第343話 畜産

 農業をやったら畜産とかもやりたいよな。


 そういうことで俺達は農業は暫くゴーレムたちにまかせ、春と夏と秋のエリアに牧場を作りはじめた。一定の範囲を柵で囲い、牛舎、豚舎、鶏舎などの飼育小屋を作っていく。


「おーい、その板取ってくれ」

「分かったわ」


 ゴーレムたちにも手伝ってもらいながら、柵は自分たちの手で作り上げる。農業もそうだったけど、こういうDIY的なこともやっぱり自分でやるのは楽しいし、新しい経験を得られる。


「あいた!!」

「だいじょうぶ?」

「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっとぶつけただけだからな」


 子供たちも、トンカチを指にぶつけて痛がり、友人がその心配をする、というベタなシーンを再現していた。そういう経験も思い出のひとつになっていくはずだ。


「出来たぁ!!」


 俺達はそれから一日かけて柵の一角を作り上げた。その部分以外ゴーレムがすっかり仕上げてくれていてその優秀さを物語っている。


 俺達の部分だけ明らかに素人が作ったというのが分かる粗さが残っていた。この部分はゴーレムに夜の間に手直ししておいてもらうことにする。これで壊れやすくなってしまったら意味がないからな。


 俺達はその日の作業を終え、今日もここで獲れた野菜を主に使った料理を作って皆で食べた。肉が少ないのでキースは早く肉が喰いたいとうるさかった。


 一週間後、俺たちは春と夏と秋のエリアにそれぞれの牧場を作り上げた。


 今日はイヴのオリジンで生みだされた理想の家畜達を牧場に解き放っていく。


「モォー!!」


 最高の牛肉になる牛と至高の牛乳を出す牛。


「コケェエエエエ!!」


 最高の鶏肉になる鶏と濃厚な卵を産む鶏。


「ブゥウウ!!」


 最高の豚肉になる豚。


「メェエエエ!!」


 最高の羊肉になる羊と最高の羊毛を生やす羊などなど。さまざまな家畜の子供をそれぞれ適したエリアにある舎に入れていった。


「よーし、それぞれ世話をしてみたい動物はいるかぁ?」

「私はメープルラビットがいいわ。あの兎肉て作ったシチューが絶品なのよねぇ」

「私は断然クックーコカトリスだな。とても脂が乗っていて鶏肉なのに、豚肉や牛肉にも全く引けを取らない鶏の一種なんだ。あれで唐揚げを作ったらさぞかし美味いだろう」


 大人二人は兎と鶏。二人ともまだ見ぬ料理を思い浮かべているのか、少しだらしない表情を浮かべている。


 俺は地球の料理を食べる事が多いけど、こっちにも数は少ないが、美味い料理は存在する。二人はその数少ない料理を知っているのだろう。


「私は兎ちゃんがいい!!」

「私も!!」

「僕は鶏!!」

「俺は断然牛だぜ!!」


 子供たちも自分が育てたいと思う種類の家畜をあげる。


 こいつらはペットでも飼う気みたいな感じだけど、自分が育てた家畜を食べることに関してはどう思っているんだろうか。


「お前達、育てた家畜は食べることになるんだが、本当に大丈夫か?」

「えぇ~、それじゃあ、私は毛の方の羊にする!!」

「私も!!」


 女の子達はやっぱり乗り気じゃないらしく、食べなくて済みそうな家畜へと変更した。


「僕は大丈夫!!」

「俺も問題ないぜ!!むしろ早く食べたいぜ!!」


 男の子の方はむしろ大歓迎と言った様子だ。


 俺はあまり人気のない豚を担当することにする。


 この豚もスペシャルピグと言う名前の肉が滅茶苦茶美味い部類の豚をさらに改良して美味しくした家畜だ。


 俺も食べたいので本気で育てたいと思う。


「分かった。それじゃあ各々にゴーレムのサポートを付けて飼育してもらうからな」

『はぁーい』


 子供たちは俺の言葉に揃って返事をする。


 俺達は船から家畜を連れてきてそれぞれの小屋に放り込み、それぞれのゴーレムに指示を出して子供たちをサポートをさせ、家畜の世話をさせ始めた。


「フゴッフゴッ」


 群がってくる豚の世話をゴーレムと共に終わらせた俺は他の皆の様子を窺う。


「モフモフ~!!」

「柔らかい!!」


 女の子たちは羊に抱き着いてその柔らかさを堪能している。この羊は幼いにも関わらず既に毛が結構モフモフで暫くしたら毛刈りをしてやらないといけないくらいだ。


「まて~!!」

『コケェエエエエ!!』


 鶏を追いかけまわして遊んでいるのはヘインズ。鶏たちは必至の形相で逃げているが、ヘインズはとても楽しそうだ。


 鶏の苦労がしのばれる。


 その様子を後ろから口端を吊り上げて見つめているカエデ。猫獣人だけに鳥という獲物を狙っている目をしていた。


「ちゃんと美味しくなれよ、肉一号」

「モォオオオオオオ」


 キースはとても甲斐甲斐しい様子で牛の世話をしていた。ただ、それは明らかに大きくなってから食べるものであり、名前もひどすぎる。


 甲斐甲斐しく世話を受けている牛はそのことに全く気付く様子はない。


 その時になって絶望する様子が目に浮かびそうだ。


「皆可愛いわね」


 リンネはウサギに囲まれてご満悦な様子だ。子供たちよりもいざ食べるということになった時に大丈夫なのかと問いたい。


 皆各々楽しく世話をしているようで良かった。


 適度にゴーレムに任せつつ無理のない範囲で育てていきたいと思う。

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