第16話 出雲伊莉愛、大いにはしゃぐ
「あ~! あなた
俺、臣、心と三人同時に人差し指を鼻の頭に当てて伊莉愛の声のトーンを下げさせる。
伊達メガネに大きめな帽子を被っているのでぱっと見ではテレビで子役として活躍している王城臣とはわからない格好だった。
伊莉愛はお構いなしに長身な体を揺らしながら明らかにはしゃいでいるのがわかる。
「教えてリル先生♡ ず~と見ていました!」
俺たちは先ほどと同じジェスチャーをやや強めにする。
それでも彼女はお構いなしで、
「臣ちゃんが3年生の2学期、一番最初の授業の回がすごく好きなの! あの6年生の肉山くん相手に言葉で言い負かすとこ、でもでも、最後に臣ちゃんの方が折れて解決した話! あれってすごいなと思ったの! だってだって絶対肉山君の方が悪いのに臣ちゃんってば相手の立場にもなって追い詰めなくて3年生なのにえらいな~って思ったもん、そしてかっこいい! って思ったもんね私!」
鼻息荒くして伊莉愛がしゃべりまくる、おっとり喋っていた娘が早口でしゃべるんだから圧倒された、俺もこの回はよ~く覚えているよ、あの後車の中で臣がどれだけ俺に肉山の愚痴をぶつけたのかわかるまい・・・・。
「他にも2年生の最後の回が良かった~、近藤さんと山田さんとの喧嘩の仲裁したやつ、二人とも臣ちゃんより年上で怖い存在でしょう、一年生の子なんて泣いちゃって・・・・、でもでも臣ちゃん間に入って解決させちゃうんだもん、偉いと思ったもんね私!」
ば~ろ~、あの放送後荒れに荒れて臣の怒りを収めるのにどれだけ苦労したことか・・・・。
伊莉愛はまだまだ話足りないようでペチャラクチャラペチャラクチャラとしゃべり続ける、
おまえはマサルの母親か・・・・今のはスルーしてくれ。
臣も圧倒されたのかちょい引き気味で、
「あっありがとう・・」
とだけ言ってあとは黙っている。
すると横にいるショートカットの似合う彗夏が、
「この子は教えてリル先生をリアルタイムで見て、直ぐに二回目を録画で見て、時間おいてまた見て、一日に三回は見る超熱狂的なファンであることは間違いないよ」
ここまで熱心なファンがいたとはな、番組ディレクターや関係者に教えてやりたいね、泣いて喜ぶだろうよ。
「番組を見る一番の理由は宝城リルさんを見たいからだよね~」
にやけながら彗夏が伊莉愛を見る。
「あ~、もうっそれは言わなくていいの~」
伊莉愛はぶんぶん腕を振って照れている。
「リルさんのファンクラブにも入っているし雑誌の切り抜きは勿論、動画もリルさんの場所だけ編集して見ているし超リルオタクだもんね!」
「や~め~て~」
「なのにイベントや、握手会など直接会えるところには顔出さない変わった子なの」
伊莉愛はへの字口をして、
「本当のファンは会わないものなの、ってか目の前で本物見たら溶けちゃう自信あるから~」
と体をくねくねさせている、しかし溶けるって・・。
俺は言う、
「あいつのどこがそんなに良いんだ?」
伊莉愛は目がキッっと鋭くなり先ほど臣の事を熱く語った時よりさらに早口でこう言った。
「はぁ!? あの顔、声、立ち振る舞い、雰囲気、やさしさ、包容力、頭の良さ、腹話術の技術、番組をスムーズに進行する腕、子供たちから慕われる所、もうそれら存在全てに決まっているじゃないですかー!」
俺、臣、心の三人は圧倒される。
「リルは俺たちと同じ事務所なんだけど知っている?」
伊莉愛は臣を見て、
「臣ちゃんと一緒なんだよね~、いいな~、普段のリルさんってどんなお方か教えてくれない? あっ、いいや言わないで言わないで、知らない方がいい、私のままのリルさんで十分満足しているからこれ以上求めると罰があってしまうから~」
臣は頬に汗をたら~っと垂らしながら、
「リル先生はテレビのまんまの人だけどね、その気持ち本人に伝えると喜ぶと思うよ」
伊莉愛は手をぶんぶん振りながら、
「いやいや本当滅相もない、私ごときが近づいていい存在ではないのですよ!」
と顔を赤くして拒否する。
臣や心はどう思っているかわからないが俺は面白いやつだなぁという印象を持った。
その後は名刺を渡したり、お互いの自己紹介をして今日撮った二人のダンスした動画のデータを夕方渡す約束をして解散した、本当はもうちょっと場所を変えて臣や心の撮影をしたかったのだが伊莉愛が騒いだおかげで臣がいることが周りにばれて人だかりが出来たからだ。
教えてリル先生が終わってからはテレビの露出は極端に減った臣だが伊莉愛の反応といい、今でも十代には人気があるんだなと改めて思ったよ。
事務所までの帰りの車内は先ほどの二人の話で盛り上がった、
臣は自分のこと以上にリルが褒められていたことが嬉しそうだし心もそんなリルがいる事務所の一員として自分も頑張ろうと言っている。
俺もマネージャーとして誇らしいね、暫くの間リルの話題は続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます