第370話 マーブルチョコレート(後編)

 二度目の初めまして。

いや、何度目かの初めましてはいつも綺麗なところだった。


 最初は驚いた。

いた人がいなくなってた人だったから──亡くなっていたから。

それから少しずつ、女子が教えてくれた。

写真で見た女子の姉ちゃんは女子によく似ていた。

けれど、女子とは違う女の人だった。

同じ年になった今でも年上に思うのは、やっぱり女子の姉ちゃんだからだと思う。


 それで……一度、嫌いになった。

本気で嫌いになった。


 女子をかなしませるのはわかっていたけれど、どうしてもむかついた。

そんな事したって行き場はどこにもないのもわかっていた。


 ……やっぱり似てると思う。


 シウちゃんと姉ちゃん。


 俺はあなたの事を語れるほど知らないし、何も言えない。

そして、残念に思う。


 皆の中の女子の姉ちゃんはとても、凄いから。

陳腐な語彙だけれど、やばい、よりは幾分マシだと思いたい。


 女子は一度だけ、あなたに変身した事があった。

うんと髪が長くて、前の彼女でもあって、これからの彼女の姿を見た気がした。

どうやっても女子はあなたになる事は出来ないと断言する。


 俺はシウちゃんが好きです。

あなたになってほしくないです。


 ……なんて、あなたに憧れてるシウちゃんですんで、すいません、嫉妬みたいなもんです。


 ただ、俺はあなたと出会いたかった。

話して見たかった。

シウちゃんと一緒に。


「──改めまして、カジノゾミです。ミヤ君の兄です」


 カジあにがにこやかに、そして隣に真顔のミヤビちゃんが立っている。

こっちは似ているようで似ていないような。


「ど、どうも。クサカリョウです」


 女子はお手洗いに、と道向こうのコンビニに行っているので男三人、待っているところだ。


 この人が、シウちゃんの姉ちゃんの恋人だった人で、シウちゃんの初恋? の人……。


 カジ兄は人当たりが良さそうな感じで、雰囲気が柔らかい感じがする。

こうやって初めましての俺にも気を遣って話しかけてくれている。


「今日は突然ごめんね。シウちゃんが話してると思ったのに僕が来るって言ってないんだもんね」


 年上の大人な感じがした。

俺よりも高い背から下ろされる視線は優しい。


「いえ、平気です。一人でもいいし何人でもいいと思うんで」


 賑やかな人だったと聞いている。

お菓子があって、駄弁って、笑う──きっとシウちゃんの姉ちゃんもそうだったんだと思う。

まだあるマーブルチョコレートをミヤビちゃんが、ざら、と出しては一粒ずつ食べていた。


「──君、かっこいいねぇ」


「はいぃ?」


 急に何を言い出すのかカジ兄。

ミヤビちゃんも頷いてるし何なんだ。


「あ、顔とかじゃなくって」


 あん?」


「あっ、ごめんね。そんな意味じゃなくてね──」


 はっきり言いましたがぁ?


「──兄ちゃんは、空気っていうかそういうのがって言いたいんだと思います。合ってる?」


「あ、それ。うん、初めて会ったのにね……懐かしいの感じちゃった──ユウさんみたいだなって」


 俺にはわからない。

だって聞いた感じじゃシウちゃんの姉ちゃんはもっと凄い人っぽかった。

するとミヤビちゃんがマーブルチョコレートの筒を斜めにして、手をと示した。

二、三粒のカラフルで小さなそれを受け取る。


「兄ちゃんが困らせてすんません。でも俺もそう思うよ」


「……どう答えたら?」


「答えたいように」


 カジ兄は俺の対応に慌ててるし、ミヤビちゃんは我関せずだし、兄弟でも違うなぁ、と思った。


 何だろなー……ここで否定すんのも違う気がするし、多分、これかな……。


 三粒全部を口に放り込む。


「──よろしく、お願いします?」


 俺がそう言うと、二人は目だけを合わせて、それから、ふっ、と笑い出した。

違ったのだろうか。


「こちらこそよろしくね」


 どうやら合っていたようで、カジ兄は握手してきた。

ぶんぶん、と手を振ってすぐに離れるかと思いきや、何故か離さない、と見ると──。


「──シウちゃんをよろしくねぇ。あの子、とっても頑固だし大変だと思うけど本当に良い子だからね、ね」


 顔が近いっすオニイサン、ってお兄さんじゃないんだけれど、何これ。


「………また私は戦わないといけないのかしら?」


 げっ。


 タイミング悪く女子が戻ってきて、それでも握手を離さないカジ兄から俺は出来るだけ離れる。


「ち、違うっ! 何か心得? 的なやつを言われただけでっ」


 わぁわぁ、シウちゃんってばちょっとむくれ顔ぉ。


「カジさん、なぁに?」


「えと、シウちゃんは面倒臭いけれど可愛いからって話を。ね?」


「う、うん、そです。うん!? 違っ──」


「──ふぅん、面倒臭い、ふぅん」


「もう喋んねぇ方がいいと思う」


 止めるの遅いよミヤビちゃんっ。


「カジさんってば口煩い親戚のおじさんみたい」


「おじっ!?」


「むかつくからご飯奢ってくださいな」


 そして女子はにこやかに笑って先を歩き出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る