第294話 梅昆布茶(後編)

 ──まったく、アネさんという携帯電話は困った機械です。

女子さんが好いておられる男子さんの携帯電話じゃなかったら、ボクはきっと壊れるその日まで無視しているところでしょう。

しかし関わってしまったのもご主人である女子さんが主体なので致し方ない事です。


 さて今回の話は、男子達がゲームをしており、ボクを通してその罰ゲームである写真を女子さん達に披露する、という内容です。

いやはや、男子高校生という生き物は何をしでかすかわかりません。

果たしてそれは面白いのでしょうか。

のちの黒歴史になりそうですが、ボクにはお伝えする術がありませんので放置します。

しかしそれは女子高校生の皆様にも言える事なのですが、今、ボクの前で行われているのは女の子の秘密の部分かもしれない事でした。


「──ほんとにこんなんで胸でっかくなんの?」


 ……突然にも女の子力向上実験が開始されたのです。

ストレッチしているシイバさんも決して小さくな──失礼しました。


「何もしないより効果あるっしょー」


「逆立ち腕立て伏せしてるノムラに言われてもなー」


 日課じゃい、とノムラさんはおっしゃい、オクムラさんも何だかんだと出来るストレッチをされています。

昨日もされていました。

そして我が主人である女子さんはというと、カリハナさんの長い髪の毛にブラシを通しておられました。


「綺麗な髪ね。ずっと伸ばしてるの?」


「うん、切るのめんどくさくて」


「お手入れはめんどくさくないの?」


 めんどくさーい、と言うカリハナさんとすっかり仲良くなった女子さんは笑っています。


 ……何だか感慨深いものを感じます。

女子さんにこういうお付き合いが出来る方がまた増えたからです。

ボクが知る女子さんは、また一つ、別のルートでも向上されました。


 ボクは素直に嬉しいと思いました。

ボクの中にある写真も随分増えましたね……。


 ──てとん。


 と、ボクの思考を遮るライーンの通知を感知しました。

それと──。


『──ちょっとボクちゃん聞いて!! この子達ってばおっかしのー!! っいうか良い体が勢揃いよ! 美味しいわ! うんまいわぁぁ──』


 …………失礼しました。

盛大な電波障害が起きたようです。


 さて、ボクをタップする前に、梅昆布茶、というものをひと口飲んだ女子さんは唇を舐めながら男子さんから届いたライーンを読みます。


『俺が負けなくてもお前に送っていい?』


 嫌です!! というボクの意見とは真逆に察した女子さんは、いいよー、とカジュアルに返信しました。


 そしてまたも電波障害発生、ご注意下さい。


『──だっはっはっは! やばーい! 目の前腹筋乱舞ぅ! コセガワ君ってばシックスパックなんだけれどぉ! 水かけたいっ、シックスパックに水ぱしゃぁっ! 防水予報出し──』


 ──うるせぇぇ!! 梅昆布茶でもひっかけられろぉぉ!!


 取り乱しました。

気を取り直して進行します。


 女子さんは皆さんに先ほどのライーンの内容をお話になられています。

ゲームの罰ゲームはノムラさんを経由して皆さんはもうご存知だったようで、誰が負けるかな、と予想を始めています。


「男で馬鹿だねー。何が楽しいんだか」


「だから何でも楽しんじゃうのよ」


「あはっ、辛辣ぅ。そうだなぁ……クサカ君負けそー」


「そう? 私結構負けてるんだけれど」


「負けて何してんのぉ?」


「えっ、や、その……ノーコメントで」


「あっはっは、やらしー」


「や、やらしくないもん」


「んー……コセガワ負けろ」


「オクムラ何、突然」


「こう……電波的なものを感じた」


「何それ怖い。けれどそうね……見たいのはリョ──クサカ君」


 あ。


 女子さんの言いつかえに皆さん一斉に注目します。

ありとあらゆる突起物の先端を間近に向けられたかのような女子さんは、敷かれた布団に視線を落としました。


「……何か?」


「いやいや誤魔化せてないし!?」


「うふふー、クラキちゃんかっわいーっ」


「別にいーじゃん名前くらい」


「えー? 苗字と名前じゃ違くない?」


「段階あるかも? 苗字、あだ名、名前に呼び捨て?」


 ……いやはや、ボクからすれば女子さん達女の子も馬鹿が付くくらい何でも楽しんでいるように思えます。

ですがそれはとても良い事です。

しかしこの場にいるボクは何とも居たたまれなくもないというのをこの方達はちっとも気づくはずもなく。


 ──てとん。


 どうやら男子さん達のゲームに決着がついたようです。

そしてまたもテンションバロメーターを破壊したアネサンからの電波も受信しました。

せっかくですので結果をお届けしたかったのですが、これにてボクは失礼致します。

ではどうぞ、ところどころ野太い電波にご注意下さい。


『──ぎゃああぁぁ!! 見てこれご主人とコセガワ君よ! 二人して同点負けしてやんのぉ、ご褒美あざぁっす!! よっしゃぁ!! ちょっと照れくさそうなご主人めちゃらぶりぃきゅーとぉ! コセガワ君ノッリノリでうっけるぅ! はぁ、はぁ……もうワタシ、機械人生に悔いないわぁ……』


「──保存、と」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る