第26話『体育祭③-二人三脚-』
『招集連絡です。男子二人三脚・女子二人三脚に出場する生徒のみなさんは、本部テント横の出場者集合場所に来てください』
パンを食べ終わってからおよそ15分後。
二人三脚に出場する生徒の招集アナウンスがあったので、俺と和男、氷織と火村さんは一緒にブルーシートを後にする。
「二人三脚の時間が近づいてきたな。アキ、今年も1位を取ってやろうぜ!」
「ああ。頑張ろうな、和男」
握りしめた右手を和男に差し出すと、和男は明るく笑いながら右手でグータッチしてくれた。
「あたし達も頑張るわよ、氷織!」
「頑張りましょう! 明斗さんと倉木さんも頑張ってください」
「ああ。氷織達も頑張ってね」
「お互い頑張ろうな!」
「ええ! 1位を取れるように頑張るわよっ!」
俺と和男がさっきやっていたように、今度は4人でグータッチし合う。こういうことを普段はあまりやらないので、体育祭っぽいなぁって思う。
集合場所である本部のテント横に辿り着くと、二人三脚の選手と思われる生徒達が集まってきていた。
係の男子生徒からのアナウンスで、二人三脚は男子からのレースに。レース順に名前が呼ばれた生徒が並んでいき、俺と和男は男子の第5レースで名前が呼ばれた。待機列に並ぶため、ここで氷織と火村さんとはお別れ。
こうして並ぶと、あと少しで競技に参加する気分になる。
「アキはこれがお初の競技か。緊張してるか?」
「多少の緊張はあるけど、和男と一緒だからな。去年もやったし、練習したから不安はないよ」
「嬉しいことを言ってくれるなぁ、アキは!」
ははっ! と、和男は声に出して笑いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。この男が一緒なら、今年も1位を取れるだろうという安心感がある。ただ、何が起こるか分からないし、気を抜かずに頑張ろう。
それから程なくして、二人三脚の前の競技が終わる。
校舎の窓に貼られている得点を見ると……今のところは青チームが1位か。ただ、2位の緑チームと3位の黄色チームの差はあまりない。
『さあ、続いての種目は二人三脚です! 一緒に組む相棒と息を合わせ、100m先のゴールを目指して頑張ってください! もし、途中で脚を結ぶハチマキが解けた場合は、そこから再びスタートとなります! 男子からのレースです!』
というアナウンスが流れ、男子二人三脚のレースがスタートする。
レースを見ていると、一度も脚の紐が解けずにゴールまで向かうペアもいれば、何度も解けてしまうペアもいるなぁ。
レースが進んでいき、いよいよ俺達の順番になる。俺が自分の右脚と和男の左脚をハチマキで、8の字の形で結ぶ。係の生徒にOKをもらい、俺達はスタート地点に立つ。
「和男君! 紙透君! 頑張ってー!」
清水さんの声援が聞こえてきた。
うちのブルーシートの方を見てみると、清水さんがシートの一番前に立ち、こちらに向かって手を振っていた。彼女の後ろには男子中心に俺達に手を振ってくれている。スタート地点からだと、うちのブルーシートはああいう風に見えるのか。俺は和男と一緒に、清水さん達に向かって手を振った。
「明斗さん! 倉木さん! 頑張ってください!」
「2人とも頑張りなさい!」
背後から氷織と火村さんの声援が聞こえる。おそらく、清水さんの声援が聞こえ、俺達がいよいよスタートすると分かったのだろう。俺は左手を、和男は右手を高く突き上げた。
「位置について」
号砲を持つ体育教師がそう言い、俺と和男はスタートラインに立つ。
「去年1位を取ったし、練習もしたんだ。大丈夫だ。思いっきり行くぞ、アキ!」
「ああ。今年も1位を取ってやろう!」
俺と和男は頷き合い、お互いに肩を組む。こうしていると、去年のレースや今年の練習を思い出すな。きっと、和男となら大丈夫だ。
「よーい……」
体育教師のそんな声が聞こえ、
――パンッ!
