第65話
「あんたで最後みたいだが……やるのか?」
リツは冷たい視線を立ち尽くしている男に向ける。
「くっ――俺はあいつらよりも強い。貴様ごときに負けるはずがないだろうがあああ!」
一瞬リツの睨みつけに身体をびくつかせた男だったが、覚悟を決めたのか、槍を持ち、リツへ向かって走りだす。
(槍か……。エルフにしてはなかなか珍しいチョイスだけど、悪くないな)
中距離で戦闘を行える槍は、接近戦においてかなり有用な武器であり、素早い突きによる攻撃は隙が少ない。
それに対してリツはいつの間にか剣を一本収納しており、魔剣のみを手にしている。
槍と剣では武器のリーチが違う。
「それそれそれええええ!」
決死の覚悟を持って近づいてきたエルフのしなやかな筋肉で素早い突きが次々に繰り出されていく。
「そらそらそらあああああ! ははっ、手も足もでないじゃないかぁっ!」
次第に高揚してきた男の言葉通り、リツは攻撃を全くしておらず、淡々と男の突きを剣で受け流し続けている。
「――はあ……この程度か。先に倒したやつらより強いっていうからどれほどのものかと思ったけど、大したことないな」
興奮交じりの男に対して、リツの気持ちは冷めきっていた。
強いというから一応の警戒をしてはいたが、リツからしてみれば男も他のダークエルフも同レベルだったからだ。
「この、負け惜しみおおおおお!」
自分の力を馬鹿にされたと思った男は顔を真っ赤にし、ここぞとばかりに突きの速度を上げて、雨のようにリツへと降らせていく。
「だから、こんなものかと言っているんだよ!」
少し早くなったくらいでは何も変わらないと言い切るようにリツは大きく横に避けると、槍が戻るまでの間に剣をふりおろして槍を中間あたりで叩き斬った。
「……なっ!?」
男が槍を斬られたことに驚いている一瞬の間に、リツは懐に入り込んでいる。
「他のやつら同様、殺すのだけはやめてやる。だが、次に顔を見せたら――わかるよ、な!」
最後の一文字とともに、気絶狙いのリツの拳が男の腹に撃ち込まれた。
「が、がはあ、あああ……」
男は身体をくの字に曲げて、そのまま前方に突っ伏すように崩れおちていった。
「やれやれ、余計な時間を使ったな。さて、奥に向かおう」
リツはダークエルフの集団を打ち倒すと、急ぎ足で村の中心部へと走りだしてった。
途中でエルフとダークエルフが戦っている場面に出くわすと、ダークエルフを即座に気絶させてエルフに縛り上げさせていく。
そして、世界樹のふもとにやってくると、そこには村長のレイスが他のエルフを率いて、ダークエルフの集団と対峙していた。
「レイス、大丈夫か!」
「……リツさん! 私たちは大丈夫です!」
リツが帰ってきたことに驚いているようだが、レイスには見たところ大きな怪我などはない。
既に戦いは始まっていたが、レイスは実力者であり、一方的にやられるというところまではいっていないようだった。
「ふん、人族ふぜいがいったいこんな場所になにをしにやってきた?」
突然割り込んできたリツを見て不機嫌そうにダークエルフが鼻を鳴らす。
相手のダークエルフは、腰に魔力のこもったレイピアを、背中には魔力のこもった弓を身に着けており、他のダークエルフよりもランクが上であるように見える。
「俺はここのエルフたちとは友人だ。そんな彼らの里が襲われていれば、かけつけるのは当然のことだろ? そんなことよりもお前たちはダークエルフみたいだが、なぜこのような非道を行える!」
ダークエルフは今も村の色々な場所で木々を燃やし、生活環境を奪おうとしている。
「非道、だと? ……貴様、どこの誰か知らんが、このエルフどもがなにをしていたのか知っていて言っているのか? こいつらは、神聖なる世界樹を占有し続けたのだぞ!」
「――占有?」
リツはエルフの里がどんな状況にあったのかを知っており、決して彼らは占有していたなどという事実はない。
ゆえに、彼の言葉に首を傾げてしまう。
「いや、ここは原生林になっていて、世界樹も巨大化していたんだぞ? それに巻き込まれて、エルフたちは樹上での生活を余儀なくされていたんだ」
このリツの言葉に、レイスをはじめとするエルフたちは頷いている。
「その巨大化を行ったのはエルフの者だ! 自分たちだけが世界樹の恩恵に預かるためにそのようなことをしたのだというのがわからんのか!」
この指摘にはリツも一瞬考え込んでしまう。
実際に、そのような状況を引きおこしたのはエルフであるソルレイクの仕業である。
なぜそうしたかはソルレイクの胸の内にしまわれていたことだったため、他のエルフから見たらそう感じるのも無理はないかもしれないとリツは冷静に考えた。
「……仮にそうだとして、一つ気になるんだけど……なんでそれが世界樹の占有で、恩恵に預かることになるんだ? 別に樹上にいたとしても、生活する場所がかわっただけだと思うが、あんたたちだって世界樹のところに来ればよかったのに」
世界樹はデカくなっただけで、ここに今も昔もずっと存在している。
だったら、ここに来れば世界樹に出会うことができるのではないか? というのがリツの考えである。
リツは実力で登って見せたため、特に交流等に不具合が発生するとは思っていなかった。
「くっ……! なにも知らないくせに調子のいいことを! この森がどんな状況にあったか知らないから言えることだ! あの状況でどうやって世界樹にたどり着き、上に登れと言うのだ!」
ダークエルフは自分たちにこれまでできなかったことを平然と口にするリツへのいら立ちがどんどん募っていく。
この言葉を聞いてるレイスは頬をかきながら苦笑している。
リツの普通は他の人からすれば普通ではないのだということをわかっているからだ。
「いや、普通に外から見て世界樹がある方向はわかったし、そのまま真っすぐ進めばいいだけじゃないか。それに登るのだってジャンプしていってもいいし、幹を登って行ってもいいし、精霊か魔物を呼び出せばいいんじゃないか?」
「黙れ! 先ほどからできもしないことをペラペラと部外者が話しおって! まずはその小僧から倒すぞ!」
だがそれを知らないリツは自身もやったことをただただ説明していくが、これがダークエルフたちの不評を買うことになり、怒りの矛先がリツに集中していく。
「ふう、入り口のほうにいたやつもそうだが、ダークエルフというのはなかなかに人の話を効かない種族なんだね……いいよ、俺がお前たちの相手をしてやる。レイス、手は出すなよ!」
「もちろんです!」
こうして、ダークエルフの突入組とリツとの戦いが始まった。
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