迅雷①
『プロゲーマー』。
大会や自身の配信等、多岐の方法でゲームによって金を稼ぐ者達。
そして――突如として現れた『RL』によって、彼らは爆発的に増える事になる。
その優秀なプレイヤースキルでトップをひた走り、時にはVR空間でのファンとの交流も。
様々な動画作成、また現実世界でもモデルや企業の広告にまで抜擢されたり。
『RL』が世界に浸透していく程、その者達も輝いていく。
……そんな、華のある、『特別』な者達。
しかし。
それに、違和感を覚えた者が居た。
『人は常に対立を求め、生み出す刺激を欲している』
その言葉の元――目を付けたのが、『PK職』という要素だった。
PVEではなく、PVP。モンスターではなく、人と人との戦闘。
彼のその考えは、多くの反感を買った。
RLでは正式なコンテンツだが……『PK』なんてモノは、『悪』でしかない。
ましてそれを使って金を稼ぐなんて事は。
……だが。
その『悪』は、多くの者を引き付けて行く。
例えば、実力のあるプロゲーマー達に勝負を挑み、もし勝てたのなら?
多数のパーティーに突入し、単身でその集団を壊滅させたのなら?
そんな迫力満点な動画を、『生配信』で見れたのなら?
……初めは受け入れられる事すら無かった。
しかし――その『対立』に魅了され、『刺激』を欲する者は加速的に増えていく。
プロゲーマーにも劣らない、対人戦闘のスキルを持つ者。
その者達が、『PK』を、『PVP』を本気でやれば――
『自分がやるのは嫌だが、他人がそれをやるのを見るのは好きだ』
『悪って良いよな』
『正直あのプロゲーマー嫌いだから、キルされて気持ちいいと思っちゃった』
『モンスターなんかより、プレイヤー同士の方が見ごたえあって面白いし……』
『意外とマナー良い奴が多くて惚れるんだよな。……ギャップって奴か?』
『何てったって、ドキドキする!』
やがて、その声は大きくなっていく。
やがて、それに金を投じる者が現れる。
やがて、それは次第に――大きなコンテンツとなっていく。
……『悪』側のプロゲーマーが続々と現れるのも、時間の問題だった。
PK、PVPの動画配信を主に行い、それが刺激的で面白い程、人々は金を投げていく。
また、PK職プロゲーマー同士のPVP大会イベント(賞金有り)や、素人への戦闘アドバイスなど。
逆を狙って、初心者狩りなどの迷惑者をPKし『義賊』を名乗る者も居た。
中には映像作品の悪役に抜擢されたり、そのPSを買われ武道の道に誘われる者も。
――しかし。
どんどんと大きくなったそれは、当然の様に過激な行為をする者も出て来る。
『有名プレイヤーへの決闘申請』。
対戦相手の知名度を利用し、真正面から打ち負かす事で――手っ取り早く有名になれるもの。
本来それは、『プロ』として相手の了解を得て行うモノだった。
だが――増えていった悪の中に、それを平然と無視する者が現れる。
……『蛆の王』も、その一つだ。
常に一人のプレイヤーを狙い、半ば脅しのような形でそれを行わせる。
そして運の悪い事に――『ニシキ』は、そんな彼らに見つかってしまった。
……ただ。
もしかすれば――運が悪かったのは、『彼ら』かもしれない。
☆
《決闘を開始します》
「見とけよお前ら!一瞬で終わらせるからなぁ!!」
「……」
後ろを向いて、画面のリスナー?にそう言うダスト。
武器も持たずに――まるでわざと隙を見せている様な――
……俺、仕掛けていいのか?
「あ?舐めてんのか?折角隙見せてやったのに」
……行っとけば良かったな。
PK職のプロゲーマーってのは、全員こんな感じなのか?
ここまで煽られてもあまり怒りが湧いてこないのは――商人としてこれまでやってきた産物だろう。
……良いのか悪いのかは分からないが。
「俺様が、こんなザコに負ける訳ねえだろ……ったく」
そんな台詞と共に、彼は『ポケット』に手を入れる。
チラッと――金属の光沢が見えた。
すぐに俺は、回避の準備を。
「行くぜ、おら!!」
瞬間、投擲のモーション。
ナイフの様な何かを、真っ直ぐに早く、正確に――
「っ――」
不意の一撃に、俺は少し遅れて回避。
その瞬間――
「おらあ!!」
「!?」
つい先程まで、かなり離れていたはず。
なのに――どうしてもう、俺の目の前に居る?
