ルッキング・フォー・ライトハウス

 ああ、誰か私を導いて。こっちにおいで。こっちの道が正解だよ。そう言って私に手を差し伸べて。別に白馬に乗った王子様じゃなくていい。誰でもいい。もし私が選べる立場にいるならこの人が良いって言って、相手を選ぶかもしれないけれど、私を導いてくれるなら誰でもいい。誰でもいいから誰か私の灯台になって。この暗くて広くて荒れた海みたいな世の中を照らしてほしい。




 はあ。こんなことを空想したって何にもならない。もし私が人気エッセイストならこんな感じでラフに書き始めて、何らかの価値のあるものが生み出せるのかもしれないけれど、私はただの総務部の平社員。パスタサラダを食べ終わって一息ついてる昼休みにスマホのメモ帳に書いては消すくらいのことしかできない。

 別に不自由はしていない。こうやって仕事があってお給料がもらえる。電車で3駅のマンションの一室で一人暮らし。長期休暇のときには実家に帰る。たまには同僚と飲みにいったり、大学生時代の友達と落ち合ってショッピングしたり。仕事はそんなに苦じゃない。やりがいという点に関しては合格点すれすれくらいだけれど、私に向いてる業務内容かもしれないとは思う。人間関係も健全だ。おじさんくささはあるものの親しみやすい牧原課長と同期の斉藤、後輩の宮田さん。私含めてこの4人が一つのチームみたいな感じだ。

 給料も悪くないしブラックじゃないから有休も取りたいように取れる。昼ご飯は今日みたいに買ってきたもので済ます日もあるが、作業に余裕があれば1000円くらいのランチを楽しんだりもする。晩ご飯は基本的に自炊。家事は最低限のことしかしていないけどゴミ屋敷にはなっていないし人間らしい生活を送ってると思う。まあ20代後半の現在、彼氏がいないことくらいが周りから見れば満ち足りてない点なのだろうけど私は別に彼氏がほしいと強烈に思っているわけじゃないので、そこに不満を感じることはない。


 そう。そうなのだ。不満はないはずなのだ。昼休みがあと3分で終わることに気づき思考を段々と仕事モードにチェンジしていく。冷静に現在の自分の現状を分析していると最終的にたどり着く結論はいつもここ。「不満はないはず」自分の思いなのに「はず」と断りたくなるのは、やはりどこかで不満を覚えているということなのだろうか。無意識につけてしまう「はず」。不満はないはず、不満はないはず、不満はないはず。こうやって唱えていても、うっすらと心にかかった霧は晴れない。でも、その霧の原因を考えてみても思い当たる節はない。だけど、おそらく自分に自信が持てないことが遠因なのだろう。ああ、やっぱり霧の中を導いてくれる存在が欲しい。

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