第353話 祭り

 海の家で働く気分を味わった俺達は次のイベントを催す準備をする。これに関しては俺も楽しむ側になりたいので、バレッタ達とゴーレム達に指示を出して準備を進めてもらっている。


 日が落ちてきた頃、海で遊ぶには視界が確保できずに危険になってきたので、俺は一旦招待客を集めた。


「お前ら!!日中は楽しめたかぁ!?」


 俺が戻ってきた面々を見回して全員居ることを確認したら、全員に呼びかける。


『うぉおおおおおおおおおおお!!』


 俺の呼びかけに招待客は、肯定と言わんばかりに叫んだ。


 声色を聞く限り、本気で楽しんでもらえたようだ。招待した側としては楽しんでくれるのは嬉しい。


 しかし、これで終わったと思ったら大間違いだ。


「それならいい!!楽しんでもらえて俺達も嬉しい。さて、もう日が落ちてきたが、今日のイベントはこれだけではない。この後には俺達の故郷で行われていたお祭りをやるつもりだ!!」

『うぉおおおおおおおおおお!!』


 集まった皆にこれからさらにお祭りが用意されていることを告げると、参加者たちから怒号のような叫びが上がる。


「内容は行ってみてのお楽しみだ!!俺と同郷の奴らは特に期待してくれ!!」

『うぉおおおおおおおおおお!!』


 俺が話を続けると、高校生たちが顔を見合わせて、まさか信じられないという顔になる。


 せっかくだから懐かしい気分を存分に味わって帰ってもらいたいからな。


「男は甚平か浴衣、女性には浴衣という服を用意している。着替え担当のゴーレムが着替えを手伝ってくれるので、着替え終わったら会場に案内してもらってくれ」

『うぉおおおおおおおおおお!!』

「それじゃあ、いったん解散!!」


 俺は臨時で建てた仮説の更衣室を指し示しながらお祭りに行く正装への着替えを促した。


 俺の合図で全員がぞろぞろと更衣室へと並び、ゴーレムによってすぐに着替えさせられて更衣室の奥から会場へと案内されていく。


 ここからの運営はゴーレムたちに任せて、俺達も祭りを堪能する。


 なんせ、彼女なんていなかったし、両親にも連れて行ってもらったことないので、夏祭りなんて一回も行ったことがない。だから、海の家とは違ってここからは折角だからお祭りを俺たち自身も楽しみたかった。


「それじゃあ、皆でお祭りに行こうぜ」

「そうね」


 俺は全員を誘って祭りに行こうと歩き出す。


「いや、お祭りには二人で行くと良い。私達は私達で別行動しよう」

「え!?そうか?」


 しかし、カエデに別行動を勧められた。


 俺達も家族みたいなもんだし、一緒に回るのには何の不都合はないんだがな。


「うむ。私は子供ではないし、折角のお祭りなのだから二人で楽しんでくるがいい」


 どうやら気を遣ってくれたみたいだな。


「そういうことなら二人で楽しむか」

「ええ」


 俺とリンネはカエデたちと別れ、各々更衣室を通ってゴーレムに良いよってサクッと着替えさせられて外に出る。


 俺達は最後にやって来たし、辺りには誰もいないようなのでリンネはまだ来てないみたいだ。


「お待たせ」


 しかし、すぐに俺の背にリンネの声が掛けられた。


 俺はゆっくりを振り向く。


 そこに立っていたのは髪の毛をまとめ、艶やかなピンクを基調とした、様々な色の模様が描かれた浴衣に袖を通したリンネだった。その手には故郷でも夏祭りに行くであろう女子たちが持っている巾着を手首に下げている。


「綺麗だ……」


 俺は他にその姿を形容できる言葉が思いつかず、たった一言、そう呟くことしかできなかった。


「あ、ありがと……」


 リンネも顔を逸らしてモジモジしながら返事をする。


「それじゃあ、会場に向かうか」

「え、ええ。そうね」


 俺が腰に手を当ててくの字を作ると、当然のようにリンネは隙間に手を差し込んで腕を絡めた。俺達は会場に向かって歩き始める。


「あれは……」


 暫く歩くと暗闇の中に日本の夏祭り独特の優し気なオレンジ色の光が灯っていた。


「ああ、屋台ってヤツだ」

「あぁああああああああああ!!知ってる!!アニメで良く主人公がヒロインとデートする者ね!!」


 リンネはその光の正体を理解すると、急にテンションを上げ始める。


 確かにアニメでは祭りのシーンって結構ヒロインとの仲が進展するというストーリー展開でしばしば用いられるものだ。


 リンネはそれに気づいて興奮し始めたわけだ。さっきまでのしおらしい雰囲気はいったいどこにいったのか、子供のように目を輝かせた。


「あれってまさか!?」

「ああ。りんご飴だな」

「早く食べたいわ!!いきましょ!!」

「ちょ、ちょっと待てって!!」


 リンネはリンゴ飴を見ていてもたってもいられずに俺を引きずってその店にたどり着く。


 周りにいた招待客は自由な俺達を見て肩の力を抜いた。


「くださいな」

「何本ご入用ですか?」

「ケンゴは?」

「一本あればいい」

「それじゃあ五つで!!」


 リンネは店に着くなり、リンゴ飴を五つゴーレムに頼む。


「どうぞ」

 

 すぐに差し出されたリンゴ飴をリンネは受け取って早速齧り付いた。


「美味しい!!」

「これは本当にうまいな」


 俺とリンネはリンゴ飴に舌鼓を打った。


「あれは?」

「チョコバナナだ」


「あっちは!?」

「金魚掬いだ」


「あれは?」

「射的だな」


 それから俺たちは懐かしい日本の祭りを堪能して、会場までゆっくりと楽しみながら歩いた。

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