第2話

「この依頼にはしおりも同行してもらう。」


ギルド長がそう言うとマリーさんは額に青筋を立てて、ギルド長に詰め寄った。


「ちょっと待ってください!しおりさんはまだ駆け出しですよ。依頼内容とランクの適性が合いません。しかも、しおりさんはこれ以上自分の実力だといけないと思っていき返してきたんですよ!そんな場所にまた行けって言うのですか!」


 マリーさんは信じられないようなものを見る顔でギルド長を睨みつけている。それに私もその意見には同感だ。私には少し荷が重いものだと思う。


「この件は素早く情報を集めなければならない。そのためにも一度調査しているしおりに案内してもらうのが一番早いだろう。」


「それでも……」


「別に1人で行ってこいと言っている訳じゃない。腕利きのパーティーが護衛につく。だから、そんなに心配することはないだろう。しおりもそれで良いな?」


 ギルド長の中ではこれはもう決定事項なのだろう。たしかに、私1人で行くわけではないからそこまで危険なことは起きないだろう。


「それで構いません。」


「よし、それでは明日の朝8時にギルドに来てくれ。そこで《赤羽の蝶》と合流してもらい、森の調査に向かってくれ。」


「はい。それでは失礼します。」


 ギルドを出て、宿に戻る。自分の部屋に着くと思わずベットに倒れ込んでしまった。シルヴィアは私のフードから出て、パタパタとベットのヘりに降りた。


「シルヴィア。どう思う?」


「依頼のこと?それなら、難しいと思うわよ。あの魔力の大きさは普通じゃないわ。多分だけど、A級くらいの強さだと思うわよ。」


「A級!?普通どころじゃないじゃない!ギルドに戻って伝えた方が……。」


「やめた方が良いわよ。」


「なんで!?」


「冷静になりなさい。私もあまり確証がないの。そんな曖昧な情報を今伝えるのは混乱を招くわ。ギルドの方も20年ぶりの魔物氾濫スタンピードだということで、焦っているだろうから。」


「分かったわ……。」


 少し納得がいかないが、シルヴィアの言うことは正しい。正確な情報にこそ価値があるのだから。

 それにしてもほんの数時間でいろいろなことが起きた。眠気がすごくて瞼が落ちそうだ。流石に疲れてきたから、少し休もうかな。


「すこし横になるから、あとで起こしてくれる?」


「良いわよ。ゆっくり休みなさい。」





##



 


 

 しおりが出て行ったあとのギルド内個室には、ギルド長と受付嬢のマリーが残っていた。


「ギルド長。道案内が必要だからと言って、わざわざしおりさんを行かせる理由にはなりませんよ。それでは到底納得できません。本当のことをおっしゃってください。」


 どうやらマリーには先程のギルド長の説明では、納得できなかったようだ。それに加えギルド長が何かを隠しているとも言う。

 それを聞いたギルド長は、


「ハァー。そういうところは昔からめざといな。だが、お前にわざわざ言う必要もあるまい。しおりはこの依頼を受諾したんだからな。」


「依頼書はまだ私が持ってます。今なら、まだ処理前なのでどうとでもなりますが、どうしますか?」


「それは脅しか……?」


「いえ、とんでもない。ただ当然のことを要求してるまでです。」


 

 マリーとギルド長はしばらくの間、睨み合った。しかしマリーは絶対に引く気はないようだ。ギルド長もそれを感じ取ったのか、白旗を上げた。


「参った。マリー、俺に根を上げさせるやつはなかなかいないぞ。さすがは……、」



ーートンーー



「これ以上はあなたのためにならないと思いますが?」


 いつのまにかマリーはナイフを投げていた。それも、ギルド長の顔の横スレスレを狙って……。

 


「安心しろ。これ以上は何も言わない。

それで理由だったか?」



マリーは無言で頷く。


「あいつがここにきてから、一ヶ月。地道に依頼をこなしているのは知っているな?普通の駆け出し冒険者と同じように、依頼をこなしているが、一つだけ手を出さない依頼がある。なんだかわかるか?」


「……魔物の討伐。」


「そうだ。冒険者として活動するなら、これは避けては通れないことだ。角うさぎなどは狩ってきてはいるようだが、あれは小動物と変わらん。人型のゴブリンなどと遭遇した時に、躊躇なく殺せるようにならなくてはならん。できないようなら、冒険者はやめた方が良い。その点、《赤羽の蝶》はC級パーティーなので、問題ないだろ。あいつらからそのことを学んでくれると良いが。」


「そのためにしおりさんを行かせたのですか……。まあ、理由はわかりました。しおりさんにとっては必要なことだということですよね。」


「その通りだ。」


「依頼書の処理をするので戻ります。お手間をおかけしました。」


 

 そう言ってマリーは、部屋から出て行く寸前、何かを思い出したかのように言った。


「そういえばギルド長。もう一つの理由は話してくれないのですね。」


「もう一つ?なんのことだ。」


「いえ、なんでもありません。それでは失礼します。」



 マリーは今度こそ部屋を出て行った。


 それを見たギルド長はため息をついた。



「マリーのやつ、気づいてるな……。勘がいいのも場合によりけりだな。」


 ギルド長はしおりに、ちゃんと説明していないことがある。しおりは全くきづいていないようだが、シルヴィアは薄々勘づいていた。


「今度こそ、完全に止めなくては……。」



 ギルド長はそう言って、自分の部屋に戻っていった。

 








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神さまだって休暇が欲しい! 虎のしっぽ @MeyRaysounds

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