第48話 ミックスジュース(後編)
教室の廊下側の一番後ろの席で、私は男子の横顔を見ていた。
ミックスジュースはもう飲んでしまったのか、紙パックをぺこぺこ、と膨らませて凹ませてを繰り返し遊んでいる。
「──はーい、とりあえずざっくり役割分担はこんな感じー? 足りないのあったら言ってってー、足すー」
委員長のノムラさんが、てきぱき、と黒板に書き出してクラスをまとめている。
まずは何の演目にするか、じゃないのかしら?
そう思ったらクラスメイトから同じような声があがって、それはクジ引きに行ったコセガワ君が戻ってからにしよう、という話になった。
それから男子がこんな発言をし出した。
「はいはーい、ちょっと質問ー。部活で忙しい奴もいると思うんだけどー?」
それは一理ある。
部活が盛んなこの学校はどの部活でも文化祭で何かしらの企画をする。
「んー、どーーーーしても都合つかないとか無理ってなったら皆で協力! 役割交代とかさ。でも何もしないってのは無し。みーんな忙しーんだからそこは忙しさの割合とか関係なしで全員一緒にする。皆それでいーいー?」
ノムラさんの答えに、意義なーし、とあっさり決まった。
早速の団結力に少し笑ってしまう。
「んじゃ、劇の演目決まってないけど役割はこんなん。で、先に決めれそうなのは決めちゃうってのはどうかねー? 得意とかやりたいとか、そういうので各一人なり二人。知識あるのがやりやすいとかあっかもだけど、初めてでも全然おっけー。はい、手ぇあげろー」
黒板には、役者、演出兼監督、脚本、音響、照明、大道具、小道具、衣装などなど、細かなものもちらほら書かれている。
やる事はたくさんある。
するともう手が上がって、工作部の男の子が大道具に手を上げた。
今度は手芸部の女の子が衣装に手を上げる。
「どんどん決まってくなー」
「ええ。あなたはあの中で得意なものとかある?」
残念ながら、と男子は肩を竦めてみせた。
ちなみに私も、これ、というのはない。
劇の台本──お話は書いた事はないし、大道具は男の子って感じだけれど色塗りなら楽しそう。
衣装は簡単な縫い方くらいなら何とか出来そう。
少しだけミックスジュースを口に含んだ私は黒板を眺める。
「はーい、各部活で得意でーっすって感じで手ぇ上げてくれてあんがとー。詳しい人いると
「──って事は、演出兼監督はノムラさん?」
あ、つい声に出ちゃった。
皆が私に注目──。
「──それ、僕も賛成ー。皆はどう?」
と、私の後ろ──教室の後ろの扉からコセガワ君が戻ってきてそう言った。
注目はこっちだったか。
「ずばずばもの言えんのノムラくらいだし、いーんじゃね? まとめ上手いし」
続いて男子もノムラさんを推薦した。
いつの間にやらクラスメイト達は一人残らず拍手で賛同する。
「……わーかった。んじゃアタシ、と」
しぶしぶ、というより、よしっ、と言うようにノムラさんは黒板に自分の名前を書いた。
「援護ありがとう、コセガワ君」
いえいえ、とコセガワ君は教室の前の方、教卓へと歩いていく。
彼とは雨の日からよく話すようになった。
結構楽しい人、と目で追っていると、男子の横目と目が合った。
「もしかして演出やりたかったの?」
「……いーや?」
じゃあどうして口が尖っているのかしら?
「戻ったコセガワでーす。演目決めよー。劇をやるのはクジを引いちゃった三クラスと演劇部、計四公演ね。さっき聞いたんだけど演劇部はロミジュリやるってー」
ド定番、と思いきや──。
「──なんと、演劇部は男子生徒だけでやるらしいよー」
……面白い事するわね、演劇部。
※
それからなんやかんやと決まっていって、私達のクラスは童話をアレンジした脚本、という事になった。
これもまた定番か。
「童話だと、シンデレラとか? ガラスの靴履いてみたい」
「へー、お前もそういう事思うんだ」
「そりゃあ私も女の子だもの。憧れるわ」
綺麗なドレスに綺麗な靴。
「何とか姫、ばっかりじゃん」
「あら、男キャラもいるでしょう? 動物とか使いっぱしりとか落ち武者とか」
「ははっ! 落ち武者入れてくんの何でだよっ。つーか重要なのいるだろ。王子役》」
「なぁんだ、わかってるじゃない」
憧れるのは、お姫様だけじゃない──素敵な王子様がいるところ。
黒板には色んな童話の案が書かれていく。
どれもこれもよく知っている、憧れたお話ばかり。
「アニメだと歌って踊ってるよな」
「ええ、ダンスシーン好きよ」
「踊れんの?」
「まさか」
「だよな」
テンポが良い返しで笑っちゃう。
「けれどそうね、機会があれば──なんてね」
これも憧れ。
「ふーん……」
それから演目はまたクジ引きで決める事となった。
副委員長のコセガワ君の引きは何に当たるか。
そして決まった。
私達がやる劇は──白雪姫。
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