第51話 アイスフルーツバー(前編)

 この学校には教室棟、職員棟、実習棟と三棟ある。

そして俺が今いるところは、実習棟の三階の端っこ。

あまり使われない教室──視聴覚室だ。

ここは放課後、天文部の部室に変わる。


「──あ、先輩、お疲れ様でーす」


 後輩の一年生の男が俺に気づいて声を掛けた。


「うーい。おー、形になってきたなー」


「はい! 順調です! あ、アイス!」


「ん、先生から差し入れっす。部長、溶けちゃうんで休憩どうっすか?」


 じゃあ休憩しましょうか、と部長である三年生の女の先輩が皆に言った。

皆、とは天文部の部員、俺を含めて計十二名だ。


「──早い者勝ち!」


 と、部長の掛け声で、わらわら、と俺の手元に集まってきた後輩達は次々に取っていく。

大きめのビニール袋からあっという間にアイスがなくなっていった。

この夏の間だけ、学校の近くの店が出しているこれ──アイスフルーツバーは、生徒達の間で人気で、当然、俺も好きだ。


「出遅れちゃった」


 三年の女の部長──水谷一椿ミズタニイツキ先輩は微笑みながら最後の二本をビニール袋から取り出した。

ミズタニ先輩は背中の真ん中くらいまで長い髪をさら、となびかせていて、微笑みを絶やさないけれど雰囲気はクール? な人だ。


「どっちがいい?」


「俺はどっちでも──」


「──良くない。ちゃんと選びなさぁい?」


 ミズタニ先輩はこういうところがある。

曖昧な返事や、今みたいな遠慮を許さないというか、ちゃんと主張しろ、という、はっきり、を好む。


「……すんません。じゃ、こっち」


「よろしい。わたしはこっちが食べたかったの。ちょうどよかったわねぇ」


 なんだかなぁ……。


 ※


 濃厚だけれど後味はしつこくない。

ブルーベリーの酸っぱさで口の中リセット、あ、一口ずつエンドレスだこれ。

うんまー。


「パーツパーツだとわかんなかったけど、結構でかいんだなー……」


 俺は食べ歩きしながら組み立てられたを軽く触ってみる。


「まだしっかり固定してないんで強く押さないでくださいよー」


 後輩に注意されてしまった。

あぶないあぶない。


 今日は俺達、天文部は、文化祭の企画制作にいそしんでいる。

じている、と言った方がいいかもしれない。


 すると三年生の先輩三人がこんな事を言い出した。


「よかったなー、三年最後にこんな企画出来てさ」


「そうだな、一年がこんなに入ってくれたしな」


「ほんと。わたし達の代で廃部って思ってたのが懐かしいわよねぇ」


 一年は全員で八人いる。

こんなに入部してくれると思わなかったのは俺も同じだ。

ちなみに二年は俺、一人だ。


「……まだ出来てもないんで、しんみりするのは早いんじゃ?」


「そうね、悪かったわ。じゃあ引き続き作業やっていきましょ」


 この作業というのが楽しいけれど、結構な大変さで。

男子生徒でのドームを組み立てていて、全部で四つある内のまだ二つ目。

春、夏、秋、冬──の四つだ。

パーツは全員でやったけれど、あまり人がいても混んでしまうという事で、女子生徒は、十二面体の、恒星こうせい球、というやつに星を写す作業をしていた。

それをしていた一年生の女の子達は、そろって目を閉じてアイスを食べている。


「お疲れさん。細かくて目、疲れただろ」


「い、いえっ。細かい方が綺麗だと思うし、ねっ!?」


「えっ、うん、あっ、はいっ!」


 うーん……あんま部活っつっても集まる事少ないからか、緊張が伝わってくるなぁ。

ある意味初々しいっていうか。


 しかし女の子でもこうも違うか……あいつは明け透けなとこあるし。


「が、頑張るん、です。楽しいので!」


 と、妙に張り切る一年生の女の子がそう言った。


「……ははっ!」


 思わず笑ってしまったら一年生の女の子達は、えっ、と驚く。


 こういうところは誰もが同じか。


 すると一年生達は思い出したように動き出した。

それは部長に、らしく。


「──あの、部長! この前の話し合いにはなかったんですけど、一年から追加の提案があるんです。今、い、いいですか?」


「では皆で聞きましょう」


 俺も含めて全員、注目。

緊張してるだろうけれど、頑張れ。


「あ、あの……星だけで綺麗なんですけど、解説とかもしないじゃないですか。なので、小さくでいいので、曲、かけてみたらいいんじゃないかなと思って」


 それは良い考えではないだろうか。

しかももう一年生達で選んできたとか用意もいい。


 それが携帯電話から流れてきた。


「──十分じゅっぷんくらいで一周、って事なので、曲も目安になるかと……どう、ですか?」


「はい、採用」


 文句なしに、と俺達先輩ズは頷く。

一年生達が選んだ音は、オルゴールだった。

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