鍛冶師の戦闘①



「闘う……?」


「うん、簡単だろ」



『闘おう』。


目の前の巨体は、確かに俺にそう言った。

彼のいう協力者が――それを求めていると。


……正直、対峙していた時から分かっていた。

確実に、『強い』。

それは彼のこれまで積み上げてきた勝利からか。


さっきまでのネフ太とかいう鍛冶師と同じ職業なのが、伺わしい程のモノ。彼は詐欺師だったが。


――まあつまり、俺が勝てるかなんて分からないんだ。



「……はは」


「?」



同じ生産職、ここまでの強者。


形はどうあれ――こんな俺に、挑んでくれる事に感謝しよう。



「喜んで受けるよ、ベアー」





《決闘専用フィールドに移動します》



ラロシアアイス、非戦闘エリア。

時刻にして午後九時。テレビ的に言えばゴールデンタイム。


……要するに人が多い。

このラロシアアイスは特に、第一、第二の町よりも多くなっている気がする。


で、当たり前だがそんな人がいる中で闘うなんて出来るわけがない。

そんな訳で、街中の決闘は専用フィールドに飛ぶことになるんだ。



「……初めて来たけど、本当に『闘技場コロッセオ』なんだな」


「ほっほ、そうだろぉ~?雰囲気あってスキだよボクは」



ファンタジーによくある、中世の闘技場そのものだ。


楕円状のドームで、中央の地面に俺達が、見上げた周りは客席で覆われている。……もちろん客はいないが。



「――さて。準備はいいかい?」


「ああ」


「じゃ、決闘ルールは……うん、これにしよう」



《ベアーから決闘申請を受けました》



「制限時間三十分に……『全てのアイテム使用可』か」


「うん、実戦に近い方が楽しいしね――それにコレじゃないと、僕が有利すぎるかな」


「……そうなのか。まあ、俺もそっちの方が助かるよ」



含みのある言い方をする彼。


……この決闘には――俺の武器がかかってるんだ。

手段は多い方がありがたい。時間も多い方が考える時間も増える。


まあ、相手も同じ条件なんだが。



《決闘申請を受理されました》


《決闘は三十秒後に開始されます》



目の前、距離にして二十メートル。

同じ決闘をしたダストとは、距離感がおかしくなるほど大きい彼。



《決闘は十秒後に開始されます》



大事な勝負だ。

拳を握り込み、メニューを開く。


そこから、スキル――黄金の一撃の設定額を確認。

斧を持つ手を振り、左腕の感覚も加えて確かめた。


そんな様子を静かに笑って、それでいて野生の獣の様な眼差しを向けてくる彼。

手に持つ武器はハンマーの様な見た目の片手武器。彼の巨体で誤魔化されているが……片手武器の割にかなり大きい。

防具はガチガチの鎧ではなく、革と金属が合わさった様な軽鎧。



《決闘はまもなく開始されます》



「……やるか」



《決闘を開始します》



「――らあ!」



先手必勝、俺は持っていたスチールアックスを投げ、同時にスタートダッシュ。

最中にインベントリからもう一本――弱攻の片手斧を取り出し、装備。


ダストがやっていた戦法だ。

これを行えば、投擲攻撃を防御した、あるいは避けた敵に追加で攻撃ができる。

敵の攻撃も、参考になるのが多いモノ。



「……おっと」



その巨体に見合わず、早い最小限の動きで避ける彼。

そこへたどり着いた俺は――斧を振り上げる。



「――『スラッシュ』!」


「――!」



ベアーはまるで予想していた様に、手に持つハンマーで俺の武技を防御。

迫り合いになる――前に、素早く片手斧を引っ込めた。



「――『クラッシュ』」


「ッ――」



隙を逃さない、反撃のベアーの武技。

これも予想はしていたが――思っていたよりも速い。

突っ込まずに正解だったな。


迫るそれを何とか避け、俺は一度距離を取った。



「……対人戦闘、慣れてるな」


「ほっほ、キミもね」



余裕そうに笑うベアー。

――今のうちに考えるんだ。彼の隙を。


まず、スピードは早いが俺が一歩上回る。

そしてパワーは彼の方が上。

防御に関しても彼が――――ん?



彼の軽鎧の中の『違和感』。

見れば――脚だけ、防具の質が違う。

他職の防具も見てきたから分かった。

脚以外はスチール等級。脚防具だけアイアン等級だ。



「……来ないのかい?」


「いや――今行く!」



再度斧を投擲――そして走る。

彼の防具の中、狙うなら『脚』だ。



「――らあ!」


「っと――」



悟られない様、胸部に攻撃。

それを避け――ハンマーを振り上げるベアー。



「――『クラッシュ』!」



彼の反撃の武技。


使い所は……今だ。



「――『高速戦闘』」


「おおっ!?」



ハンマーの一撃を避けながら、俺はそれを発動する。


三秒間、世界はスローに。

ここが――最大の機会チャンス、失敗は許されない!



「っ――『黄金の一撃』!!」



防御の隙を与えない、高速の一撃を彼の脚部へと。


悪いが、俺の武器が掛かってるんだ。

使える手段は、全部使う!



「――ううッ!?――――なんてね。キミなら、ココを狙うと思ってたよ」



彼の脚部へと吸い込まれていった一撃。

間もなく衝突……それなのに――彼は、笑っていた。



――まるで、それが『狙い通り』だったかのように。


ガラスが割れるような、そんな音と共に。



《100000Gを消費しました》



「――え?」



響くアナウンス。

今、確かに手ごたえはあったはず。


……それなのに、どうしてHPが一も減っていない?



「隙アリだねえ――『素材戻し』!」



黄金の一撃の衝撃も全く受けず、俺の隙にハンマーを振るう。

通常の武技よりも、ゆっくりと迫るそれ。


青色じゃない、のエフェクト。

ネフ太の武器を素材に戻した、そのスキル。


まずい。

これは――

この攻撃は、絶対に食らってはいけない!!



「――ッ!!」



《状態異常:装備使用不可となりました》


《一定時間対象の装備が使用不可となります》



鈍い音が、俺の手に持つへ響く。

そして――その感触が消えたのだった。

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