第7話 初雪のふる部屋

 窓の外には例年よりも少し早い初雪がふっていた。


 僕の人生に後悔がまったく無いといえば嘘になる。それでもこの2ヶ月くらい、彼女と、この部屋ですごした時間は、これまでの人生で最も心休まる時間だった。人間として生きていくこと自体が何かに追いやられることの連続で、ストレスにあふれ過ぎていたのかもしれない。まぁ、それももう戻ることのない過去の話だ。


 こんな穏やかな時間を得ることができたのは、ゾンビになったおかげといってもいい。誰に感謝したらよいかはわからないけれど、少なくとも彼女には感謝しなければいけないだろう。


 僕たちにはもう何かをしようという意欲は残っていなかった。ただ2人、並んでベットにもたれかかり、時が過ぎ去るのを……いや時が来るのをただ待っていた。左肩にかかる彼女の重さだけが、僕の命をつないでいる唯一のもののように感じた。もうきっと、――長くない。



「ありがとね」


「……ん?」


「いや二人で一緒にいられて、良かったなって」


「そうでしょ……」


 彼女は薄く笑った。いや笑った気がした。顔の筋肉はほとんど機能していないようだ。


「私も……」


 うつむいた彼女からは、それ以上の言葉はつむがれなかった。つけっぱなしのテレビからは、流行の音楽が流れていた。





(了)

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くさった死体は電気羊の夢をみるか 竹野きのこ @TAKENO111

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