第15話 巨人の増産

 クリスの瞬間移動テレポートで、俺たちは再びフリートベルク家の屋敷へと戻ってきた。

 ちなみに、エレオノーラの荷物を大量に抱えてである。一応見た目的にアウトなものばかりだから、俺も手伝って全部木箱の中に入れてきた。乾燥した腕とか液体の中に入っている脳とか、もう俺は何度吐き気を覚えたか分からない。

 スケルトン作ってて、人体には慣れていたつもりなんだけどなぁ。


「さて。そんじゃあたしは、ちょいと籠もらせてもらうよ」


「うす。お願いします」


「ああ。アンタが満足する指揮官を作ってやる。安心しな」


「はい」


 俺はその間に、自分のできることをやっていこう。

 ひとまず必要だった、スケルトンの兵団は完成した。その指揮官はエレオノーラが作ってくれる。

 そして残る作るべきものは、兵器である巨人のスケルトンだ。今のところ操ることができるのは俺だけだが、これを数体用意しておけば、いずれ誰かに操らせることで頼れる戦力となってくれるだろう。

 もっとも、その相手も選定が必要になってくるだろう。下手な相手に操らせることで、逆に危機を招かないとも限らない。本当に信頼できる相手でなければ、巨人のスケルトンは任せられないのだ。

 まぁ、一体はクリスとして。もう一体はエレオノーラ。あと信頼できる人間って誰がいるだろう。アンドリュー町長は忙しいだろうし。


「んじゃ、またね」


「ええ。クリス、俺たちは山へ行こう」


「はい」


 俺の言葉に頷いたクリスが、小さく「てれぽーと」と呟く。

 本当に、何故ここまで大量の魔力があるのだろう。山の頂上からフリートベルク領まで飛んで、フリートベルク家の屋敷からエレオノーラの屋敷に飛んで、エレオノーラの屋敷から再びフリートベルク領まで飛んで、そしてもう一度山の頂上に向かうのだ。それで平気な顔をしているあたり、異常すぎる。

 フリートベルク領から帝都まで瞬間移動テレポートをしようと思えば、俺の最大魔力の五倍くらいは必要だと思うのに。純粋に、ここまでの道中だけで俺の最大魔力の二十五倍は使っている計算である。

 まぁ、考えても仕方ない。もう純血のアールヴってそういうものだと思うようにしよう。


 体が黒い靄に包まれると共に、俺たちの目の前にはスケルトンの兵団が広がった。


「うぉぉっ!?」


「……? どうしたの、ごしゅじんさま?」


「そ、そうだった、ここにスケルトンの群れいたんだった……」


 思わず驚いてしまった。そりゃ、転移した先にスケルトンがわらわらいたら、大体こんな反応になると思う。

 作ってほしいと指示したのは俺なんだけど。

 でも確かに、スケルトンの存在に慣れている俺でさえこんな反応だ。もしもスケルトンの兵団が目の前に現れたら、敵兵は恐れ戦くだろう。どう戦えばいいか分からないし。

 アンネロッテ曰く、このスケルトンの兵団こそが、俺を勧誘した目的らしいが――。


「さて……それじゃ、クリス」


「はい」


「今から、巨人のスケルトンを作ってもらう」


「はい。おおきいほね」


 フルカスの町の中央広場に建っている、巨人のスケルトン。

 正直、置き場がなかったから仕方なく中央広場に置いたというのが本音だ。割と町の住民たちには受け入れられているらしく、「右足の方で待ってるねー」とか「左足の方にいるよー」とか丁度いい待ち合わせスポットに使われているらしい。

 いざとなれば動くってこと、住民は知らないしな。


 俺はクリスに協力してもらって、どうにか骨のパーツを作り上げた。鏡合わせになっている骨の部分については複製してもらい、魔力を分け与えてもらい、どうにか作ったのだ。

 だがここで、俺はふと思った。

 スケルトンの作成は、俺の魔力でも可能だ。特に術式を練ることもなく、最初に試行して成功したのである。あれからスケルトンの作成に必要な魔術式について試行錯誤を続け、今では大分魔力の削減に成功した。俺の魔力量が最大だった場合、十五体くらいは連続で作ることができるだろう。

 だが、複製魔術――クリスが息をするように使うそれは、俺には使えない。僅かな物質を複製するだけで、俺の魔力は一気に枯渇するだろう。

 つまり、純粋に考えればスケルトンの作成に使う魔力よりも、複製魔術に使う魔力の方が大きいという計算だ。


 ならば最初から、クリスに巨人の骨のパーツを一部渡して、そこからスケルトンを作ってもらう方が魔力の消費は少ないんじゃないか――そう思ったのだ。

 まぁ、クリスの魔力は無尽蔵だし、消費なんか気にする必要はないのかもしれないけれども。


「これが巨人の、指先の骨だ」


「はい」


「これを使って、巨人のスケルトンを作ってくれ」


「はい」


 クリスが俺の手から、巨人の指先の骨を受け取る。

 指先の骨でも、クリスの小さな手では掴むのが難しいほどの大きさだ。クリスはそれをまじまじと見る。相変わらずの無表情だから、一体何を考えているのか俺には分からない。

 だが間違いなく、クリスの魔力さえあれば、巨人のスケルトンも難なく作ることができるだろう。

 クリスの魔力に頼りすぎという感は否めないが、それでもある魔力は利用させてもらう。


「……」


 クリスの手が、きぃんっ、と光を放つ。

 それと共に、指先の骨はさらに増殖し、それが宙に浮かんでいる状態でさらに繋がれる骨を作成する。五本の指は手首で一つに繋がり、そこから腕の骨が生まれてゆく。

 俺が全ての魔力をつぎ込んで、骨の一本しか作ることができなかった巨人のスケルトンが。

 クリスの潤沢な魔力によって、ゆっくりとその全容を作ってゆく。


「す、げぇ……」


 腕の骨はそのまま肩まで到達し、そこから鎖骨、肋骨、脊椎を作ってゆく。そして脊椎が下に伸びてゆくと共に、逆の腕もまた肩から先を形勢してゆく。

 空に浮かんでいるそれが、まるで幻想的な景色であるかのように、俺は目を奪われていた。

 脊椎は腰椎に到達し、そこから骨盤が作られてゆく。そこから両足が生えてゆくと共に巨人の胴体は空高く上がった。

 俺が床に寝かせながら作っていたのが、まるで児戯のように思える。

 そしてずしんっ、と地響きが起こると共に、巨人の両足が大地に降り立った。


「……」


 クリスの手の光が、巨人のスケルトンを包んでいる。

 そして、最後に顎の骨から頭蓋、眼窩の穴が完成し――完全な姿となった、巨人のスケルトンが完成した。

 そこでようやく、クリスの手の中の光が消える。


「ふ、ぅ……」


 クリスが、大きく息を吐く。

 少しばかり疲れた様子で、頬に一筋の汗を流して。

 だが――やはり、巨人のスケルトンは動く様子がない。俺が作ったときと同じく、その骨には一切の魔力が感じられないのだ。巨人のスケルトンを自律的に動かすのは、クリスが作っても無理だということは分かった。


 だが、それと同時に。


「……クリス?」


「はい」


「魔力が……減ってる?」


 クリスの持つ膨大な魔力。

 現状も、その魔力の量が膨大であることは変わらないけれど。


 だがその量が、俺にも分かるくらいに。

 明らかに、減っていた――。

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