第68話
「ひ、ひひひ、ひひひひひひっ」
マルガは首があらぬ方向にまがったまま、謎の笑い声をあげている。
「お、おおおい! マ、マルガ! お前、首が!」
仲間だったはずの男のそんな姿を間近で見てしまったテリオスは目を見開いてわかりやすく動揺している。
「……ちっ!」
リツは、それを確認した瞬間、剣を抜いてテリオスたちを拘束している縄だけを全て斬る。
「お前たち、逃げろ」
明らかになにかがあるこの状況で、彼らを拘束しておくことは足引っ張られることになると判断し、リツは彼らに逃げるよう告げた。
「レイス!」
「承知しました!」
名前を呼んだだけで彼は全てを察して、ダークエルフたちを安全な場所に誘導していく。
「さてさて、もうこいつは闇の魔力に飲み込まれているのか?」
リツがフェリシアに質問すると、彼女が険しい表情で頷く。
「じゃあ……俺が倒してやらないとだな」
勇者だったころの面影をにじませたリツは既に剣を構えている。右手の聖剣に光の魔力を込めていた。
『リ、リツ、それって!』
フェリシアが驚いたのは、左手に構えている魔剣を見たためだった。
「あぁ、これは俺の新しい力だよ。魔剣に闇の魔力を込めてもらったんだ」
『きゅー!』
そう口にするリツの肩口からひょっこり顔を出したのはダークルだった。
ここまで、ダークルはずっとリツに教えてもらった方法を続けて魔力を増強していた。
そのかいあって、リツの魔剣を十分に覆うほどの魔力を使うことができている。
それに対してマルガは身体から闇の力が噴出して、異形へと姿を変えていく。
ダークエルフの身体から不気味な鱗があちこちに噴出し、爪も伸びてぎょろりとむき出しになった目は異様な雰囲気を漂わせている。
「そそそそ、そんな、ちち、ちからなぞ、ききき、きくわけががががが、ないいいいいい!」
ガクガクと調子の悪いおもちゃのような動きをしながらリツに向かってくるマルガはもうまともに言葉を話せていない。
「こいつは……なかなか面白いな」
リツはマルガの変化に興味を持っていた。
似たような闇の力を持っている相手と戦ったことがあるため、もしかしたら同じ根源ではないかと推測している。
「リツさん、どうします?」
自分はどう戦えばいいかを質問する。
「そうだな……こいつとは直接戦いたいから、フェリシアと空から援護してくれるかな?」
「わかりました!」
『頑張って!』
リツの指示に従って二人は上空へと移動していく。
「ふう、それじゃやるか」
「ガアガガガアガガア!」
リツが再びマルガに視線を向けると、彼は完全に闇に飲み込まれていた。
ダークエルフにはそぐわない太くてねじ曲がった角が二本生え、肌は紫色になっており、まるで鬼か悪魔のような姿だ。
身長もリツの倍以上に伸び、およそ五メートルほどはあるように見える。
「それがお前の本来の力、もしくは黒幕がくれた力ってところか」
遠くでマルガの姿を見ているエルフ、ダークエルフは震えて言葉を発することができずにいるなか、リツは冷静にマルガの力を確認している。
(あの角が魔力の起点になっているのか? まるで操魔の魔王みたいだな……)
以前倒した魔王の一角である操魔の魔王も同じように角に強い力を持っており、それを叩き斬ることで倒した。
そうなれば、今回もそれでいけるのか? とリツは狙いを角に定めることにする。
「――ふっ!」
まずは地面を蹴って飛び上がると、マルガの懐に入り込んでいく。
「ガガガガア!」
もう人の言葉をしゃべることすらなくなったマルガが獣のように反射的な動きで、リツの進行方向に闇の波動を放って行く手を遮る。
理性がなくなったように見えるが、状況は理解しているようだった。
「おー、なかなか考えてるけど、ダークル吸収!」
リツは闇の波動に向かって魔剣を突き出す。
『きゅー!』
すると、魔剣を通してダークルが闇の力をみるみるうちにすべて吸収していく。
『けぷ』
どうやら、これは食事のようなものであるらしく、全て吸収したダークルは満腹そうに腹を膨らませている。
「ガガ!?」
自分の力が吸収されてしまったことにマルガは驚いている。
そして、力を得たダークルはというと、サイズが変化していた。
「重さは変わらないけど、なんかサイズがかなり大きくなっていないか?」
『きゅきゅ!』
リツの肩の上には収まりきらないため、隣をふわふわと浮遊しながらリツと並走している。
「元のサイズのほうが可愛くていい感じだったけどなあ……」
走りながらリツが不意にそんなことを漏らす。
『きゅっきゅきゅ!』
リツが寂しがっているならばこのサイズでいる意味はないといわんばかりに、すぐにダークルは吸収した魔力を圧縮して元の毛玉ボールサイズへと戻ってリツの肩へとおさまっていく。
「よし、それでこそダークルだ!」
その変化に満足したリツは、再び肩にダークルを乗せると速度をあげてマルガの懐に入り込んだ。
「せい!」
魔剣で身体を斬りつけると、そこからダークルが闇の力を吸い取ってくれる。
「グアアアア!」
ダメージはそこまで大きくはないが、マルガは力が抜けるのを感じており、リツを引きはがそうと爪をふるう。
「おっと」
それは再び魔剣によって防がれることとなる。
圧倒的なまでの存在感を放つマルガを相手にしていながら、リツからは焦りや危機感などはみられず、相手の様子を探るようにじっくりと動きを確認して回避していた。
「はは、なかなか強いな」
マルガが腕を振り下ろすと、闇の波動が放たれてその先の地面が陥没していた。
その攻撃力を見てなかなか強いとリツは評していた。
しかし、全ての攻撃が一撃必殺ともいえる威力であるため、遠くから戦いを見ているエルフたちは気が気ではない。
「さて、魔剣で力を吸い取るのはわかったから……今度はこっちかな」
ここまでリツは攻撃を防ぐのも、攻撃をするのもダークルの力を使っている魔剣でしか行っていない。
これだけ闇の力に特化した相手は久しぶりであるため、聖剣で斬りつければどうなるのか少し楽しみで、リツの口元に笑みが浮かんでいる。
「それじゃ、元勇者の力……見せてやりますか!」
リツは気合十分な顔で聖剣を持つ手に力を込めて、光の魔力を伝えていく。
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