第157話 ちゃんとした和解

 男性陣、主にサタン達が騒いでいる一方でムメイもレヴィアタンと再会していた。

 といってもこちらは敵対しているわけではないので特に険悪な雰囲気にはなっていない。


「げっ。お前がいるって事はあの怪物とゼビウスも……」

「普通にいるわよ。というか向こうが騒いでいるのってそれが原因じゃない?」


 ただレヴィアタンはトクメとゼビウスの制裁をまだ覚えているようで、ムメイに気づくと嫌そうな表情を浮かべ今も何か騒いでいる男性陣の方へ顔を向けた。


「こっち来てて正解だったぜ……助かった」

「ほう、七大悪魔のレヴィアタンか。確か男女両方の性を持つ両性具有だったかの」

「あ? 女でもあるからこっち来ても何の問題ねえだろ、って……その見た目はもしかして……」

「うん、トクメの同族。でも別に何もしていないから大丈夫でしょ?」


 それでもトクメと同じ見た目というだけで警戒対象になっているのかレヴィアタンはジリジリと後ずさった。


「両性具有だけどレヴィアタンは立派な女だよねー。だってベルゼブブに裸見られるのが恥ずかしいからこっちに来たんだもん」


 するといきなり後ろからアスモデウスが現れそのままレヴィアタンに抱きつき肩に顎を乗せた。

 

「うおっ!? いきなり抱きつくなっ! って、ベルゼブブは関係ねえよ!」

「えー、レヴィアタンがこっちに来たんじゃなーい」


 レヴィアタンに怒られているアスモデウスだが、特に気にした様子もなく楽しそうに笑っている。


「もっと素直になったらいいのに、あたしはサタンに裸見られても恥ずかしくないし。だってサタンの為に毎日肌を磨いて体型も整えてるんだもん。むしろ見てほしい! 昨日よりも綺麗になってるあたしを毎日見てほしい!」

「……それ、俺じゃなくてサタンに言えよ」


 抵抗しても無駄だと好きなようにさせていたレヴィアタンの諦めたように言った言葉にアスモデウスの瞳が輝いた。


「そうよ、その通りだわ! たまにはいい事言うじゃない!」

「たまには余計だ」

「ここはお風呂! お風呂で裸なのは当たり前! サタンが見てくれるのなら他の男共はどうでもいいわ! だから……サターン! 一緒にお風呂入りましょー!!」


 そのままアスモデウスは女風呂と男風呂を区切っている壁を難なく飛び越えていった。

 直後に「アスモデウス!? おまっ、はだ、かくさ、ふあおあああふぁじょおああ!?」と謎の奇声が響いた。


「今のサタンの声?」

「いやベルフェゴール。あいつ女に弱いから俺の裸見てもめちゃくちゃ動揺して奇声上げるんだよ。サタンはむしろ喜ぶ……喜ぶか? 喜んでいるように振る舞っていたりそうじゃなかったりするからよく分かんね」

「ふーん」


 ベルフェゴールに裸を見られても気にしないが、ベルゼブブには恥ずかしくて見られたくないと思っている辺りアスモデウスの言うことは正しいのだろう。

 レヴィアタンもその事に触れられたくないのかムメイの何か言いたげな視線に何も言わずにいる。


「成程、性別は関係ないのじゃな!」

「うわっ、何だよ急に」

「妾も不特定多数の誰かに裸を見られても何とも思わん! そもそも性別がないから向こうに行っても何の問題もない!」

「えっ、そうだったの? それってつまり……」

「うむ、トクメもじゃ。ただ妾は家族というものを知り子供が欲しいと思った時『母』になりたいと思った。その時から妾はずっと女じゃ。トクメは『父』になりたいと思ったから男じゃの。じゃがそんな事より! 妾は息子の背中を流したい! という訳で妾も向こうへ行くぞえ!」


 ダルマは一瞬で姿を消したので転移魔法を使ったのだろうが、不思議とベルフェゴールの奇声は上がらなかった。

 しかし代わりにここにいても分かるぐらいに気温が下がったので何が起きたのか大体の察しはついた。


「凍らせたのね。多分ダルマは本来の姿に戻っていそう」

「…………」

「……何?」


 一気に静かになった女風呂にレヴィアタンも何故か大人しくなりジッとムメイを見つめている。


「あー……その、腹の傷はもう治ったのか?」

「お腹? ああ、レヴィアタンが刺したやつ? もうとっくに治っているし、そんなに痛みもなかったから大丈夫よ」


 レヴィアタンが言っているのは初めて会った時の事だろうが、あの時は海を支えている方がきつく、その後も記憶の痛みの方が遥かに強かったのだがそういう事情を知らないレヴィアタンは気まずそうに俯いている。


「その……わ、悪かったな」

「えっ。……まあ……私もやり過ぎたし……お腹を刺し返す必要はなかったと、思う」

「えっ」

「え?」

「どっちかっつうと顔の方が俺痛かったんだけど……」

「そっちは妥当。余計な事言うからよ」

「うっ、わ、悪かったな!」

「ちゃんと仕返ししたからもう気にしていないわよ。でも二度と言わないでね」

「分かってるよ。俺だって顔潰されたくねえし、あいつらにも二度と捕まりたくねえ」


 その後会話は無かったが、穏やかな空気がムメイとレヴィアタンの間には流れた。

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