第335話 奴隷たちの処遇

「おっと、こうしちゃいられないな」

「どうしたの?」

「いや、助けた奴隷たちのことをすっかり忘れていた」

「ああ、確かに完全に放置していたわね」


 俺達は自分たちの用事を優先するあまり解放した奴隷の事をうっかり忘れてしまっていた。バレッタが何も言わなかったから問題ないと思うが、古代遺跡の方に夢中になりすぎだ。


『元奴隷方々はちょうどようやく落ち着いてきた頃なのでちょうどよかったですよ』


 奴隷のことを思い出した俺達にバレッタが声をかけてきた。


 全くこうなるように思考誘導か何かをしたりしたんじゃないだろうな?


『ケンゴ様に使えるパーフェクトメイドのこの私がそんなことする訳ありません』


 俺の心の声に心外だと言わんばかりの不機嫌な口調で答えるバレッタ。


 いやまぁ、そうだよな。

 すまんかった。


「奴隷も大分落ち着いてきたみたいだし、ちょうどいい頃合いみたいだから会いに行くか」

「そうね」


 俺が提案するとリンネは頷いた。


 ただ、その前に考えておかないといけないことがある。


「ただ、それはともかくとして、助けた奴隷は今の段階で五百人を超える。他の街の人間達も集めると、軽く千人は超えるかもしれない。基本的には要望のあった土地に送り届けるとして、それを望まない人たちは各国の大きな街で食い扶持を探してもらうのが無難だろうか」


 そう、それは彼らの処遇だ。


「そうねぇ……とはいえ身元の証明もできないような人たちを雇う所も少ないだろうから冒険者になるのが一番近道ではあると思うわ。何も戦闘系の依頼ばかりがあるわけでもないし」

「そうか」

「獣人の国では強い者であれば、それなりの職業にありつくこともできる。天翼族も真正面から戦いを挑んだわけじゃない可能性もある。中々強い者もいるかもしれん。そういう人材は獣人の国に連れて行けばいいと思うぞ」

「なるほどな」


 奴隷たちの処遇について俺の考えを話すと、二人がそれぞれの経験に基づいてアドバイスをくれた。


 助かる。


「それじゃあ、基本は望みの土地に連れて行く。そうじゃない者で武力に自身のあるものは獣人国に連れて行く。それ以外の者は各国の冒険者ギルドに連れて行く。どうしてもそれらの職業に就きたくない者は、紹介状を書いて各国で雇ってもらうか、どうしようもなかったらうちの店で雇う。こんな感じでいいか?」

「まぁいいんじゃないかしら。大変は故郷に戻りたいと言うだろうし」

「分かった」


 三人で相談し合って方針を決めた俺達は早速船に帰投した。


「お帰りなさいませ」

「ただいま。早速奴隷達と話がしたいと思う」

「承知しております」


 バレッタに出迎えられた俺達はすぐに奴隷たちが収容されている牢屋に向かう。


 牢屋に俺達が入ると、一斉に視線が集まった。


 収容されている人たちを見ると、保護した時に比べて随分顔色も良いし、体つきもマシになっている気がする。体つきに関してはまだ一週間程度だから、それほど変わらないにしろ、良くなっているのは間違いない。


「俺はケンゴという。一応お前たちを天翼族から保護した者だ。バレッタから聞いていると思うが、お前たちはこれから地上に帰ることが出来る。これから一人一人面談をして要望を確認していく。極力要望には答えるつもりだが、出来ないこともあるのでそのつもりで」


 そこまで言って俺は面接会場のような机と席を用意した。


「勘違いしないように言っておくが、これはあくまで俺の善意による行動であり、必要以上の我儘を言う奴や逆らう奴は即刻排除するし、なんの手助けもしない。くれぐれも余計な手間を掛けさせるなよ。それじゃあ、早速服に着けられた順番通り、そこの椅子に座ってくれ」


 あんなボロボロの状態だった訳だが、そろそろ体調が良くなってきて隷属の首輪からの呪縛からも逃れ、気が大きくなる奴もいるかもしれないからな。


 念のため釘を刺しておいて、俺は保護した奴隷達との面談を始めた。


 それから数時間という時間を掛けて奴隷たちの要望などを確認した。結果的に俺が懸念したようなモンスタークレーマーみたいなやつはいなかった。


 兎に角全員が精神的に打ちのめされていて、叶うならば故郷に連れていってくれという願望の人間が多かった。


 故郷に戻りたくなり、戻れないという人間は非常に少なくて、全体の一割程。約五十人くらいだ。


 確認したところ、それなりに腕の立つ人間もいるみたいだし、そういう人間は獣人の国に送り、それ以外の人間は各国の冒険者ギルドに登録してもらって、冒険者として活動してもらおう。


 要望を聞き終わった俺達はまず、少数派である故郷に戻らない組を地上に下ろし、その後で世界各地を回って奴隷達を帰るべき場所へと返していった。


「ありがとう、本当にありがとう。また無事な姿を見ることが出来たのはあなたたちのお陰だ」


 どこに行ってもそんな言葉を貰うことが出来た。


 別にお礼を求めてやったことではないけど、誰かに感謝をされるのは嬉しいもんだな。


 俺は船のから見える景色を見ながらそんなことを考えていた。


「ケンゴ様、俺かっこいいとか思ってますね?」

「思ってないからな!!」


 バレッタにはバレバレだった。

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