特別編
前編
特別編
6月22日、火曜日。
依然として梅雨の天候は続いており、今日も朝からずっと雨が降っている。ただ、梅雨入りした頃よりも蒸し暑さが強く感じられる。6月も下旬となり、7月が近いからだろうか。
また、多くの高校生にとって、近日中に訪れる一大イベントがある。
期末試験だ。
東京都立
中間試験では2年生の文系クラスの中で5位となり、初めて成績上位10名の一覧に載ることができた。期末試験でも上位者の一覧に載れるように頑張りたい。
また、校則により、定期試験1日目の1週間前……つまり、今日から全ての部活と委員会の活動が原則禁止となる。それもあってか、
「アキ! 青山! 期末試験でも、一緒に勉強しないか?」
「勉強したいです!」
放課後になってすぐに、俺の親友・
また、和男が言った「青山」というのは俺の恋人の
氷織と顔を合わせると、氷織は美しくて可愛らしい微笑みを見せ、俺に向かって小さく頷いてくる。俺も氷織に小さく頷いた。
「分かったよ、和男、清水さん」
「中間試験のように、助け合いながら勉強しましょう。美羽さん、倉木さん」
「おう! 2人ともありがとうだぜ!」
「ありがとう! 心強いよ!」
和男と清水さんは満面の笑顔を見せ、大きな声でお礼を言う。そして、2人でハイタッチしている。これで期末試験を乗り越えられる! という2人の心の声が聞こえた気がした。
和男&清水さんカップルと一緒に試験対策の勉強をするのは、高校最初の中間試験から恒例である。2人とも結構苦手な科目があるけど、分からないところは質問し、しっかりと理解しようと努めている。その結果、赤点になった経験は一度もない。教えるのは俺にとってもいい勉強になるし、今回も一緒に試験対策の勉強をしよう。
中間試験のときと同じように、俺達4人の他にも、俺達の友人でクラスメイトの
今日の勉強会の会場は氷織の自宅。
6人で勉強するため、氷織の妹の
これまでの勉強会のように、まずは今日の授業で出された課題を片付けることに。和男に数学ⅡとB、葉月さんに古典の分からないところを教えながら。
葉月さんは古典と日本史が苦手であり、座っている場所も俺の斜め前。なので、彼女にこの2科目を教えることが多い。
課題はそれほど難しくなかったので、俺は結構早く終わった。そのため、期末試験の1日目に実施される予定のコミュニケーション英語Ⅱの問題集を取り組むことに。
問題集だけあって、中には難しい問題もあるな。なので、タイミングを見計らって、
「氷織。英語の穴埋め問題を教えてもらってもいいかな。分からなくてさ」
と、俺の隣にいる氷織に質問をする。ちなみに、これが本日初めての質問だ。だからなのだろうか。
「もちろんいいですよ!」
氷織はとても嬉しそうに言ってくれる。滅茶苦茶可愛い。
さすがは学年1位だけあって、氷織の解説はとても分かりやすい。俺が10分近く考えても分からなかったのに、氷織のおかげですんなり理解できた。
「ありがとう、氷織」
「いえいえ」
お礼に氷織の頭を優しく撫でると、氷織は「ふふっ」と柔和な笑みを見せてくれる。その笑顔も素敵だし、髪からはシャンプーの甘い匂いもするから、俺がご褒美をもらった気分になるなぁ。きっと、期末試験の勉強会の間に何度もこういう気分になるのだろう。
それからも勉強会が続き、
「あたしも課題が終わったわ!」
「お疲れ様です、恭子さん」
火村さんも課題が終わって、これで6人全員課題を終わらせることができた。なので、少し長めの休憩を取ることに。
俺もキリのいいところで英語の問題集を一旦終わらせ、体を伸ばす。
「……いたたっ」
体を伸ばした瞬間、両肩に痛みが走った。
「どうしました? 明斗さん」
「体を伸ばしたら両肩が痛くてさ。肩が凝ったみたいだ」
「おぉ、アキが肩凝るのは珍しいな」
「そうだね、和男君。あたしも全然見たことない」
