第118話 ペッパーチーズクッキー(後編)
「──いやいや、俺は付き合ってるつもりっすよ? だって
「俺を見ねぇでくださいよ聞かないでくださいよ」
カトー君ってばとっても素敵に嫌な顔をしている。
なかなか素直に表情出す子はいないから見ていて楽しい。
「とりま、クサカ君的告白は成功したのね。おめでとう」
以前のだっせー発言は撤回しましょう。
「それで? お付き合いしましょう、って言っていなくて
「そ……そういう感じ? です。何でか」
ふーむ、やっぱりめんどくせー。
好きです、好きです、イコール、付き合いましょう、の流れにならなかったのが不思議ね。
クサカ君の彼女さんは厄介なのか、厄介にならざる得なかったのか。
なーんて、分析はこの辺でクッキーを楽しみましょう。
もう一枚、とカトー君が持つ袋に手を伸ばす。
「時にカトー君の彼女はどういう子なの?」
「おっぱいでっかい子です」
「ちっ」
「聞いといて舌打ちとか──あ、すいません」
「次謝ったらその可愛いお尻を撫でまくる」
カトー君はそのまま黙ってコーヒー牛乳を飲んだ。
判断の良い子はテンポが良くて好み。
さて、次はこっち。
「クサカ君の彼女──じゃないかもしれない好きな子はどういう子なの?」
「え、えー……」
クサカ君はカトー君のように即答出来なかった。
けれど悪くない。
どれを言おうか迷ってる、つまり沢山あるようだからだ。
「……目が、真っ直ぐな子、です」
「へぇ?」
話をする時、しない時も、真っ直ぐ、なんだそうだ。
見ると見てしまう──
「二人とも素敵な子を好きになったのね」
そうわたしが言うと二人ともあらぬ方へ視線を逃がして少し顔を赤くした。
「羨ましいわ、とても」
──わたしは好きにならなけばならないから……聞いてばかりじゃあれね、わたしの話もしましょう。
「わたしね、
もう教えない。
またがあったら、また今度。
「……先輩?」
なんでもない、と少し黙ってしまった
今はわたしの話より、クサカ君の話だ。
「ちゃんとわかってると思うわ、お互いにね」
「……だと、いいんすけれど」
うーん! もうはっきり言いましょうか。
煮え切らない可愛い後輩のために──。
「──空気読めってんだよなー。
──飾らない口調で言ってあげましょう。
するとわたしの見せていなかった一面に二人は、ひそひそ、と話し出した。
「…………突然変異」
「……ミズタニ先輩って実はこんな感じ。キャラ何個も持ってるっつーか」
「マジっすか」
「多分、ちょい
「クサカ先輩座るとこ変わってくださ──」
「──カトー君何かぁ? わたしのお隣嫌ですかぁ?」
何でもありません、とカトー君は呟いてステイ。
そしてこう続けた。
「あのー、空気もいいっすけど、やっぱ付き合うとか凄ぇ事だと思うんで……あんま簡単に言ってやるのも、どうかと。俺ら第三者からだとめんどくせーとかさっさとしろとか思うし言っちゃいますけど、結局は当人次第」
……そうね。
大変な事で、
「だからアドバイスになるかわかんねぇけど……言葉だ
わたしはカトー君の背中を軽く叩いた。
いい男だから。
「……凄ぇな、お前」
「好きな奴の前で情けねーの嫌なんで」
いーね、男の子達の会話。
弱いのに強がって、かっこつけて──かっこいいじゃない。
「──クサカ先輩、上」
と、わたしと男子は教室棟を見上げた。
その二階の窓から顔が三つ覗いていて、あの真ん中がクサカ君のあれで、右のツインテが俺の彼女です、とカトー君が教えてくれた。
「今言わないと言われちゃいますよ。ってライーンきました」
「もう今しかないわね。がんばれー、ふぁいとー」
驚きと戸惑いのクサカ君はベンチから腰を上げた。
手にはペッパーチーズクッキーとコーヒー牛乳。
それは置きなさいよ、と思ったけれど見守りましょう。
※
男子 ── 女子。
女子が俺を見て、待ってる? じゃない。
やばい、って思った。
だって俺は、先に言いたい。
男子が私を見て、何を言おうかと考えているみたい。
まさか、って思った。
けれど私は言うって、決めている。
「──あのさ!!」
俺は叫んだ。
私は呼び声を聞いた。
中庭でやや響く声は大きい。
きっと他の人にも聞こえている。
言う ── 言われ、る?
「──付き合ってた!!」
「……うん!」
私は言われて、しまった。
そして応えた。
あんなに考えていた返事は、あっさり、二文字。
少し笑ってしまうほどあっけないもので、狭いベランダの柵の縁に手を置いて、男子を見つめる。
俺は言って、立っていて、見上げている。
あんなに考えていた言う言葉は、変なやつだった。
けれどまだ、終わりじゃない。
女子と同じように、真っ直ぐ、真っ直ぐ──。
「──だから! 今? からも、付き合ってたを、しませんか!?」
……ぬぅあああ、もうっ! 下手くそかよ俺! けれどもう、言っちゃった。
── 付き合ってた、しませんか? ──
※
「──クッキー美味しいわね、カトー君」
「ミズタニ先輩食べすぎっす」
「失礼、止まんなくて。で、どう? クサカ君の男気度は」
カトー君は薄く笑った。
「いーんじゃないっすか? だって先輩達、良い顔してるんで」
二階にいるクサカ君の好きな人──今、正式に彼女になった彼女さんは、とっても素敵にほほ笑んでいる。
やや小さくも響く声がわたしにも聞こえた。
はい、って恥ずかしそうに嬉しそうな声は、幸せの声だった。
「時にカトー君。キミはわたしと似ているわねぇ」
「……うーわ?」
「あ?」
「……なぁんで俺の周りはめんどくせー先輩しかいねぇんだ……平穏をくれぇ……」
カトー君がぶつくさ呟いたので笑ってしまった。
「ほんと、めんどくさいって面白いわね。そんな後輩ばかりで、わたしは楽しいわ」
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