第137話 シガレット・オ・ショコラ(前編)

 ミツコです。

ライーンで待ち合わせしていたあたしは今、小さな公園に来ています。


 学校帰りの時間、小さな公園はまだ小さな子供達も遊んでいて、母親達はお喋りに花を咲かせている。

そして箱ブランコの対面に座るシウはお菓子を指に挟んで、むすっ、とした顔でいた。


 あたしは女子に貰ったお菓子──シガレット・オ・ショコラだっけ? それを食べた。

ぱりり、と割れる感じとビターなチョコレートが美味しい。

昨日、シウがお父さんと一緒に作ったらしい。

透明のタッパーに入れられたその本数は結構な数で、クラスメイトにもお裾分けしてきたとか。


「……ちょっとー、せっかく遊んでんだからその顔やめなさーい、よっ」


 と、あたしはシウの頭を軽くチョップする。


「ご、ごめんなさい」


「で、今度は何言われたー?」


 女子は最近クサカと、彼氏彼女、になった。

ライーンでその報告を受けた時は──嬉しく? なったような。


 ……うん、嬉しかった。

だってシウ以外とかさ、何か余計もやもや……違う! あたしがこんな風に思っても何にもなんない! 良かった! それだけ!


「ミッコちゃんどうしたの?」


 あたしはいつの間にかお菓子を口に咥えたまま頭を抱えて、うわああ、となっていたようだ。


「う、ううん。で?」


「で、というか……言われなかったと、いうか」


「何を?」


 ぱりっ、とまた一口。

春巻きの皮にチョコを塗ってオーブンで焼くって言っていたっけ、今度弟達に作ってやろう。


 するとシウが、ぽつぽつ、と話し出した。

時折お菓子をぱり、ぱり、と食べて、あっという間に食べてしまってもう一本。


「へー。あんたんとこの学校、部活にちから入れてんのは知ってたけれど、マジ凄いねー。しかもモデルとかさ、めっちゃ楽しそうじゃん!」


 いいなー、とあたしも一本目終わり。

軽くて次々食べちゃう。

やばい──やばくない! 美味しいもんは食べる! 気になるなら運動してなくなった気持ちにする!


「そんで?」


 もう一本、タッパーからいただきます。

ワックスペーパーで包むように取って、半分捲って出す。


「……綺麗って言って欲しかったのに、言ってくれなかったの」


「は?」


 シウは、ぱりり、とお菓子を齧った。


「いやー……それは、なかなか」


「だ、だって、誘ってくれたタチバナ君っていう後輩は言ってくれたんだもん」


「それはいいよ。けれど後輩は後輩、クサカはクサカでしょ。同じ男の子だからって同じように言うとは限らないじゃん?」


「そうだけれど……」


「あんたが欲張りだってのは知ってるけれどさー、ちょーっと考えてみ?」


「何を?」


 あたしは足を組んでお菓子を煙草のように見立てて指に挟んだ。


「クサカがそういう、綺麗だとかって言うと思ってんの?」


 そう聞くとシウもあたしと同じように足を組んで、お菓子を煙管きせるのように見立てて手を反った。


「……言わないわね」


「わかってんじゃん」


「わかってるけれど、欲しかったんだもん」


「子供かーっ!」


「子供です」


 いやはや、これはどう言ったらいいものやら。


「……まぁ、期待するのはわからないでもないけれどさ……シウは何かしたの? とか、思う」


「私は……して、ない。何も」


 もちろんモデルを頼まれるとか、そういう素質? わかんないけど直感みたいなのがあって誘われたんだろうし、あたしもシウは可愛いと思う。

綺麗だとも思う。


 クサカ、口へったくそだからなー……っていうか普通言えないっつーか言いにくいよ。

タチバナ君っていう後輩とやら、余計な一言──でもないけれど、やらかした系──。


「──じゃあさ、逆で考えてみよーよ」


「逆?」


 どうにかの提案。


「そ。クサカのいいとこ、あたしに言ってみて」


 シウは腕を組んでお菓子を揺らした。

この子、ほんとに煙草吸いだしたら少し迫力あるかもしれない。


「……気が利くところ?」


 疑問形が気になるけれどいい調子、次ー。


「や、優しい……と、ところ?」


 やっぱり疑問形だけれど出たは出た。


「それとー?」


 楽しくなってきたあたしは、にまにま、と見ている。

シウは言いにくそうに顔を歪めていて、悔しそうに小さくなっていった。


「か、かっ……かっこい、いぃいい──


 言いにくいは言い切らせてくれずに、逆の事をはっきりと綺麗に言い放った。

瞬間ふき出したあたしはひとしきり笑ってからシウの頬を指でつつく。

ぷにぷに。


「ほーらね?」


「むぅん……」


 言いたいけれど言えないっての、あるでしょ? って事! だから多分、クサカもシウを綺麗だって思ってんじゃない? っていうのはあたしからじゃなくて二人で頑張れば?


 と、あたしはシウの惚気のろけにあと少しだけ付き合ってあげる事にしたのだった。


 あーあ! あたしって良い奴じゃね?

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