第333話 シェイク(前編)

 学期末テストは赤点もなくて、平均点よりも上の教科が結構あって手応え通りという具合だ。

家で間違った箇所をやり直して復習しよう。


 んでも遊びてーなー……。


「──心ここに在らずね」


 ぼや、と遠くに見える漫画コーナーを眺めてしまっていた。


「……はい、戻りました」


「いいわよー、せっかくこの私と放課後お出かけデート真っ最中ですけれどー、しかもクサカ君が行きたいって言うから来た本屋ですけれどー」


「はいはい戻りました戻りました!」


 二回続けて言うのはその場しのぎと言うけれど、とまた鋭く突き刺してきた女子はしたり顔でいる。


「……お付き合いくださり感謝感激です」


「んふ、いいけれどー」


 いつも敵わない女子は横歩きしながら本を見ていく。


 帰り道から少し離れたここは本屋。

前にも来た事があるけれど、このコーナーをこんなにじっくり見た事はない。

通り過ぎるどころか、近寄った事もないといいますか。


 あー、受験生って感じするー。


 先日の面談から今日まで、俺は色々調べていた。

どこの大学にするかはまだ決めていない。

何よりもまずは行けるところを広げなければ、と参考書を買いに来た。

もうすぐ夏休みが始まるし本腰を入れる準備というわけだ。


 まぁその夏休み一日目は企画本番日なんだけれどな。


「クサカ君も進学なのね」


「シウちゃんもな」


 女子がどこの大学に行くか、知らない。


「……決めた?」


 それとないように聞いてみる。


「何を?」


 俺の悪いとこ、主語がないとこ。

けれど話の流れでわかってほしい気もする。


「大学」


「ううん。夏休みに色々見て回ろうと思ってるの。資料だけじゃわからないし」


 つまり目星はつけているらしい。


 そうだよなぁ……勉強だけじゃなくてそういうのも考えてかねぇと──何か突然忙しくなった気分。


「──焦らないの」


 と、女子が俺の顔を覗き込んで言った。


「まずは勉強と決めたのなら参考書選びに専念しましょ。問題集もいいかも」


 試験対策予想問題集を棚から引き抜く。

一気に現実感が襲ってきた。


「私も買おうかしら。ちょっとどきどきするわね。私、受験って初めてなの」


「え? だって高校受験──」


「──推薦だったから面接だけだったのよ」


 なるよど。

俺は今の学校に入るのも結構勉強したな、と思い返す。

三年って長いようで早い。

もっと早くから色々──なんて考えても仕方ない。

俺は今、こうやって動いている。


 本棚から同じ問題集を引き抜いた。

まずはこれ、一冊目。

俺が継ぎに歩くために頼るもの。


「よし、頑張ろ」


「うんっ」


「そんでシウちゃんの仕返しはどうなったんですか?」


「え、このタイミング?」


 そうこのタイミング。

じゃないとまたはぐらかされそうだから。

すると女子は問題集を片手に会計レジへと歩き出した。

俺も後ろをついていく。


「安心して。まだ仕返ししてないわ」


「いつ?」


「企画の日」


 それは予想外だ。

写真を撮ったりで当日はばたばたするかもなのにと思ったから。


「ちゃんとそれぞれ皆に話は通したから」


 そういえば昨日こそこそやってた、ような。

準備は滞りなく順調に進んでた、って事で。

やっぱり置いてけぼりくらってる、ような。


「──クサカ君を置いて行ったりしない」


 顔に出ていたか、女子は半分振り返りながらエスパーした。


「ちゃんと見ててねって言ったもんねー」


 スカートを翻して女子は前を歩く。


 時折振り返って俺を見る感じ。

俺がよそ見していないかを確認する感じ。


 今はついていくので、精一杯。


 俺はシウちゃんのために何かしてやれんのかなー……わかんねぇや。

とりあえず出来る事……喉、乾いたな。


「じゃあ気合い入れにシェイク飲まね?」


 近くのジェラート屋がこの時期だけやってるシェイクが美味いとかって、天文部の後輩らが言っていた。

あと写真映えするとかだけれど、写真のために食ったりしないのが女子だ。


「飲みたい飲みたい」


 二回言うのは、と言うと、二倍飲みたいのー、と女子は、早く行きましょ、と俺の手を取って引っ張るように歩き出したのだった。

はいはい。

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