第324話 なんだかんだと聞かれたら

「ふぅ。ワイス拘束しておいてちょうだい」

「任せよ」


 バレッタが敵性アンドロイドをポイっと投げ捨てた。アンドロイドはピクリともしなくなり、追い打ちをかけるようにワイスが作った魔道具でガチガチに拘束されてしまった。


 少し可哀そうになった。


「情けは無用ですよ、ケンゴ様」


 バレッタは俺の心を読んで答える。


「いやまぁ、そうなんだけど、なんだか哀れでなぁ」


 なんだか俺達が来るのを待ち構えるために色々策を練っていただろうと思うんだよ。


 奴隷が解放されているのには気づいていただろうし、天翼族以外の第三者が絡んていることも分かっていたはず。


 にも拘らず、その悉くをバレッタ達が粉砕してしまい、挙句の果てに何の出番もなく退場って言うのは、いささか可哀そうを通り越して申し訳ないと言うかなんというか……。


「はぁ……しょうがない。さっさと終わらせるか……」


 俺はため息を吐いて床にシミを作っている見た目少年の天翼族の元に向かった。


「ひぃいいいいい!?来るな来るな来るな!!」


 少年天翼族は俺が近づいていくと、へたり込んだ状態から恐怖と涙と鼻水を顔に張り付けて後ろに後ずさっていく。


 それにしてもここまで怯えさせるって、俺が追い付くまでのほんのちょっとの間に何やったんだよ、バレッタさん。


「何もしてませんが?」


 シレっと俺の心を読むバレッタだけが、絶対そんなわけない。


 とりあえず頭に王冠を乗せているから天翼族の王なんだと思うんだけど、こいつがそうなのか?


「お前がイッキーリか?」

「はっ!?なぜ余の名を知っている!?」


 俺が名前を尋ねると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を驚愕に染めて俺に問うイッキーリ。


「そんなことはどうでもいいだろ?」

「一体お前たちは何者なんだ!?お前たちのような同族は見たことがないぞ!!」


 お、そういうことなら答えねばなるまいて。


 俺達は腕輪を外して羽を消す。


「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け」

「地上の破壊を防ぐため、地上の平和を守るため」

「人知れず善行を働く、ダンディ・キュートな地上人」

「ケンゴ!!」

「リンネ!!」

「異世界を駆けるイチャラブ団の二人には」

「ホワイトチョコ、甘い明日が待ってるぜ!!にゃーんてな!!」


―ドォオオオンッ


 俺とリンネとカエデが芝居がかった振り付けをしながら一人一人代わる代わる台詞を言って、最後は爆発エフェクトまで自前で用意してポーズを決めた。


「ふぅ。決まったな……」


 これは『チケットモンスター』というアニメに出てくる『オカルト団』というグループの決め台詞だ。


 一度やってみたかったんだよな。まさかこの機会にやることができるなんて感無量だ。


 超古代アニメにも似たような作品があったので、リンネとカエデにはそれを見せてバッチリ履修してもらっていたので、今回俺に合わせることが出来た。


「……」


 俺達の前でイッキーリがポカーンとした顔をしている。


 どうやら余りのすばらしさに言葉もないらしい。

 案外分かる奴じゃないか、うんうん。


「なぁ、主君よ、主君に言われたことならどんなことでもやる所存だが、流石に恥ずかしいのだが……。私は猫の獣人であって、猫ではないので、イナホの方が適任じゃないか?」


 カエデが少し恥ずかしそうにツッコミを入れた。


 最後の台詞は人語を操る猫のキャラクターの台詞なんだが、丁度いいと思って猫獣人のカエデにさせたんだけど、恥ずかしかったらしい。


 普段の口調とは違うし、そんなこと言うタイプでもないからなぁ。

 今後はイナホにやらせるか。あいつ寝てばっかりだし。


「ふふーん。私は悪くなかったわ。やっぱりアニメのキャラクターになり切るのはいいわね」


 逆にリンネはアニメスキーなので、嬉しそうだ。


 これで同い年なんだからな。

 あ、いや、こんなことをやっている俺も同じだったわ。

 仕方ない、だってやりたくなったんだから。


「こ、このぉぉぉぉぉ……まさか地上人だったとは!!バカにしおって!!許さんぞ!!」


 俺達が地上人だと分かった途端、ブルブルと体を震わせ、立ち上がり、玉座に座ると、椅子の肘置きに隠されていたボタンを押した。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 その瞬間、辺りが揺れ始める。


 ここは空なので地面が揺れるはずないんだがな。


「ふはははははははっ。如何にお前たちと言えども、このスーパーアルティメットグレイテストゴーレムには勝てんだろう」


 勝ち誇ったかのようにセリフを吐くイッキーリ。


 玉座がせり上がり、周りを石のような素材が包み込んで、人型を形づくっていく。俺達がいるかなり広い謁見の間らしい場所でも収まりきらず、周りを破壊しながら姿を現したのは巨大な人型兵器だった。


「うぉおおおおおおおおおお!!イッキーリも中々やるじゃねぇか!!」


 俺は思わず興奮して叫んでいた。


「ほら、そんなことはいいからさっさとここから離れるわよ!!」

「いくぞ、主君!!」


 興奮冷めやらぬ俺は、冷静さを取り戻しているリンネとカエデに両脇を抱えられて城から脱出を果たした。

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