第2話 再召喚
「それではみなさん、こちらへどうぞ。謁見の間へとご案内します」
「「「は、はい」」」
同じ学校の三人は、緊張しながらも抵抗なく執事長に返事をする。
「……お願いします」
リツも怪しまれないようにと、一瞬遅れて返事をした。
多少の遅れであったため、まだ戸惑いがあるのだと周りに判断されるに留まる。
四人が召喚されたのは地下の儀式の間であり、長い階段を上っていくことになる。
(さて、このままだと恐らくは勇者として世界を救ってほしいというような流れになるはずだ。それだと俺もこいつらと一緒にやらないとになる……それだけはなんとしても避けないと!)
リツは考えながら謎の空間で聞こえていた女神の言葉を思い出していた。
『ごめんなさい、ここからあなたを出すだけで精一杯なのです。どうか、次は、自由な、人生を……』
自由な人生を、という言葉にリツは心惹かれていた。
勇者として生きてきた前回の旅は決してつまらないものではなかった。
だが、勇者として規律を守り、人々の模範となり、魔王を倒すためだけに進む旅はおよそ自由とは程遠かった。
(今度こそは、俺はこの世界を楽しむ!)
それをリツは今回の召喚での最大のテーマとして心に秘める。
これを達成するためには、まずは現状の把握……そして、早くここから逃げ出すことが先決だった。
(……にしても、魔王は俺が倒したと思ったんだけど、まだ生きていたのか? もしかしたら倒しきれなかったのか?)
勇者であった自分がとどめを刺したなら魔王はいないはずなのに、なぜ彼らが勇者を召喚しようとしたのか。
その理由を知らなければならない、そしてこの国がどこなのかも……。
わからないことだらけの今、これから行われるであろう王との謁見において、その謎を少しでも解き明かそうと考えていた。
そんなことを考えているうちに、四人は謁見の間の前に到着する。
「みなさま、この部屋の中には王、姫、大臣、そのほか貴族の方々や騎士団長などがおられます。みなさまは国賓級の扱いになりますが……くれぐれも失礼のないようによろしくお願いします」
執事長はそれだけ告げると、一礼をしてどこかへといってしまった。
「それではみなさま、扉が開き次第、中へとお入りください。騎士たちが並んでいますので、その一番奥のあたりで止まって頂ければと思います。それでは……勇者のみなさまのご入場!!」
扉の前で待機していた衛兵が声をあげると、扉が開かれていく。
開け放たれた扉の先では、長い赤をベースにして金の糸で刺繍がなされたカーペットが王座まで一直線に引かれ、そのわきには騎士と思われる人たちが整列していた。
王座には先ほど会った王が座っており、その隣には姫が立っている。
リツたち四人が来るのを万全の態勢で待っていた。
「お、おぉ、なんだかすごいな……」
慎吾は未だ物語の世界を傍観しているかのように思っており、自分が迎え入れられていることに実感がなかった。
「ほら、慎吾。さっさと入るわよ!」
結は状況説明までなかなかたどり着かないことにイラつきを覚えており、足を止めている慎吾にやつあたりとも思えるようなツッコミをいれている。
「あ、あう、ゆ、結ちゃん、そんなに急かさなくても……」
そんな彼女のことをかなたがオドオドしながらも注意する。
「いいのよ! でも、怖がらせたならごめんね」
慎吾には強気な態度の結も、かなたには優しい。
(なんだかんだバランスのいい三人なのかもな)
最初は初々しさと危うさしか感じなかったリツだったが、三人への印象が少し変わってきていた。
部屋の中を進む四人は、扉の前で注意指示されたとおりに一番奥の騎士のあたりで立ち止まる。
王までの距離はおよそ五メートルはあった。
「ふむ、よくぞ来た。改めて我々は汝らの召喚を歓迎しておる。私はこのアルバシュタイン王国の王である、ダーグル=フォン=アルバシュタインだ。こちらは汝らを召喚した娘のエレナである」
「エレナでございます」
