第58話 フェアリーケーキ(後編)
書道部から移動した私達は教室棟の二階にいる。
「──私はメレンゲ。ミッコちゃんは?」
「じゃあ……バタフライ? にする」
かしこまりました、と正統派メイド服を着た隣のクラスの女の子は、しゃなり、と膝を少し曲げて下がった。
仕草も本格派? というわけか。
「こういうとこ、好き?」
「うん、女の子だし?」
「ふふっ、そうね。お茶会みたいな?」
「そうそう。あと──女子トーーーーク」
……おっとー。
ミッコちゃんは机に身を乗り出して聞いてきた。
さっきの続きだ。
「で、何すんの?」
もう観念するか、と息をつく。
「……書道部で、パフォーマンス、するの」
「はーい見に行く。ヤな顔しても無駄ー、決めたもん。シウの勇姿? 見てみたい」
そんな大層なものでもないけれど、ともう諦めた私はまた息をついた。
「……っていうか、今カップル限定タイム?」
周りは私とミッコちゃんの席以外、男女の席が多い。
そういうわけでもないはずだけれど、と左右横目で確認してみる。
「……あの子達は同じ部活ってだけ。他校に彼氏がいるって聞いた事あるわ」
「だっよねー。異性が二人一緒にいるからって、すーぐ付き合ってるだとかってさー。って、あたしも言ってたか」
聞いた覚えあるかも、と肩を軽く上げてみせた。
「言われた事はあるの?」
「あー……うん。誤解? みたいな」
聞けばクラスの男の子と趣味が一緒で、話していただけでそう言われたらしい。
「ある事ない事も言われ始めてさ、内心うるせーーっ、とか思って色々我慢してたんだけど、やめたの。うるせーってマジで言って、今はすっきり」
今日一緒に来てる子はそういうのを全く気にしない、気が合う子らしい。
「良かったわね。それに私とも気が合うわ。うるせーーっ、って思うもの」
あれやこれや詮索するのはどういうつもりなのかしら。
それとも私は何か誤解を見せてしまっているのかしら──全部、私のせいじゃない。
「──お待たせしました。フェアリーケーキとアイスフルーツティーです」
今度は正統派執事姿の男の子が堂々と運んできた。
もう慣れたのか、かちゃかちゃ、とケーキ達を置いていく。
「ありがとう」
「あ、どうも。あ、違う、えーと──」
ありがとうございます、お嬢様──と、執事の男の子が言った瞬間、ミッコちゃんは盛大にふき出した。
「あははっ! お嬢様なんて初めて言われた! かっゆい!」
「もうミッコちゃん、雰囲気ぶち壊し」
ほら、執事の男の子も笑ってるけれど恥ずかしそう、ごめんなさいね。
「ごーめん、ありがとねー。へー、カップケーキなんだねー」
私のケーキは絞ったメレンゲに少し焦げ目がついていて、多分中はレモンカードが入っている。
ミッコちゃんのケーキは真ん中がくりぬかれていて、中に生クリーム、これもレモン風味? そのくりぬかれたスポンジが半分に切られていて、バタフライの名前のまんま、羽のように飾られている。
「いただきます」
「いただきまーす……羽をもぐみたいでなんか……でも食べるっ」
私も綺麗なケーキに躊躇──は、数秒だけして、フォークをぐさり、刺す。
ふんわり、しっとり、そして、ごくん、と飲み込んだ時、ミッコちゃんと目が合って、微笑んだ。
「美味し」
「うまーい!」
アイスフルーツティーも美味し。
イチゴやオレンジ、甘い香りがケーキと合うし、見た目も華やか。
カップルでも、カップルじゃなくても素敵だわ。
あ、そういえば──。
「──甘い物は太るんじゃなかったかしら?」
「……ごめん! あれは、意地悪った。ほんとは甘い物好きなの。やっぱり気になって、この前あのカップケーキ食べたんだ」
「正直でよろしい。美味しかったでしょ?」
「あたしが悪いんだけどむかつくっ。でも、うん。あれはオススメしちゃうのわかるわ」
「なら良いの。嬉しいな」
するとミッコちゃんはフルーツティーのカップを持ったまま私を見つめていた。
「……シウってさ、いつもこういう感じ?」
「どういう感じ?」
「はっきり言う感じー」
「そうでもないと思うわ」
だって、言えない事も、たくさんある。
「……そっか」
と、ミッコちゃんの
にやけたような、安心したような。
「あ、お菓子半分こー」
そうだった、と机の上に勝利のお菓子を広げる。
チョコにクッキー、煎餅に飴玉。
それと──。
「──これ、貰っていい?」
「いーよー。あ、それ見て思い出した! あいつの部活んとこ行った?」
あいつって、男子?
「時間あるなら行ってきなよ。えーと、あたしのオススメ!」
「どうして私にオススメなんて──」
「──友達には共感してほしいのー……って何その顔。ちょ、照れるんだけど?」
私はにやけていた。
友達って言ってくれたのが、とても嬉しくて。
「私、ミッコちゃんの事大好きよ」
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