6、ある日の選択授業の選択
(うほぉぉぉぉ! ゲーム画面そのままっすぅぅぅ~)
階段状の教室中央、教壇に立つのは担任教諭のププト・ヴォイド。そしてクラスメイトには、ヒロインであるアトラと悪役令嬢(仮)であるヴィライナが居た。
自身が所属するクラスの授業風景を見て、ピラットは内心で喜びの悲鳴を上げた。
学園でのクラス分け結果を確認したピラットは、狂喜乱舞した。実際に踊り狂ったため、背後のクロスに当て身を食らったほどである。全部で5クラスもあるのに、自分が運よくアトラと同じクラスとなったからだ。
これで
「さて、来週からは選択授業が始まります。お配りした用紙は、選択授業の申請用紙です。明日、その用紙を回収いたしますので、希望する選択授業を選び、記入して来てください。」
担任のププトが、用紙片手に説明をする。
(うほぉぉぉぉ、選択授業……、選択授業!?)
テンション爆上げ中だったピラットの内心は、急速に落ち着いていった。
「各授業には定員もありますから、必ず希望通りになる保証はありませんが──」
(アトラちゃんは!? アトラちゃんは何を選ぶっすか!? 同じ授業を選択したい! いや、選択しなけらば!!)
ピラットは、二つ前の列に座るアトラの用紙が見えないかと試行錯誤を繰り返した。
(ぐぅおぉぉぉぉ!、あと少し、あと少しでぇぇぇぇ!!)
この時点ではアトラは未記入であったため、この努力は完全に無駄であるのだが……。
専属護衛とはいえ、常に主人と共に居るわけではない。座学の授業中では、教室内に多人数の従者が居ては授業の邪魔である。そのため、控室にて授業が終わるのを待つことになる。
「さて、そろそろか」
クロスは本に偽装したツールボックスメニューを閲覧しつつ時間をつぶしていた。が、そろそろ授業が終わる時間である。
授業が終わったなら、教室まで"ご主人"を迎えに行く必要がある。クロスは渋々ながらも本を閉じ、重い腰を上げて控室を出て──
「大変っす!」
迎えに行くまでもなく、"ご主人"がこちらにやってきていた。
「今日はもう授業終わりだよな? じゃ、お疲れ」
焦って従者控室に飛び込むような勢いで現れたピラット。その様子に嫌な予感しか感じないクロスは、早々に「にげる」コマンドを選択する。
「それどころじゃないっす!」
しかし回り込まれてしまった。
「えーっと、全く、全然、これっぽっちも気が進まないけど、一応聞いとく。どうした?」
嫌々、渋々、もうこれ以上ないほどにどうしようもない空気を醸し出しつつ、クロスはピラットに問う。
そのようなクロスの様子に気づかない……、いや、気が付いても無視したピラットは大いなる問題を告げた。
「選択授業、どれにしたらいいか分からないっす!」
「好きなの選べよ」
クロスは刹那で回答した。
「ヒロインと同じ授業を選ばないと、ヒロインウォッチできないっす!」
悲痛な様子で犯罪まがいの行為を訴えるピラット。
「堂々たるストーカー宣言だな」
『ここまでくると清々しいね』
驚くほど、自分の欲求に素直な女である。
「なら本人に直接聞いてみたらいいだろう」
「YESヒロイン! NOタッチ!!」
どや顔で宣言するピラット。なぜこんなに自信満々なのか……。
『あはははは、意味不明!』
ピラットはクロスにしがみつき、懇願する。
「なんとかしてっす、ドラ○もぉぉぉん!」
「誰がドラ○もんだ」
あまりのくだらなさに、クロスは無視して帰ることを選択する。しかし、ピラットはクロスの足に纏わりついたまま、100mほど引きずって歩いても諦める様子が無い。むしろ目をギラつかせ、どこまでも引きずられていく覚悟のようだ。
いい加減、周囲の目によるクロスの精神的ダメージの方が大きくなってきた。
(いや、俺はそんな趣味はない)
『加虐よりも被虐かな?』
(そっちもねぇよ!!)
