第55話
黙っていたゴーレムの単眼の目は確実にリツたちのことを捉えており、そう認識した次の瞬間には赤く光始めた。
『――侵入者とみなし、排除する』
怪しく光った目に警戒していた二人の耳に届いたその一方的なゴーレムからのメッセージは、リツとセシリアを完全に敵対視しているものだった。
「セシリア、構えて!」
リツは剣を取り出して構えながら、ゴーレムの力ある者という問いかけに何の意味があるのか考えている。
「はいっ!」
これまでにも何度か魔物との戦闘を経験してきたため、セシリアもすぐに戦闘モードに切り替えて弓を構える。
「とりあえず、俺が攻撃して……」
みようか、と言いかけたところで、ゴーレムの動きに違和感を覚えたリツは動きを止める。
「まずい――セシリア、回避!」
赤く光っていた目の光が更に強くなったことで、咄嗟にリツは横に飛ぶ。
「は、はい!」
訳はわからないが、リツが言うのならとセシリアもそれを聞いてすぐに横に飛んだ。
すると、ゴーレムの目から太く赤いレーザーがすさまじい勢いで真っすぐにとんでいき、先ほどまでリツたちがいた場所を通り抜けていった。
一直線に突き抜けていった地面は真っ黒に焼き焦げて、ぶすぶすと音をたてている。
「おー、レーザービームか。これはなかなか……」
これも恐らくはリツの地球での話を聞いて、ソルレイクが開発したものであると予想できた。
地球のマンガで見た攻撃方法を語った時のことを彼は覚えていたようで、それをゴーレムに取り入れていた。
「って……わあ! 連続はないだろう、が!」
一発目を発射したゴーレムは、すぐに次の魔力を装填してリツを狙い、間髪入れずに二発目のレーザーを放つ。
しかし、リツは驚きながらも難なく剣に魔力を込めてその攻撃を受け止めた。
「せい!」
そしてリツに攻撃が集中した瞬間を狙って、セシリアが魔力矢を放つ。
狙ったのはゴーレムの眼。
攻撃にも使っているが最も露出している場所であるため、弱点の一つであると判断している。
しかし、それはゴーレムに感知されており、首を動かしたゴーレムのレーザーによって破壊されてしまう。
攻撃を回避できたと思ったゴーレムだったが、身動きが取れないことに気づく。
先ほどのレーザー攻撃が連射できることを知ったセシリアは複数矢を同時に放っており、一射はわかりやすく目に、二射目もわかりやすく目に、そして三射目は左腕の関節部分を狙っていた。
『ぐ、ぐぐ、動かない……』
避けきれずに攻撃を喰らってしまったゴーレムは関節に突き刺さった矢を引き抜こうとするが、魔力で作られた矢が、更にセシリアの魔力でコーティングされているため掴んでもびくともしない。
「――そっちに気をとられてていいのか?」
『!?』
すぐ近くからリツの声が聞こえてきたため、ゴーレムは慌てて声がした場所に動く右の拳を振り下ろした。
もちろん、がむしゃらにただ腕を振るっただけのそれは何もない宙に空振った。
「てやああああ!」
ブンッと強く振られたゴーレムの拳を避けて間合いを詰めたところで、リツは思い切り剣を振り下ろした。
狙ったのは右足。
セシリアが狙った関節ではなく、太い部分を狙って力を込めた一撃を繰り出した。
キーンという、高い金属音が周囲に響き渡り、折れた剣先が離れた地面に突き刺さった。
『おみごと……我が装甲を真正面から断ち切るとは……』
リツの剣は折れてしまったが、魔力で強化していたが、本来これは一般的な鉄の剣であり、折れても構わないと思っていたものだった。
そして、剣としての役目を終えたが、硬い装甲をもつゴーレムの太ももの中央あたりまで斬りこんでいた。
「まあ、こんなところか……」
「リツさん!」
冷たく吐き捨てたリツが半分で欠けてしまっている剣を持ってゴーレムに近づくのを見て、後ろにいたセシリアは最大限の警戒をはらって弓を構えている。
「大丈夫だって、ほらセシリアもこっちに来て」
ずっと警戒しているセシリアに向かって見えるようにゴーレムに手を触れて、安全であることをふっと笑ったリツがアピールする。
「……えっ? だ、大丈夫なのですか?」
追い打ちをかけると思っていただけに、きょとんとしたセシリアは、それを見て弓を下ろすと、恐る恐る近づいていく。
『汝らは私の問いに力を持って応えた。力ある者ならば受け入れよう』
動けなくなったゴーレムは淡々とした口調で二人に対してそう言ってくる。
最初に『汝らは力ある者か?』とゴーレムが質問していたことを覚えていたリツは、これで十分その答えを見せたと思って攻撃を止めていたのだ。
「えっ? あっ、そうでした、最初に言ってましたね……もしかして、私たちが黙っていたから攻撃してきたんですか?」
最初から答えていればこんな騒動にはならなかったのではないかと、セシリアは肩を落としている。
『いや、答えが力ある者であっても実力を試させてもらった。力なき者だと答えれば、力無き者は追い出す決まりになっている』
「あ、あはは……」
どちらにしても、どの選択肢を選んだとしても戦うことになるのは決まっており、その答えを聞いたセシリアは乾いた笑いが漏れ出ていた。
「それで、俺たちが力ある者だとわかったようだが、どうするんだ?」
まだ戦いの続きをやるのか、案内をするのか、力が足らないと断じるのか――その答えがリツは知りたかった。
『力ある者にはこの奥に立ち入る資格があるとソルレイク様が言っていた。だから、真っすぐ進んでいくといい』
ゴーレムの後ろにはさらに奥へ進む道が開通し、先に進むことを許可されたのだとわかる。
これを聞いて、リツはニヤリと笑う。
「あー、やっぱりソルが作ったんだな。そもそもこのダンジョンにいて、しかもレーザー使っていたからわかってはいたけど、改めて聞くと嬉しいもんだな。あいつの作ったものに会うのは」
この世界のゴーレムにはリツが話したアイデアが取り入れられており、それを作ったのが仲間というのはどこかくすぐったくもあり、嬉しいものだった。
『ソルレイク様のことを知っている者に出会えるとは思わなかった……少し待ってくれれば自己修復機能が働いて動けるようになるはず。それを待ってくれるならこの先に我が案内しよう』
「あぁ、頼む」
リツはゴーレムの提案に迷わず即答した。
しかし、ここまでのやりとりの間、セシリアはずっと沈黙を貫いていた。
「…………って、なんでリツさんは普通に受け入れているんですか! ゴーレムですよ? ゴーレムが話せて、自我があって、しかもすごく流暢なんておかしいじゃないですか!」
混乱した様子の彼女はツッコミたいことだらけであり、我慢できないといったように不満をぶちまける。
「うーん……まあ、ソルだから?」
『うむ、ソルレイク様だからだな』
怒っているセシリアから互いを見たリツとゴーレムの意見は同じものだった……。
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