「普段はあまり肩凝らないし、凝るときも長時間勉強した日の夜が多いからなぁ」
「以前、私の肩をマッサージしてくれたときに、そのようなことを言っていましたね。では、私が明斗さんに肩揉みマッサージします! 今まで明斗さんにしたことありませんし!」
やる気満々の様子で俺に提案してくれる氷織。
「じゃあ、お願いするよ、氷織」
「はいっ!」
氷織は元気よくお返事し、俺の背後に移動する。
氷織からマッサージをされた経験がないので、どんな感じなのか楽しみだ。色々なことを器用にこなすから、マッサージも上手そうなイメージがある。
「今までに何回かひおりんのマッサージを経験したッスけど、かなり気持ちいいッスよ」
「そうなんだ。楽しみだなぁ」
どうやら、俺のイメージ通りらしい。これは期待大。
あと、1年の頃からの親友の葉月さんは氷織のマッサージを経験していたか。そのときのことを思い出しているのだろうか。葉月さんはニッコリと可愛らしい笑みを浮かべている。
やがて、両肩から温もり感じるように。おそらく、氷織が両手を置いたのだろう。
「それではいきますよ、明斗さん。痛かったら遠慮なく言ってくださいね」
「うん、分かった。肩揉みお願いします」
「はいっ。では、いきまーす」
氷織の可愛い掛け声が聞こえた次の瞬間、両肩になかなかの痛みが。ただ、両肩の凝りがほぐれていくのも分かり、結構な気持ちよさも感じられる。だから、さっき体を伸ばしたときとは違い、不快になる痛みではない。
「おおっ……」
気づけば、俺はそんな声を漏らしていた。
「明斗さん、痛かったですか? もう少し優しく揉みましょうか?」
「ううん、このくらいで大丈夫。痛みはあるけど、ほぐれる気持ちよさもあるから」
「分かりました。では、今くらいの力で揉みますね」
「お願いします」
俺がそう言うと、氷織により肩揉みマッサージが再開される。
揉まれる度に痛みは感じるけど、それ以上に気持ち良さが強く感じられるようになってきて。揉まれている箇所から感じる氷織の温もりがまた気持ち良くて。癒されるなぁ。肩の凝りだけじゃなくて、全身の疲れも取れそうだ。
「珍しく肩が凝るだけあって、結構凝りがありますね」
「やっぱり。……いやぁ、本当に気持ちいいな。葉月さんがかなり気持ちいいって言うのも納得だ」
「でしょう? ひおりんは上手いッスよ。確か、
「ええ。お母さんは肩凝りしやすい体質ですから、定期的に揉んでいますね。お父さんの肩もたまに揉みますね」
「なるほどな」
御両親のおかげで、この素晴らしいマッサージ技術が身についたのか。
今の話を聞いたらより気持ち良く思えてきた。それに、肩凝りのマッサージをしてくれているのは恋人の氷織。幸せな気持ちにもなってくる。この時間がずっと続けばいいのに。……いや、氷織にマッサージさせ続けるのは申し訳ないな。
「アキ、幸せそうだな」
「そうだねぇ。きっと、揉んでいるのが恋人の氷織ちゃんだからなんだよ」
「それはありそうッスね」
和男、清水さん、葉月さんが俺のことを見ながら談笑している。どうやら、気持ちが顔に出ていたらしい。清水さんに俺の心境を見事に言い当てられてしまったのでちょっと恥ずかしいな。
「確かに幸せそうね。紙透が羨ましくなってきたわ。沙綾も経験済みだし。ねえ、氷織。紙透の後でかまわないから、あたしの肩も揉んでもらってもいいかしら?」
「いいですよ」
「ありがとう!」
嬉しそうにお礼を言う火村さん。俺や葉月さんを羨ましく思うのは火村さんらしい。ただ、その想いを言葉にして、自分もマッサージしてほしいと氷織に頼めるところが火村さんのいいところだと俺は思う。
結構凝っていると言っていたのもあり、それから少しの間、氷織からの肩揉みマッサージを受けるのであった。すぐ近くから、火村さんの羨望の眼差しを浴びながら。
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