「この極小サイズのミニオンを貸す。ただの羽虫にしか見えないだろう。しかし、コイツには高性能カメラが搭載されている」
ディスプレイ兼コントローラである眼鏡をピラットにかけさせる。
「おぉぉぉぉ!!」
眼鏡の片側レンズには、飛行する羽虫型ミニオンによって撮影された映像が投影される。
「これならこっそりヒロインの手元も撮影できる。加えて、周りの人たちからは、ただの眼鏡にしか見えないというスペシャル仕様だ」
レンズに映像が投影されているのだが、傍目には何の変哲もない眼鏡にしか見えない。まさに最強の盗撮専用装備と言える。
クロスから、眼鏡の蔓部分を操作しろとの言葉を受け、ピラットが蔓にある細かい凹凸を押し込む。その操作に呼応し、ミニオンが空中を移動する。
「すげぇっす! これなら勝つるっす!!」
「なんの勝負だよ……」
翌日。再び、壇上には担当教諭のププトが立つ。
「選択授業の申請用紙を回収します。もし忘れた方には、もう一枚用紙をお渡ししますので、挙手してください」
(ついにこの時が来たっすね!)
今日だけは朝から眼鏡姿のピラットが、中指でクイッと眼鏡を上げる。なお、いつもは裸眼であるピラットが、今日だけ眼鏡をかけていることに関して、クラスメイトは誰も指摘していない。つまりクラスにおいてもピラットはそのような扱いであるようだ。
(行くっす! ミニオン君!)
ピラットはペンケースを空け、中に仕込んでいた羽虫型ミニオンを離陸させた。
(うへへ、これでアトラちゃんの秘密を覗き見ちゃうっすよぉぉ)
それとなく眼鏡の蔓を操作し、空中のミニオンを移動させるピラット。声も立てず、姿勢にも気を付けているが、表情だけには隠し切れないヤバさがにじみ出ていた。しかし、周囲はそれを敢えて見ない。周りの人間も良く訓練されているのだ。
ミニオンは一旦教室の高空へと飛び上がる。そのまま、空中からアトラの頭上を確認し、ゆっくりと降下していく。
(ぐへへへへ、アトラちゃんのつむじまでしっかり見えるっす。はっ! これがあれば、アトラちゃんのあんな姿や、こんな姿が見放題!? クロス氏、まさかそんなゲスだとは思わなかったっす!!)
──そのころ控室では
クロスがぶるりと身震いする。
(今急に何か寒気が……)
『誰か噂でもしてるんじゃない?』
(それなら"くしゃみ"だろうが)
──再び教室
羽虫ミニオンは降下を続ける。あと数cm下がれば、そのアトラの手元にある書類、そこに書かれている文字を判別できるほどに近づくことが──
(ん? なにか
ヴィライナは自分たちに向けられる気配に悪寒を感じ、周囲で空気の揺らぎが起こっている場所に向けて手刀を振るった。
「きゃっ」
ヴィライナの手刀がアトラの顔のすぐ横を通過したため、彼女が小さく悲鳴を上げた。
「ぬがぁ!」
それと二列後ろの席から、妙なうめき声も聞こえた。
「あぁ、すまない。どうやらただの虫だったようだ」
ヴィライナは後方のうめき声に疑問を抱きつつも、アトラを驚かせてしまったことを謝罪した。
「あ、いえ、ありがとうございます、ヴィライナ様」
"自分の近くに居る虫に気づいてくれた。そのくらい私を意識してくれている?"と"勘違い"したアトラは、少し頬を赤らめつつ、ヴィライナに礼を述べた。
後方では、一人の変態が打ちひしがれていた。
「終わったっす、もうだめっす」
食堂の座席にて、食事もとらずに打ちひしがれるピラット。選択授業の用紙が見えるまであと一歩、といったところでミニオンが見事に破壊され、映像が途絶えたのだ。
「まあまあ、これだけがチャンスなわけじゃないだろ?」
クロスは感情を感じさせない声色で、適当にピラットを励ましておいた。
結局、ピラットは絶望に打ち震えながら適当に選択授業を選んだのだが、偶然にもそれはアトラと一緒の授業であった。
その結果を知ったピラットは再び狂喜乱舞して大喜び。延々と続くかと思われたその舞は、クロスによって
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