「ぐっ――」
「ハハハ!!遅えんだよ!」
小刀での素早い斬り付けに対応出来ず、そのまま受ける。
その後、一瞬にして距離を取るダスト。
HPは5%も減っていない。
威力は無いが、その代わりに反撃も何もできなかった。
これまでに会ったことの無い、『異常』な程のスピード。
まさか、これは――
「……AGI、極振りか?」
「あぁ?雑魚なりに鋭いな」
それについては、噂で聞いた事がある。
STR極振り。INT極振り。
極端な性能を求めたプレイヤーが行きつく境地。
それは最早、人間ではない。
そしてそれをコントロールするのも、並みの実力では出来ない事も。
「どんどん行くぜぇ!!」
「くっ――」
ジグザグに俺に向かって走り、到達すると同時に小刀を斬りつけられる。
減るHPバー。
……正直、目で追うのがやっとだ。
反撃か投擲で防ごうにも、彼の動きを予想出来ない。
理由として……そのスピードを持ちながら――彼は、あらゆる方向転換、タイミングをずらしながら俺に向かってきている。
己の位置を、タイミングを、容易に動かしているのだ。
「……これが、プロゲーマーか」
「あー?もう諦めたのかよ、つまんねーの」
「はは、そんな事はないさ」
面白くなさそうな彼に、笑ってそう返す。
ああ――本当に、楽しい。
こんな状況でも、傍から見れば見苦しいモノでも。
プレイヤーとの戦闘ってのは、どうしてこんなに楽しんだろうな。
☆
「……テメエ、舐めてんのか?」
アレから、ダストのHPは一度も削れていない。
対する俺のHPは――既に、半分を切った。
「……」
集中を解かぬ様、俺は何も返さない。
返事代わりと言っては何だが――目を、瞑った。
「チッ――テメエ、ふざけんじゃねえぞ!!」
怒りを露わに、先程と同じく猛スピードで来るダスト。
同時に閉じていた目を開ける。
……本当に、掴むまでに時間が掛かってしまった。
『あの時』。
経験は、決して裏切らない。
少し前――感知スキルが効かない弓使いが現れた時と、同じ様に。
深呼吸。しんしんと雪が降り、冷たい風が当たる今。
感じるんだ。
その中の――異質な『ソレ』を。
「――ぁあ!?」
向かう彼の攻撃を、俺は斧で出迎えた。
瞬間、飛んでいく小刀。
堪らず、ダストは距離を取り――すぐさまにポケットから新しいナイフを両手に取り出す。
「……チッ、良い気になるんじゃねえぞ――『スプリント』、らぁ!!」
彼がその言葉を発した直後、両手から二本の小刀を投擲。
『スプリント』――過去にも見た、AGIが増加するスキルだ。
更にスピードが上がったそれが、俺の胸に向かって飛んでくる。
加えて、彼も同時に俺に向かって走る。
「――」
……本当に、DEXに振っていないのが不思議な程に正確な投擲。
矢よりも早く、それでいて二本の同時攻撃か。
――でも。
「つッ――!?」
突っ込んで来た彼が、『止まる』。
「……来ないのか?」
それは、二体のバーバヤーガを相手した時の様に。視界の中、投擲された小刀を最低限の動作で避けながら――じっと、彼を見ていた。
来たら、『殺す』。
そんなありったけの殺意を込めた視線。
向かってくる彼に――俺は、一切その目を離さなかった。
投擲された小刀に気を取られている内に、持ち前のスピードで接近、襲う戦法。
もう、それは通じない。
「――うるせぇ!」
さて。
動じて止まってくれたのなら結構。
……俺も、大分身体が暖まって来た所だ。
「おいレッド!!『使う』ぞ、良いんだな!?」
「……構わない。まだ見れていないからね」
不意に、そんな会話を繰り広げる彼ら。
……今襲えってのも、一理あるだろう。
――でも、それじゃ勿体ない。
こんな機会……滅多にないんだから。
楽しまなきゃ、勿体ないだろう。
「……おい、ザコ。お前何かには勿体ねぇが――お披露目してやるよ」
「はは、ああ」
「――チッ……行くぜ、『雷脚』!!」
その詠唱と共に――彼の足に、『電気』が走った。
緑と黄が混じり、バチバチと光っているそれ。
……楽しみで仕方がない。
ダスト。
次は一体、俺に何を見せてくれる?
「おらぁ!!」
ナイフを投擲――そして走る彼。
それ自体は、これまで見て来た動作そのもの。
しかし――その速さは、まるで違う。
「っ!?――ぐっ!!」
「ハハハハハ!!死ね!」
ナイフはギリギリ避けれたものの、ナイフの斬り付けは食らってしまった。
『電光石火』という言葉が、今の彼にはピッタリだろう。
まるで二倍速。
雷を纏ったその足は、彼のAGIを有り得ない程に上昇させていた。
「おらぁ!!」
斬り付け後――距離を一瞬取り、また間髪入れず攻めるダスト。
「――『ダブルエッジ』!!」
AGIがここまで上がった今、武技の隙もほぼ無い。
予想通り、初めて発動されるそれ。
……この攻撃は避けない。
ダメージは、過去の情報から分かる。
俺は――この攻撃で、二割程度まで減るだろう。
「――ぐっ……」
「ハハハハハ!!ザコが調子乗ってんじゃ――」
武技をまともに食らい、俺のHPは丁度二割。
対するダストは未だダメージ無し。
『AGI極振り』。
そして更に、AGIを異常な程にまで上昇させる『雷脚』。
そのAGIを最大限に生かしている彼。
加えて、正確な投擲術。
『プロゲーマー』として、申し分無い強さ。
……ああ。
本当に――
楽しくて。
楽しくて。
楽しくて――仕方がない。
「……あ?」
それに、彼は気付いていただろうか。
投擲、斬り付け、スプリント、雷脚を発動してからも。
俺が――これまでずっと、『ダメージを右腕で受けていた事を』。
……いいや。
気付いていたとしても、コレが分かる訳が無いか。
《状態異常:部位欠損となりました》
流れるアナウンス。
結局、ここまでしてやらないと――俺の左腕は、目覚めてくれないらしい。
☆
『状態異常:部位欠損』
決まった部位に一定以上のダメージを受けた場合発動する。
一定時間その部位は力が抜け、武器が装備出来ず、アイテムも使えない状態になる。
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