第57話
『こっちだ』
先を歩くゴーレムは時折罠を避けるように歩きながらリツたちを案内していく。
そのため、真っすぐ進むことなく、蛇行したり、直角で曲がったり、数秒立ち止まったりと不規則な進路をとっていた。
しかもその回数はとめどなく、ゴーレムがいないといちいち確認して歩かなければならないほど罠が設置してあるようだった。
「……ゴーレムがいなかったらやばかったかもな」
罠があると言っていたが、さすがにここまでの量が仕掛けられているとは思っていなかったため、リツの頬を汗がつたう。
「すごい、ですね……」
緊張した表情のセシリアもゴーレムのルートどりに驚いていた。
そして、ゴーレムを完全に倒してそのまま進んでしまった場合の危険も実感している。
『この罠は、我の単眼で確認することができる仕組みになっている。魔法を極めていれば魔力感知でも確認することができるとソルレイク様はおっしゃっていた』
事実ゴーレムの目には、それらがどこにあるのかしっかりと映っているようだった。
そして、リツはゴーレムの言う魔法を極めていれば――という部分が気になって魔力を自らの目に集中させていく。
「ん……おー、確かに見えるな」
かなりの量の魔力を目に集めることで、リツの目にもソルレイクが仕掛けたはずの罠が映っていた。
ゴーレムがどう避けてきたのか、ソルレイクの罠がどれだけ設置しているのかを知って内心げんなりしている。
『……なんと、そんなたやすくできるようになるとは……』
これまで長い間ここの守りを任せられており、罠を看破する能力は自分だけのものだと思っていたゴーレムはショックを受けたように固まっていた。
「まあ、ソルの仲間だからこれくらいはね。俺は元々魔法の才能があったらしくて、ソルが色々助言をくれたんだよ。あとは、封印されていた間も魔力をふやそうとしていたせいで魔力が増強されているみたいだ」
『ふむ、それだけのことができるなら、この先も無事に行けるかもしれない』
リツの言葉を聞いて考え込むように黙った後、ゴーレムは意味深な言葉を口にする。
「それはどういう……」
意味深な雰囲気を感じ取ったリツが訝しげな表情で質問するが、ゴーレムは振り返って元の道を戻って行く。
「おい、ゴーレム!」
無視されて困惑したリツが引き留めようと声をかけるが、まるで聞こえていないかのように、ゴーレムは黙ったままスタスタと戻って行ってしまった。
「リツさん、ここ! 地面に魔法陣が記されています!」
セシリアが指さした先には、先ほどゴーレムが最後に踏んだ地面に、魔法陣が描かれていた。
「……なるほどな。これには帰還の魔法が組み込まれているみたいだ。これを踏んだことで、ゴーレムは元の場所に戻るよう動かされたんだな」
それが急にゴーレムが無言になって戻って行った理由だった。
話してみると意外とフレンドリーだったため、まるで命があるかのように思われたが、やはり無機生物としてソルレイクに作られたことがわかる。
「ここからはゴーレムさんの案内なし、ですね」
先ほどまでの道に多くの罠が仕掛けられていたことを考えると、セシリアは酷く緊張してしまう。
「だね……見た感じ、ここから奥には今までのような罠はなさそうだけど、セシリアも罠を見られるくらいになっておいたほうがいいかもしれないな。練習がてら振り返ってみよう」
リツは自身の目に魔力を集中させることで、隠された罠を確認できている。
ここから先も多くの危険が待ち構えている可能性を考えて、それをセシリアにもできるようにしてもらいたかった。
「わ、わかりました! えっと、目に魔力を集めるんですよね?」
「そう、ゆっくり……ゆっくりでいいよ」
緊張の面持ちでセシリアが魔力を集めるのを感じて、リツは慌てないように指示を出していく。
魔力操作は細かい場合ほど難しく、そこで急いでしまうと身体へと負担がかかってしまう場合がある。
セシリアは以前も暴走してしまったことがあるため、ゆっくり行うように話していく。
「は、はい……すー、はー」
身体に力が入っていたことを認識したセシリアはゆっくりと深呼吸をすることで呼吸を整えていき、目を閉じて魔力の流れを改めてじっくりと感じていく。
するとゆっくりとセシリアの目に魔力が集まっていき、淡い色を放つ。
「そう、いい感じに目に集まってきたね。そうしたら、今度はその魔力を視力にじゃなく、感知に回していくんだ。この違いは感覚だから難しいんだけど、そうだなあ……夜に外で周りを見る時って、視力を良くしようとするんじゃなくて、暗さになれようとするだろ? そういう違いかな」
リツはなるべくわかりやすいようにたとえるための言葉を選ぶ。
リツ本人は感覚でつかんでしまった部分のため、果たしてこれが言葉として正解なのかはわからないが、なんとか伝わって欲しいと思いで話している。
「なんとなく、わかる気がします。感覚の違い、ですね」
完全に理解できているわけではないが、それでもセシリアは自分の中でイメージしながらさらに魔力を目に流していく。
(遠くを見ようとするのではなく、そこにあるものを視ようとするための補助……)
頭の中でリツの言葉を何度も復唱し、セシリアは意識を集中していく。
するとぼんやりとしていた光が集束して、ゆっくりと彼女は目を開いた。
ここからはリツも声をかけない。
いい方向に向かっているのは彼女から伝わってきている。
あとは、彼女がその感覚を掴めるかどうかにかかっていた。
「――あっ!」
魔力を目に込めながら見るという感覚自体が初めてだったため、普通に見るときとの視界の違いに小さな声を上げる。
「リツさん、わかりました! こんなに色々な罠が仕掛けられていたんですね……」
見えるようになった途端、どれだけ危険な道を歩いてきたのかがわかったセシリアは背筋が冷え、思わず息をのんでいた。
「見えるようになれば、これを回避することができる。それがまず一歩目かな」
「はい!」
リツの言葉に素直に返事をしたセシリアは見えるようになったことで、先ほどまで怯えていたこの先の探索が楽しみになっているのを感じていた。
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