王座にいるダーグル王が自己紹介をし、先ほどとは違う薄い黄色をベースとしたドレスを身にまとったエレナが隣で優雅に礼をする。
「ふわあ、本当のお姫さまだ……」
豪奢なドレスを身にまとったエレナにぼーっと見入ってしまっている慎吾は近くにいる三人にしか聞こえない大きさでそんなことを呟いた。
地下で会った時には疲れた表情をしていたエレナだったが、今はそんな様子は出さず、彼女本来の笑顔を見せており、その穏やかさ、優雅さ、気品はまさに姫そのものだった。
「もう、鼻の下を伸ばさないの!」
結による肘での鋭いツッコミが入る。
「もう、慎吾君ったら……」
これにはかなたも同意であり、軽く彼の背中を突いていた。
「ふふっ」
そんな様子を見たエレナは仲がいいのだなと、微笑んでいた。
「――コホン。話を続けさせてもらおう」
一瞬、空気が弛緩したがダーグルが話の流れを戻していく。
彼の話では、この世界には七人の魔王を名乗る者がおり勢力争いをしているとのことだった。
七人は互いに領地をもっており互いの領地を広げようとしている。
その戦いに各地の王や領民が巻き込まれている。
魔王たちを倒すために、この国では古の勇者召喚の技法を復活させて、ここに四人の勇者を召喚することに成功した。
召喚された勇者は、女神の加護によって特別な力を得ることができ、それは勇者という名に相応しいだけの強力なものであるといわれている。
「で、でも、俺にそんな力があるとは……」
「う、うん、確かに……」
「こ、怖い……」
慎吾たちは顔を見合わせて自分たちにそんな力はないと確認しあう。
知り合いではないリツは少し離れた位置で、無言で彼らに同意しているように見せている。
「過去に召喚された勇者も最初は同じようだったが、特別な力が開花していき、素晴らしい活躍をしたそうだ。汝らが不安なのもまだ自分たちの力を知らないからだろう……大臣、アレを彼らに渡してくれ」
「承知しました」
大臣は王に返事をすると、リツたち四人各人に薄い板を渡していく。
「これはみなさまの力を計る魔道具でございます。このように両手で持って、【力を】と声に出し、この板に力を流しこむよう意識してみて下さい」
三人はなんだかわからないが、そういうなら、と力を籠める。
怪しまれないようにリツはそれにならう演技をしながら続いた。
「「「「力を」」」」
四人全員がほぼ同時にそう唱え、力を魔道具に流していく。
するとすぐに魔道具が淡く白い光を放ち、それぞれの結果を映し出した。
「それではみなさま、順番に表示された内容を読み上げて下さい」
大臣の指示に頷くと、慎吾から順番に読み上げる。
「えっと……シンゴ=ヒノ、光の勇者、選ばれし者、剣聖、光魔法、聖剣技……」
それを聞いた部屋の中にいる者たちは驚きからざわめき始める。
「これがあたしの力なの? ユイ=カザマ、力の勇者、選ばれし者、拳聖、魔闘技、火魔法……」
続いて結が自分の能力を口にすると、ざわめきは強くなる。
「わ、わわわ、カ、カナタ=ミナカミ、知恵の勇者、選ばれし者、賢聖、属性魔法、付与魔法……」
三人目のかなたの番になると、歓声があがるほどである。
勇者というのは彼らの称号であり、勇者と名のつく称号持ちはそれだけで身体能力や魔力が相当量向上すると言われている。
その他にも彼らが口にした能力は、希少なものが多く謁見の間をざわつかせていく。
そんな彼らの視線は自然とまだ何も口にしていないリツへと集まった。
「えーっと、リツ=マサカド、――巻き込まれし者、剣術」
同じように名前、称号を読み上げるが、すぐにリツの言葉が止まる。
他の三人とはうってかわって大した情報も得られなかったせいで、空間が凍り付いたかのように静寂に包まれる。
「……えっ? ほ、他には?」
小さく響いたそれは誰の言葉だったのかわからないが、全員の想いを代弁していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます