
《決闘はまもなく開始されます》
「……やるか」
《決闘を開始します》
「――らあ!」
先手必勝、俺は持っていたスチールアックスを投げ、同時にスタートダッシュ。
最中にインベントリからもう一本――弱攻の片手斧を取り出し、装備。
ダストがやっていた戦法だ。
これを行えば、投擲攻撃を防御した、あるいは避けた敵に追加で攻撃ができる。
敵の攻撃も、参考になるのが多いモノ。
「……おっと」
その巨体に見合わず、早い最小限の動きで避ける彼。
そこへたどり着いた俺は――斧を振り上げる。
「――『スラッシュ』!」
「――!」
ベアーはまるで予想していた様に、手に持つハンマーで俺の武技を防御。
迫り合いになる――前に、素早く片手斧を引っ込めた。
「――『クラッシュ』」
「ッ――」
隙を逃さない、反撃のベアーの武技。
これも予想はしていたが――思っていたよりも速い。
突っ込まずに正解だったな。
迫るそれを何とか避け、俺は一度距離を取った。
「……対人戦闘、慣れてるな」
「ほっほ、キミもね」
余裕そうに笑うベアー。
――今のうちに考えるんだ。彼の隙を。
まず、スピードは早いが俺が一歩上回る。
そしてパワーは彼の方が上。
防御に関しても彼が――――ん?
彼の軽鎧の中の『違和感』。
見れば――脚だけ、防具の質が違う。
他職の防具も見てきたから分かった。
脚以外はスチール等級。脚防具だけアイアン等級だ。
「……来ないのかい?」
「いや――今行く!」
再度斧を投擲――そして走る。
彼の防具の中、狙うなら『脚』だ。
「――らあ!」
「っと――」
悟られない様、胸部に攻撃。
それを避け――ハンマーを振り上げるベアー。
「――『クラッシュ』!」
彼の反撃の武技。
使い所は……今だ。
「――『高速戦闘』」
「おおっ!?」
ハンマーの一撃を避けながら、俺はそれを発動する。
三秒間、世界はスローに。
ここが――最大の
「っ――『黄金の一撃』!!」
防御の隙を与えない、高速の一撃を彼の脚部へと。
悪いが、俺の武器が掛かってるんだ。
使える手段は、全部使う!
「――ううッ!?――――なんてね。キミなら、ココを狙うと思ってたよ」
彼の脚部へと吸い込まれていった一撃。
間もなく衝突……それなのに――彼は、笑っていた。
――まるで、それが『狙い通り』だったかのように。
ガラスが割れるような、そんな音と共に。
《100000Gを消費しました》
「――え?」
響くアナウンス。
今、確かに手ごたえはあったはず。
……それなのに、どうしてHPが一も減っていない?
「隙アリだねえ――『素材戻し』!」
黄金の一撃の衝撃も全く受けず、俺の隙にハンマーを振るう。
通常の武技よりも、ゆっくりと迫るそれ。
青色じゃない、
ネフ太の武器を素材に戻した、そのスキル。
まずい。
これは――
この攻撃は、絶対に食らってはいけない!!
「――ッ!!」
《状態異常:装備使用不可となりました》
《一定時間対象の装備が使用不可となります》
鈍い音が、俺の手に持つ
そして――その感触が消えたのだった。
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