第377話 どうぶつクッキー(前編)
変わったテストが終わって、いつもの学校の騒がしさが戻ってきたのも束の間、学校行事は次々現れてくる。
皆お楽しみの、文化祭だ。
「──ん」
「ん」
私は開けた袋の口を隣の席の男子に向ける。
男子はウェットティッシュで拭きたての手で、がさっ、と取れるだけ取った。
動物の形と絵がついたクッキーだ。
私も一枚──パンダ。
「今年は何になるかしら」
「また劇より別のやってみてぇとは思うけどなー、こればっかりはコセの運次第」
教室に設置されたテレビには生徒議会室で説明がされて、クジ箱の用意がされている。
各クラスの代表──委員長達もすでに待機済みだ。
まずは生徒議会がクジの順番のクジを引いて、引かれたクラスの代表が順に文化祭の企画のクジを引いていくという完全ランダム。
去年の文化祭、私達は白雪姫の劇をやった。
裏方でも
それに今年の文化祭は私達三年生にとって最後の楽しい行事となる。
「これ美味いー。ウサギ」
男子は容赦なくウサギのクッキーの顔半分を齧る。
そんな私もパンダの顔を半分こ。
このクッキー、甘味が強くて小さい頃から大好きから変わらない。
…………変わらないのよ、ね……。
男子に一緒に住まない? と言われて、まだ私は返事をしていない。
気まずくなるかななんてのは私の思い過ごしで、男子はいつも通り、お菓子を食べて話をしてくる。
聞いてこないのは、どうして?
軽く頭を横に振る。
……違う、私がこたえなきゃなんだわ。
「……あの、クサカく──」
「──お、コセ登場」
「え、あっ、うんっ」
「ん?」
ううんっ、と慌ててテレビの方に顔を向けた。
今のは完全にタイミングが違っていたと反省する。
「はいはい注目ー! 企画決まったらすぐに話し合い始めるからねー!」
はーい、とか、うーい、とか返事したクラスメイトは少し静かになったものの、やっぱり企画が気になるのか、ひそひそ声は前後左右から聞こえてくる。
「そういや部活の出しもん、決まった?」
「うん。好きな紙に好きな道具で綴るの。それとパフォーマンス」
「お、去年のだ?」
「ちょっと趣向を変えて、今年はカトー君と戦うの」
「え、喧嘩?」
「書く前から私の圧勝ね」
「ははっ! 手加減すんなよ。見に行く」
こんな感じ、こんな風に、いつも通り。
だから私も、いつも通りに、言いましょう。
男子の肩を指でつつく。
振り向いて私の方に少し体を傾けてくれて、その耳に、ひそり、言った。
「──文化祭の終わりに言うわ」
近くで、はっ、としたような男子の大きな目が一度だけ、きら、と光った。
「……うん、待ってる」
「うんっ──あ、決まったみたい」
テレビの中でコセガワ君が引いた紙に書かれた文字を見せて、ついでにピースしている。
「はーい決まったー! 最後の文化祭の我がクラスの企画はカフェー!」
カフェ、つまり喫茶店、というこれまたド定番のやつが来た、と私は軽くガッツポーズしたところ、ノノカと目が合った。
「シウやる気じゃーん?」
「試食出来っからとみたー」
男子のつっこみに、あーね、とクラスメイトがからかってきて、むぅん。
「ちょうどいいや、板書頼むー」
はいはい、とクッキーを袋ごと男子に渡す前に、全部食べないでね、と釘を刺す。
「そんんじゃどんなカフェにするかだけれど、大体過去のでわかってると思うー。テーマっつーか、コンセプトっつーか」
執事メイドは? と一番思いつくであろう案が聞こえたので早速黒板に書く。
去年の素敵だったものね。
次に聞こえたのは、和風のお茶屋さん的なー、というものでちょっと好みだ。
女装男装もこれまた定番ね、と横に並べて書いていく。
皆楽しくなってきたか、筋肉むきむきマッチョ喫茶や、バッハみたいなヨーロッパ的ななども全部書いていく事にしましょう。
ふむ……。
「ちょっといいかしら?」
「何だねお菓子クイーン」
「よきにはからえ。えと、文化祭ってどのクラスも出し物するから見て回るだけでも結構時間かかるじゃない? 寄ってってもらいたいけれど、喫茶店だと時間取られちゃうというか」
皆も思うところがあるのか、確かにー、去年は半分も見れなかったー、と声が上がる。
「つまり?」
「簡単に、うーん、休憩所みたいな感じにしてみたら、って思うの。だから──」
テーブルなしで、長椅子……ベンチ? ちょっと飲んで食べて、次の場所に行くための寄り合い所みたいな。
「──ほーん、いいんじゃない? こういうのなかった気がするし」
私が考えたのは、甘味処。
まだ決定じゃないけれど、私が気になるのはこっち。
さぁて、お菓子は何になるのかしら。
るん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます