第17話 帰路
「いやー、良かった良かった」
「ごしゅじんさま、ごきげん」
「ああ。スケルトンは素直に受け入れてくれたし、これから農作物の生産量も向上するだろう。それにスケルトンがいれば、盗賊を相手にも戦える。バースの村は、ひとまずこれで問題ない」
結果、バースの村には五体のスケルトン、三体の牛スケルトンを派遣した。
元々は五十人いた村が三十人弱しかいないという状態であるため、もう少しスケルトンを作ることができるようになったら、もう十体くらいは派遣するべきかもしれない。そのときはついでに、牛スケルトンも連れて。
まぁ何にせよ、未来の展望は明るい。
「それに何より、次のスケルトンが問題なく作れる。もう小指を切るのは嫌だからな」
「はい。ごしゅじんさま、ゆびきる。だめ」
「ああ。こんなにも骨をくれるとは思わなかったよ」
「ほね、くれた」
クリスの言葉と共に後ろを見ると、馬車の中には木箱が二つ載っている。
そのうちの一つに入っているのは、人骨だ。駄目で元々だと思って、一応バースの村で骨を分けてほしいと言ったのである。
ランディ村長は「なるほど、骸骨の兵士を作るためには骨が必要なのですね」とあっさり納得してくれて、村の公共墓地から骨を掘り出してくれたのだ。そこは身寄りのない者や旅人など、供養する者もおらず埋められた墓地であったらしい。
村に縁のない骨であるならば、と俺もありがたく受け取ったのである。さすがに、村の衆たちのご先祖様を貰い受けようとは思わないし。
「これだけあれば、百体くらいは作れそうだな」
「うしも、つくる」
「そうだな。あんなに牛が喜ばれるとは思わなかった」
「うし、べんり」
「俺は正直、いらないから押しつけただけだったんだけどな」
牛のスケルトンとか、役に立たないとばかり思っていたのだが。
それでも村長曰く、荷運びや開墾の力仕事、専用の道具を用いての耕作など役割は多いらしい。昔は、一家に一頭は牛を飼っていたらしいのだ。度重なる盗賊の襲撃に食べるものがなくなり、泣く泣く手放すことになったとのことだが。
次の機会は、もっと牛スケルトンを多く乗せた方がいいかもしれない。
「他の村も、この調子で受け入れてくれるといいんだけどな」
「だめ?」
「バースの村は、困窮しているから受け入れてくれただけだ。他の村でも受け入れてくれるとは限らない」
「そうなの?」
「ああ」
俺はすっかり慣れたけれど、スケルトンは化け物の類だ。
そして化け物を労働力に使えと言われても、「そんな化け物を村に入れるわけにいかない!」などの言葉で拒絶される可能性がある。
そのために、まずはバースの村で試験的に運用をして、ランディ村長あたりにスケルトンの有用性を広めてもらうのが良いのだ。そのため、ある程度スケルトンたちでの農作業に目処が立ったら、他の村にもちょっと伝えておいて欲しいと頼んでおいた。
「さぁ……ようやく見えてきたな」
「はい」
時刻は、既に夕刻だ。
休みなく馬車を引くことのできるスケルトンホースでも、やはり領内の村までの往復は長い時間がかかる。まだバースの村は近い位置にあるけれど、地図上で最も辺境にあるテルマの村あたりに行くとなれば、さすがに道中で一泊する必要がありそうだ。
そして、ようやく到着した俺の屋敷がある町――フルカスの町の入り口。
その門を守っていた衛兵が。
「ひぃっ! 化け物ぉぉぉぉっ!!」
「……」
あのさ。
朝方に番をしてた奴、せめて一言伝えておいてくれないかな。
朝と同じ説明をして、どうにか衛兵には納得してもらった。
まぁ俺が領主であり、領主としての身分証をちゃんと提示した上で、俺が魔術で作り出した生物だと説明しても、随分と懐疑的な目で見てきたけれど。朝の衛兵は、まだ町の中から外に出るからそれほど追求してこなかったのかもしれない。
暫く説明をして、それから荷物の確認を行われ、スケルトンホースが襲いかからないことを確認され、ようやく俺は解放された。
「はー……割と時間がかかったなぁ」
「はい。おなかすいた」
「今日は、何か買って帰ろう。あとは、分けてくれた野菜もあるし」
「はい」
手持ちの銀貨は五枚しかないから、ろくなものは買えないと思うけれど。
ここ三日ほど、クリスは野菜の塩漬けしか食べていない。干し肉も勧めてみたけれど、全く食べようとはしなかった。
伝承に残るアールヴは種族単位で肉を食べず、野菜だけで生きてきたという話も聞いたことがある。恐らく、クリスも同じく野菜しか食べないのだろう。
それもあって、バースの村で少しばかり野菜を分けてもらったのである。困窮している彼らから分けてもらうのは少しばかり気が引けたが、スケルトンを渡す代わりにということで。
ランディ村長は、快く分けてくれた。村人たちの想いは分からないけれど、俺はそれだけの労働力を提供したのだから納得してほしいものである。
「はー……しかし」
町の大通りをスケルトンホースに歩かせながら、周囲の町民たちからの視線に辟易する。
やはりスケルトンホースは、衛兵も驚くくらいだ。町民たちからすれば、化け物が町の中を歩いていると考えておかしくないだろう。
遠巻きに見ている者や、憲兵に「化け物がぁぁぁ!!」と通報している者もいる。ちなみに、そんな通報と共にやってきた憲兵に説明すること、既に三度である。
「衛兵や憲兵たちの給与も、明日の税収から払わなきゃいけないんだよな」
「おかね?」
「そう。税収の半分は借金の返済にとられるし、残り三分の一は兵士の給料。あとは経費とか色々計上すると……どのくらい残るんだろうなぁ」
「びんぼう」
「素直に言わないでくれ。悲しくなってくるから」
考えると、兵士の給料ってかなり高いんだよな。
そりゃ、町の入り口で寝ずの番をしてくれている衛兵だったり、町の治安を守る存在である憲兵だったりと、必要な存在ではある。
いっそのこと、そんな兵士たちもスケルトンにしてしまえばどうだろうか。
「ふむ……」
スケルトンなら、作ればその後の給与が必要ない。そして元々スケルトンは眠らないから、寝ずの番も問題なくこなせる。交代制にする必要がないのだ。
町の出入りの管理をするのは難しいかもしれないが、そのあたりはどうにか筆談でこなすことができれば、スケルトンにもできる仕事だろう。
良いかもしれない。
そうすれば、兵士が必要なくなるのだ。つまり、税収全ての六分の一を占める兵士への給与支払いが、そのまま利益となるのである。それだけの財政の余裕が生まれたら、別の部分に金を充てることができるだろう。
そうすれば、より領地の発展が望めるかも――。
「……」
「ごしゅじんさま?」
「……いや、無理か。何でもないよ」
クリスの疑問に、笑みを浮かべて返す。
ちょっとだけ良いかなと思ったけど、やはり棄却すべきだ。いくら兵士に払うための支出が高いからといって、スケルトンに衛兵をやらせるわけにはいかない。
だって。
スケルトンが衛兵をしてる町とか、多分人が寄りつかなくなるだろうし。
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