号砲の音が鳴り響き、俺達は一気に駆け出す!
「よし、いいスタートだ! アキ!」
「ああ! このまま息を合わせて走ろう!」
「おう!」
俺は前を見ながら和男と一緒に「イチ! ニー! イチ! ニー!」と声を出し、彼との息を合わせていく。
「2人とも頑張ってー!」
会場から多くの人の声が聞こえるけど、不思議と清水さんの声ははっきり聞こえる。これまでレースに参加した氷織達も、俺達の声援がこういう風に聞こえていたのかな。
ゴールテープは着実に近づいていき、そして俺達によって着られた。
『青チームのペアが1位! 足も速く、一度もハチマキが解けない素晴らしい走りでした!』
「よっしゃあっ! やったな、アキ!」
「ああ! 今年も1位だ!」
ハチマキを解いて、俺は和男と歓喜のハイタッチ。今年も1位を取れて嬉しいし、ちょっと安心感もあった。
「和男君! 紙透君! 1位おめでとう!」
「おう! やったぜ美羽!」
「ありがとう!」
うちのクラスのブルーシートでは、清水さん達クラスメイトが俺達に向かって拍手を送っていた。俺達はそんなクラスメイトに大きく手を振った。
また、スタート地点の方を見ると、氷織と火村さんが嬉しそうな様子で俺達に手を振っていた。彼女達にも大きく手を振り、レース済みの生徒が集まる場所へ向かった。
「いやぁ、また1位のところに座れて嬉しいぜ。これもアキのおかげだな!」
「和男のおかげでもあるよ。今年もちゃんと練習した成果だろうな」
「そうだな。来年も同じクラスになったら、また一緒に二人三脚しようぜ!」
「ああ、そうしよう」
約束の意味を込め、俺は右手を拳にして和男に軽く当てた。
その後、男子のレースが全て終わったため、俺は和男達など二人三脚に出場したクラスメイトと一緒に、うちのクラスのブルーシートへ戻っていく。
「みんなおつかれ!」
「3組とも良かったよ! 特に紙透君と倉木君は!」
などと、クラスメイトから労いや賞賛の言葉をかけられ、男子とはたまにハイタッチすることも。そのことで、走った疲れが抜けていく。
「和男君! 紙透君! おかえり!」
「おかえりッス。ひおりんとヒム子ペアのレースがあるんで、またお邪魔してるッス」
「そうか」
100m走で氷織が走るときに一緒に応援したから、二人三脚のときにも来るかな……と思っていたけど、やっぱり葉月さんは来たか。
「2人とも凄くかっこよかったよ! 特に和男君! 素敵だったよ!」
目を輝かせてそう言い、清水さんは和男に抱きつく。和男はとても嬉しそうに清水さんを抱きしめる。競技に参加する恋人が素敵に見える清水さんの気持ちはよく分かる。
さて、俺の恋人は友人の火村さんと一緒にいつ走るのかな。男子の二人三脚はもう終わったので、そう遠くない間に出番が来ると思われる。
グラウンドを見ると、6組の女子生徒のペアがゴールに向かって一生懸命走っている。そのうちの何組かは、足を結ぶハチマキが解けたり、片方が転んだりとトラブルが。そういった様子を見ると、俺達は何の問題もなくゴールできて良かったと思う。
女子のレースが何組も終わり、ついに氷織と火村さんがスタート地点に。100m走のときと同じく、それまでよりも校庭全体が盛り上がる。
「氷織、火村さん、頑張って!」
「ひおりんもヒム子も頑張るッスよ!」
「2人とも息を合わせて頑張れー!」
「頑張って! 氷織ちゃん! 恭子ちゃん!」
スタート地点にいる氷織と火村さんに向かって俺達4人は声援を送る。
すると、氷織と火村さんはこちらに大きく手を振ってくる。氷織がハチマキのようなものを使って自分と火村さんの脚を結ぶ。
スタートラインに立つと、氷織と火村さんは肩を組み合う。その瞬間、火村さんは幸せな笑みを浮かべていて。氷織とくっつけることと、パン食い競走の悔しさで火村さんは物凄い走りをするんじゃないだろうか。
――パンッ!
