第117話 ペッパーチーズクッキー(前編)
はい、ミズタニです。
只今天文部の後輩であるクサカ君と一緒です。
そしてもう少し後に、妙な取り合わせが出来上がります。
クサカ君とは偶然、中庭に面した通路にある自動販売機前で居合わせた。
「──天文部の子達、元気でやってる?」
さて何を飲みましょうか、と百円を飲ませた自動販売機に指を差して、うろうろ。
「引退してからそんなに経ってないじゃないっすか」
「だから気になるのよ」
そっすか、とクサカ君が答えたと同時にコーヒー牛乳のボタンを押した。
甘い飲み物は久しぶり、たまにはいいでしょう。
するとクサカ君も続けてコーヒー牛乳のボタンを押した。
がごぼんっ、と落ちてきたそれを中腰で取っている。
「……雰囲気、変わったわね」
「そっすか? ──あ」
あ?
「あ」
小さな小銭入れを握り締めているであろう──一年生? の男の子が自動販売機があるこの通路の少し向こうで立ち止まった。
「……ちっす、クサカ先輩」
「ちわ。カトーも部活途中?」
「っす。つっても自主練なんで部活はないんですけれど」
ふむ、どういうお知り合いかしらね。
「──どうも……三年の上履き……」
「どーも、こんにちは」
ふーん、強い眼。
わたしと同じで観察してる。
手っ取り早いのはこの方法。
「どういう関係?」
聞く。
「……ひょんな、関係?」
クサカ君は質問を質問で今度は一年生に聞いた。
聞いているのはわたしなのに。
「ひょんはひょんっすけどね。書道部一年のカトウです。クサカ先輩とは、色々、ありまして、友好か敵対かよくわかんねぇ関係です」
あらあら、とっても面白いじゃない。
カトー君もわたし達と同じコーヒー牛乳のボタンを押した。
そして反対の手には透明の袋いっぱいのクッキーが見える。
「スイーツ部かと思った」
「ああ、これはさっき彼女から貰いました。出来立てほやほや──え、嘘でしょ」
わたしはカトー君の肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「初めましてカトー君。わたしは三年のミズタニです。せっかくの出会いだもの、そこでお茶しませんこと? ね?」
中庭のベンチを指差して、クサカ君にも視線を送って逃がさない。
うふふふふ。
※
「──クサカ先輩、何すかこれ」
「……わからん」
「えー……俺今かなり気まずいっす。部活でも関係ない三年と二年と一年の俺っすよ? ほんと──」
「──ほんとねー。だから面白い事でも起きるかなと思ったんだけれど、異議でもありますかぁ?」
中庭のベンチに私達は並んで座っている。
カトー君を真ん中に、左にわたし、右にクサカ君の位置だ。
「……ありません」
「ちょ、カトー……俺ん時と態度とか口調とか違くねぇ?」
「危険センサーのようなものが働いて、つい」
「うふふ、賢明ね」
なんて、あまり気にしないけれど面白いからこのままびびらせておきましょう。
「はぁ、まぁ休憩したかったんでいいっすよ。どうぞ、胡椒とチーズのクッキーだそうで──早ぇなあんたら。すいません先輩達」
わたしと男子は同時に手を伸ばしてペッパーチーズクッキーを二枚ずつ取った。
遅れてカトー君も一枚。
「はい乾杯」
「クッキーで、ですか? 変なの……」
「ですよ? 変でも」
さり、と珍妙な出会いにクッキーの角を合わせる。
そして、いただきます。
んん、甘さ控えめで粗びき胡椒の、ぴりっ、としたアクセント。
チーズの独特の香りも美味しいわ。
「──ところで先輩、あ、クサカ先輩の方っす。あれからどうなったんすか? もう付き合い始めたんすよね?」
「ぐっ!?」
おんやぁ? さらに面白い話が出てきたわ。
ざくざく、と食べて、にんまり。
告白失敗したくさいところまでは知っているけれど、それからどうなったのか、とっても興味深いじゃあないですか。
「つ……付き合ってんのか、ね?」
わたしとカトー君はベンチから前のめりで男子を見た。
二人してまだ咀嚼中で、じっ、と見つめる。
「……告白は、い、言いました、よ」
ごくん。
ついでにコーヒー牛乳も、ちゅるー、ごくん。
「──
「──
やや違えど同じつっこみをしてしまったわ。
てとん。
カトー君の携帯電話に通知音が鳴って、失礼、と言って操作し出した。
しかしすぐに顔を上げて。
「──どうやらあっちもそう思ってるみたいっすよ」
と、携帯電話に映されているライーンの画面を見せてくれた。
『大変大変! まだ付き合ってないとかぬかしてんだけど!』
本当に大変。
それと同時に、こう思ってしまった。
「……めんどくせー」
「……めんどくせー」
これもカトー君と同じつっこみをしてしまったわ。
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