第114話 急転直下

 今現在ヴィルモントは次の街へ向けて相変わらずシスの背中に乗って移動していた。

 ただ今回は前回と違い後ろにムメイが乗っており、後方を歩いているトクメは非常に複雑な表情になっている。


 事の始まりはダルマだった。


「のうヴィルモント、シスに乗るのもよいが妾も元の姿になれば乗る事は出来るぞえ。どうじゃ、今日はシスではなく妾にしてみんか? ほれ、丁度あそこの幼き幼子のように!」


 ダルマが指を差した先にいるのは父親らしき男性に肩車をしてもらい喜んでいる小さな女の子。


 ダルマは形から入る性格なのかとにかく他者の『親子』がやっている事を真似したがるが、幼児にしている事をヴィルモントに当てはめるのは性格だけでなく年齢からしても相当厳しい。

 ヴィルモントも生ゴミにたかるハエかゴキブリを見るような目になっているが、ダルマは全く気づいていない。


「肩車が嫌ならおんぶでも構わぬぞ! ほれ、向こうにいる赤子のような! どうじゃ? どうじゃ? 妾でどうじゃ?」

「……ムメイ、お前もシスに乗れ」

「え、何で」

「何故じゃ! 親子で行動した方が良いじゃろう!?」

「何故そこでムメイが出てくる。お前達の問題に私の娘を巻き込むな」


 否定されるとは思っていなかったのか悲痛な声と顔でダルマは叫び、いきなりムメイの名前を出されたトクメも慌てて割り込んできた。

 シスのムメイへの行動について色々思うところがあるトクメにとっては見逃せない行動だったらしい。


「何故だと? 私とシスは主従関係にあり、その従者が主と離れて行動しては意味がないだろう。だがこのまま動いていては私とシスの主従組、ムメイとトクメの親子組、そして残りがゼビウスとダルマのよく分からない組み合わせになる」


 組み合わせは別に関係ないだろう。


 そうゼビウスが口を挟む隙もなくヴィルモントは話を続けていく。


「しかし私とシスの主従組にムメイも加われば私達は子供同士で行動する事になる。そうすると残りのそちらは保護者、いや親同士で行動する事になり、親組子供組と非常に分かりやすい組み合わせになり効率も良い」

「……あ。うん、私もそっちの方がいいと思う。……ち、父親について子供同士で話したい事もあるかもしれないし……」


 この時点でゼビウスはヴィルモントがこちらにダルマを押しつけるつもりだと気づいた。

 早口になっていないので確実に自分の為だけに動いている事も。


 ここまでならまだやり返せたのだが、ヴィルモントの意図に気づいたムメイも乗っかってきた。


「親、親子とな……!? うむ、うむ! 妾はそなたの母親じゃからの! ヴィルモントの言うとおりじゃ!」

「……た、確かに私はムメイの父親だが……いや、しかし……」


 ダルマは『親』という言葉に見るからに浮かれ、別に別れる必要もなければ誰に対して何の効率がいいのか全く説明していないにも関わらず納得してしまい、トクメは悩んでいるように見えるがムメイに『父親』と呼ばれ完全に堕ちている。


 トクメが向こう側についてしまっては流石のゼビウスも勝ち目はなかった。


「お前ら『親』って言葉に弱すぎねえ?」


 ダルマは子供に会えたばかりなのでまだ分かるが、トクメはムメイを娘に迎えてから結構な時間が立っているにも関わらずこのザマである。


 今まで『父親』と呼ばれなかったのだと思うと少し同情しなくもないが、ムメイに対しての行動を思い返せば当然かと思い僅かにあった同情も消え失せた。


 そんな経緯があり、現在ムメイとヴィルモントを乗せたシスを先頭にゼビウス達親組は子供達を見守る形で後ろを歩いている。


 今更ながらトクメは自分の行動の浅はかさに気づいたらしく、『父親』と思われている喜びとシスがムメイを乗せて歩いている事への不満と怒りが混ざり何ともいえない、ゼビウスにとっては面白い表情をしている。


 その表情を楽しみながら子供達の様子を見てみると、特に揉めている様子もなく楽しげに何か話しているのでこれはこれで良かったのかもしれないと思った瞬間、シスの足元の地面が急に崩れゼビウス達の目の前で子供達は全員穴へと落ちていった。


「え、はああああ!?」

「ヴィルモント!?」

「!!? 何が起き、っ!?」


 ゼビウスが駆け寄ろうと踏み出すと同時にすぐ後ろでボゴッと音が聞こえ、ゼビウス達親組もまた急に出来た穴へと真っ逆さまに落ちていった。

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