第362話 カッサータ(後編)

 カッサータ美味しかった。

とろり、と溶ける前の溶け切らないアイスの柔さと、冷たいようで冷たくない真ん中の冷たさが好き。

ナッツとアーモンドの香ばしいのと、レーズンとラズベリーのドライフルーツの独特の硬さも好き。

チーズのやや、ややの酸味も好き。


 こうやって、友達とテーブルを囲んでいるのが好き。

もう皆食べ終わっているけれど。


 集中の一時間はあっという間だった気がする。

問題も滞りなく解けたし、見直しの時間もあったくらいで、今までの勉強は身に着いていると実感する。

問題用紙を交換こして、男の子組みからお風呂に入っているところだ。

一番手はコセガワ君。

私達女の子組みからどうぞ、と言われたのだけれど、ノノカが──。


「なんかヤだ」


 ──と言うので、男子が食器を洗っている間に、私とノノカで採点している。


「さすがノノカ、全問正解」


「やったぜ」


「どうやって勉強してるの?」


「見たもの全て記憶する」


 それをどうやって、という話なのだけれどきっとノノカだからの方法で、私には出来ない方法なのだろう。

それからコセガワ君がめちゃめちゃ早くお風呂から上がってきて、次に男子がお風呂に行った。


「コセガワ君は惜しかったわね」


「あちゃ? あー……わかった」


「あ、私も凡ミス。むぅん」


 あと少し──お皿に残った欠片ほどのミスはもったいない。

気をつけなければ。


「おー、クサカも伸びてんねぇ」


 髪を拭きながら言うコセガワ君に、ノノカも横のめりに覗く。

テーブルの対面にいる私は首を傾げた。

男子はここ最近、ずっと勉強を頑張っている。

進学すると決めたから人変わっ──てないように見える。

お喋りするし、ゲームするし、こうやって遊ぶ。

男子は男子なりの勉強方法があると思うから強制はしない。

お互い、括弧始め──それぞれ──括弧閉じ、頑張りましょう、というやつだ。


「コセガワ君も進学?」


「そだよー、ノノちゃんと同じとこ。受かればだけど、受かるつもり」


 自信満々だ。

彼の努力は知っているし、受からないなんて事はないだろう、と思う。


「そうね──あら?」


 ノノカの頭が、ゆらりゆらり、と円を描きそうで描いていなさそうに揺れている。


「おっと、電池切れ寸前。クラキさん、悪いんだけどお風呂とかお世話とかお願い出来る? 上がったら僕も手伝うから」


 まだ九時前だというのにノノカは小さな子供のようにコセガワ君の肩、腕に寄り掛かっている。

きっとはしゃぎすぎたのだろう、と思ったら違った。


「大体十時前には寝て、朝は五時くらいに起きるんだ」


 ま、なんて健康的なリズムなのかしら。

私なんて夜どんなに早く寝ようとも朝遅くまで起きたくないのに。


 するとちょうど男子がお風呂から上がってきた。


 ……水着姿を見たばかりなのに、家の中で半裸だと何だか、うむん。


「暑ー。ふん? どしたよ?」


「な、何でもっ。じゃあ私達お風呂いただくわね。ほらノノカ、立って」


 それから本当に眠りにつこうとするノノカの髪や体を洗ってあげて、服を着せてとお世話をした私はすっかりのぼせてしまった。

いつもより長くお風呂にいたせいだと思う。


「おかえりー」


「ただいま……疲れたぁ」


 リビングに戻るとノノカはコセガワ君に髪を乾かせてもらっている最中だった。


「ははっ、ノムラはもう寝てんなぁ」


 しー、と人差し指を唇に当てるコセガワ君はドライヤーの後、化粧水やら美容液やらクリームやら順序よく塗っている。


「……お前何でそんな詳しいの?」


 それ。

私だって初めて見るボトルだったり何たりなのに迷いがない。

ちなみに私はオールインワンでおしまい。


「ノノちゃんの事で知らない事はないからねー、ふふふふふ」


 私は不敵に笑うコセガワ君を、わーい怖ーい、と思いました。


 しかし全然熱が冷めない。

今日はいつもより冷たいものを食べたり飲んだりしたし──。


「──ちょっと散歩してこよっかな」


 そう言ってみた。

さっきから遠くで海の音が聞こえてくる。

せっかくの旅行だ。

涼むにはいい風が吹いていそうだし、夜の匂いの中も歩いてみたい。


 膝下丈のゆったりしたルームワンピースのままでいっか、持ち物は携帯電話と──。


「──俺も行く」


 男子。


「ふらふらしそうだしなー」


「む、しないもん」


「しなくても暗いから。あと俺も行きたいだけ」


 昼間の事があったからか、すでに男子は携帯電話と千円札をズボンのポケットに入れている。


「いってらっしゃい。クラキさん、迷子にならないようにちゃんと手ぇ繋いであげててね」


 がってん承知です、と私は男子の手を握って、夜の中に歩き出した。

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