第358話 メサイア
俺達が船でメサイアに近づくと、光のラインのようなもので誘導される。そのラインに従って進めば、メサイアの一部が開き、中へ進むことが可能となった。
「うわぁ、なんつうか、今までよりも宇宙って感じがするな。そういえばかなりでかいけど、他の国とかに見えてたりしないよな?」
「そこは勿論外部からはステルスで見えなくなっておりますのでご安心ください」
「心配してないけど、一応な」
バレッタならそんなミスを犯したりしないとは思いつつも、一応確認しておかないと後で大変なことになったりするからな。
「そこも分かっておりますよ」
「そうか、流石だな」
やはりバレッタはきちんと把握していた。
中は、元々船があったドックをさらに広げて、沢山の船が停泊出来そうな造りになっている。
見た目は宇宙戦艦だが、内部は空母とも言えるような作りだった。
宇宙だから宙母?
まぁどっちでもいいが、久しぶりのロマンを感じるメサイアにテンションが上がる。
一番端の停泊場所に船を停めた俺達は、船を降りた。そこには六人のパーフェクトメイド達が待ち構えていた。
司書メイドのアンリエッタ、格闘家メイドのテスタロッサ、発明家メイドのワイス、研究家メイドのイヴ、神官メイドのメテロノーナ、観測者メイドのシラユリの六人だ。
そして、俺たちの側に居たバレッタも六人の方に進み、真ん中の立ち位置でくるりと振り返る。
『おかえり(なさい)(ませ)』
全員が寸分の狂いもないタイミングで俺達に頭を下げて出迎えたくれた。
そのあまりに揃った様は流石だと思う。
「ここは全ての超古代遺跡が融合というか、統合した場所、ということでいいんだよな?」
「そうですね。というよりは元々一つだったものを七つに分けていた、というのが正しいですが」
「なるほど、そういうことか。本来の姿がこのメサイアか」
「そうなりますね」
六人は元々このメサイアの管理をしているメイド達で、なんらかの理由で機能ごとに分割され、配置されていたのか。
しかし、一体なんのためにそんなことをしたんだろうな。
「このメサイアでは、今までの七つの超古代遺跡でできたことが一つにまとめてできるのか?」
「そうですね。それだけでなく、全ての機能を集約したことによって今まで出来なかったことが出来る様になります」
「その一つが異世界転移か」
「そうです」
なるほどなぁ。
「でも、そういえば準備に一週間掛かるとか言ってなかったか?」
ふとバレッタに言われ、異世界転移できるようになるまで少し時間が掛かる、と作家と言っていたのを思い出して尋ねる。
こんなに簡単にできるようになるなら別にその日のうちにでもよかったと思うんだけど。
「あれは高校生達に考える時間をあげたほうがいいかと思いましたので。それに自分達だけで一旦この宇宙要塞でのんびりしたいかと」
「あぁ。そういうことか」
俺の質問に答えるバレッタ。
どうやら高校生に猶予を与えるために時間を設けたらしい。それに、今は招待客を帰したばかりだ。俺たちだけで過ごす時間も考えてくれたようだ。
それならその言葉に甘えて一週間のんびりさせてもらうか。その為にも一旦メサイアの内部を案内してもらおう。
「お任せください」
バレッタは先読みして頭を下げた。
俺達はバレッタの案内の下、メサイアの中を見学していく。
「基本的にはそれぞれの遺跡がくっついた感じだな」
「そうね」
ある程度中を見て回ったが、それぞれの区画は以前のように独立した状態で存在し、これと言って目新しい場所はなかった。
「ん?あそこは?」
しかし、一箇所だけ見たことない通路があった。
「あそこは特別研究室の区画ですね」
「特別研究室?」
俺は今まで聞いたことのない名称に首を傾げる。
「はい、前所有者がバビロンとオリジンの両方の分野が必要な類の研究をやっておりました。見に行きますか?」
「いや、どんな場所か分かってればいいさ」
なるほど。
それは少し興味があるが、でも今はこのデカい戦艦の内部の全てを把握している場合じゃない。ざっくりと全体を把握して、住むに当たり支障がないようになっていればいい。
「ケンゴ様がお好きな研究があったりするかもしれませんが、よろしいのですか?」
「まぁ今はな。全体が把握できて、ここで過ごすのに支障がなければ問題ない」
バレッタがそう言うって事は何かあるのかもしれないが、生活していればそのうち行く機会もあるだろう。
だからそれは今でなくてもいい。
「承知しました。それでは最後にメインブリッジにご案内します」
バレッタは納得したようで俺たちをブリッジに案内した。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!かっけぇえええええええ!!」
そこはまさに宇宙戦艦のブリッジは斯くあるべしと言わんばかりの光景が広がっていた。
船同様に全面ガラス張りになっていて外が全て見える。
ただ、普通の戦艦であれば、数百人という人間で稼働させるのに対して、このメサイアは数人のメイドと自動ロボが管理運営しているので、オペレーターなどが座る席が極端に少ない。
それぞれが艦長席と副官席以外は個別スペースのような席が十程度あるだけだ。
「アニメでこんなの見たわね。船よりもおっきいやつ」
「ああそうだ!!まさにアニメの中の存在がそのまま外に出てきたみたいな空間だ!!」
リンネが室内を見渡して呟くと、俺はリンネに詰め寄ってその感動を伝える。
「これで一通りの案内は終わります」
「そうか、ありがとう。そういえば異世界転移ってどうするんだ?」
「次元エンジンがあるので、そちらを起動すれば今すぐにでも転移可能です」
「なるほどな。地球に行けるのが楽しみだ」
もういつでも地球にいけるらしい。
一週間後が楽しみだ。
俺は未来に思いはせて、島に戻っていつも通り過ごした。
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