号砲が鳴り響き、氷織&火村さんペアは勢いよく走り出す。いいスタートだ。
ただ、いいスタートを切れたのは氷織&火村さんペアだけではない。黄色チームのペアもいい走りをしており、2人との差はないように見える。もしかしたら、黄色チームの方が早いかもしれない。
「氷織! 火村さん! 頑張れ! 2人なら1位取れるぞ!」
「2人も練習をしてきたんだからな!」
「練習通りに走れれば1位取れるよ!」
「焦らずに走るッス!」
俺達は氷織&火村さんペアに声援を送る。最初は一緒に歩くことから始めていたけど、練習を積み重ね、昨日の昼休みの練習では普通に走れるようになっていた。きっと、2人なら大丈夫だ。
俺達の声援が届いたのか。それとも、普段の練習の賜物か。後半になって氷織&火村さんペアがリードし始め、そのまま1位でゴールした。
『青チームのペアが1位! 黄色チームとの先頭争いを制しました!』
「やった!」
「1位取ったッスよ!」
「2人ともよく頑張ったよ! 練習の成果だね!」
「だな! 後半の加速が凄かったな!」
俺は葉月さんと右手でハイタッチして、和男と清水さんは喜びのあまりか再び抱きしめ合っていた。氷織と火村さんペアが1位を取ったから、男子中心に喜んでいるクラスメイトがいっぱいだ。
当の本人達はというと、ゴール近くで氷織が結んでいたハチマキを解いていた。
そして、ハチマキが解かれると、火村さんは氷織に抱きつき、頬にキスした。おそらく、1位になって嬉しさが爆発したのだろう。今までの努力も知っているし、1位を取ったのだから、頬へのキスは特別に許してあげよう。
走り終わった生徒が集まる場所に向かう際、氷織と火村さんは笑顔でこちらに手を振ってくる。そんな2人に対して、俺達は「おめでとう!」と祝福の言葉を贈った。
やがて、女子二人三脚の競技が終わり、氷織&火村さんペアを含め、二人三脚に出たクラスメイトがブルーシートに戻ってくる。氷織と火村さんのペアが1位を取ったこともあってか、うちのクラスはとても温かな雰囲気で迎え入れた。
「氷織、火村さん、1位おめでとう」
「ありがとうございます。恭子さんと一緒に1位を取れました。みなさんの応援も聞こえましたよ」
「みんなありがとね。途中、黄色チームが前に見えたから焦ったけど、紙透達の声援も聞こえたし、氷織が側にいてくれたからちゃんと走れたわ。パン食い競走の悔しさは晴らせたわ!」
そう言う火村さんは爽やかな笑みを浮かべていた。パン食い競走の悔しさが晴らせて何よりだ。あと、やっぱり、黄色チームにリードされていたときがあったんだな。
「氷織ちゃんと一緒に練習していたからだね。おめでとう!」
「そうだな、美羽。練習して、それが結果に結びつけられるのは凄いことだ! おめでとう!」
「ひおりんと一緒なんで、ヒム子が暴走しないか心配だったッスけど。1位おめでとうッス!」
「練習せずに一発本番だったら、どうなっていたか分からなかったわね。……ところで、紙透。レース後に、感極まって氷織の頬にキスしちゃったけど……ま、まずかったかしら?」
ちょっと気まずそうな様子でそう話し、俺をチラチラと見てくる火村さん。頬とはいえ、人様の恋人にキスしたからな。こういう様子になるのは自然なことか。
「氷織は嫌だと思った?」
「いいえ、全く。いきなりだったのでドキッとはしましたけど」
「そうか。……氷織がこう言っているし、今日は体育祭だからな。1位を取ったし、キスしたのは頬だから特別に許すよ」
「ありがとう、紙透。氷織も」
ほっと胸を撫で下ろす火村さん。その直後、優しい笑顔の氷織に頭を撫でられると、火村さんは嬉しそうな笑顔になり、氷織のことを抱きしめるのであった。
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