第138話 シガレット・オ・ショコラ(後編)
いやー……秋の夕暮れっていいっすねぇ……しんみり、と言いますかー……。
「──アンタいつまで
「んー……」
俺は生物部がある旧校舎に続く階段の一番上から三段目に座っていた。
「ノノちゃん、クサカどう──あ、うん、変わりなくずっとそこにいるね」
「……うるせーなぁ、邪魔してねぇだろー?」
生物部植物科の二人、ノムラとコセガワが階段の一番上に座った。
つまり俺の後ろ上。
「ふられたか。はっや」
「違うよノノちゃん。まだ、ふられてないみたいだよ」
やいやい好き勝手言ってらぁ。
「違ぇーよ──」
「──じゃあ何?」
「──じゃあ何?」
ハモんなよ……。
俺は両手で頭を抱えて項垂れた。
足元も遠くもまだ夕暮れ色。
「……お前らってさ──」
「──聞こえないから移動ー。クサカ詰めて」
ノムラとコセガワは狭い三段目の俺の両側に座ってきた。
二人がやっと通れるくらいの幅なのに、ぎゅうぎゅうだ。
「……お前らってどういうやつ?」
「幼馴染」
「……腐れ縁」
コセガワのやつ、ちょっと濁したな。
まぁいいけれど。
「結構言い合ったりする?」
「言うー」
「言うねー」
言い合いの種類を変える。
「喧嘩みたいな文句とか?」
「コウタロー頭固過ぎー、とか」
「ノノちゃん短気過ぎー、とか」
俺を挟んで睨み合うのは止めていただきてぇ。
「じゃあ──逆は?」
コセガワの視線が刺さった。
ちょっと反撃のつもりが、こう耳打ちされる。
「自分が言えなかったからってそれはないんじゃない?」
……ごもっとも、俺最低。
俺は、ごめん、と声に出さず口だけを動かして伝えた。
するとノムラが、こそこそ何だ! と騒いだので俺は、俺の理由説明をして逸らした。
「……今日一日無視、アンド、既読スルー祭り」
携帯電話の画面を見せると、食い入るように見る二人に体を反った。
「──ああ、モデルってあれか。タチバナちゃんがメイク部と写真部と合同でやるっつってた自主企画もん」
合同とか、それは初耳だ。
「クラキさん誘うなんて、タチバナちゃん見る目あんじゃーん」
「……うん」
そう思う。
誘うのもわかるし、見る目あるってのもわかる。
女子は、キレーだ。
「……なぁんで俺、茶化しちゃったかなぁああああ」
今は反省するばかり。
しかし反省しても言いにくいものは言いにくいままで、今言ってもというのもわかっていて、じゃあどうすれば、とやっぱり黄昏るわけで。
そう俯いていると、ノムラとコセガワが何か食べているのに気づいた。
煙草みたいに指で挟んでいて、かっこつけて齧っている。
さくぱりっ、と美味そう。
「……何それ」
「クラキさんから貰った。手作りだってー」
俺は、はあぁぁぁああぁあ、と深く深くため息を吐いた。
俺にはくれなかった、羨ましい。
「ん、ノノちゃん、口の端に欠片ついてる」
「むっ──さんきゅ、ってコウタローもついてんじゃんよ」
「お──ありがとノノちゃん」
俺の目の前に腕が伸びては、伸びた。
「──いちゃこらすんじゃねぇやい!」
「は? してねーよ。つーかクサカが言うんかいやー。色々聞かされてるアタシら側の事もちったぁ考えた事あんのー?」
ぐぬ。
「いちゃこらって、これくらい僕達だと
「フツーって何だよ……」
コセガワはお裾分けのお菓子を一本、俺にくれた。
ノムラの手には三本あるけれどこれはくれないらしい。
ケチ。
「フツーはフツーだよ。僕とノノちゃんにしかわかんないと思う。年季入ってるしねー」
「それ。アタシらのフツーってやつ」
いただきま、と、ぱりっ、とお菓子を食べる。
ビターチョコうんま、歯応えと音好み。
ごくん。
「……俺はあんまそういう……キレー、だとか、軽く言いたくない、ような」
俺のフツー。
「あっそ」
「ふーん」
ぬぅ……っ。
見なくても二人のにやついた顔がわかった。
けれど俺はそうなんだ。
気恥ずかしいとかそういうものもあるけれど──。
「──
一つ一つ、大事にしたい。
言う時はちゃんと言いたい。
言えなくて、もたついて、逃げても逃がしてもあったけれど、だからこそ、ちゃんとしたい。
俺はクラキと、そういうフツーになりたい。
「……いーんじゃない? ね、ノノちゃん」
「うん、いーんじゃん? 軽口で馬鹿した事は何も解決してないけれど」
ぬぅ……っ、あーそうですよ! さくっ、と言ってしまいましたよ!
ぱりぽきさくぱき、とお菓子を一本食べ切って俺は勢いよく立ち上がった。
「なぁ、そのモデルの企画っていつあん──のぉ!?」
俺は少し降りようとしていた階段から足を踏み出したようで──。
「──っ!」
「──馬鹿っ!!」
──それは一瞬で、すぐに、コセガワとノムラが俺を掴んでくれていた。
「……び、びびったぁ」
三人して、はー……、と息をついた。
俺はノムラに抱きかかえられるように掴まれていて、頭がむ、胸のところにあった。
コセガワは俺の腕をしっかり握っていて、片方は手すりを握っていた。
長い長い階段は急な階段でもある。
スキージャンプの坂、と表したらいいか。
「ほんとだよ。びっくりした……はぁ」
「馬鹿クサカ! 本気で危ないんだから! もー……怖かったってぇ……っ」
と、ノムラに頭を思いっきり殴られた。
超痛ぇ。
「ご、ごめん。二人ともありがとな。マジ助かった──あれ?」
ノムラから離れて座り直した俺は足元を見る。
足首に違和感。
「……足、捻ったっぽい」
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