第308話 真冒険者組合と懐かしきテンプレ

 バレッタのおかげで事なきを得た俺達。


「流石にこのままってわけにもいかないよな」

「そうね。やっぱり自分でお金稼ぎたいわ」


 確かに倉庫には浮遊大陸の通貨はあるのかもしれないけど、自分達で稼いだ訳でもないお金を使うのは気が引ける。


 どうにかして金を稼ぎたいと思う。


「地上の冒険者組合みたいなものがここにもあるといいんだが……」

「ちょっと聞いてみましょ」

「そうだな」


 天空島の事を何も知らない俺達はその辺の天翼族に聞いてみることにした。


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

「ん、ああ?なんだ?」


 俺が適当に目の前を通り過ぎようとしてた天翼族の男に声をかけると、その男は訝しげな視線を俺に向けつつも、立ち止まって話を聞いてくれる。


 天翼族は同族には比較的優しい種族らしい。


「金を稼ぐのにいい場所ってあるか?」

「はっ?そんなの真冒険者組合に行けばいいだろ。じゃあな」


 俺がド直球に尋ねてみると、なんでそんなことも知らないんだ、ふざけてんのか、みたいな顔をして答えてくれた後、すぐに歩き去ってしまった。


「とりあえず、どこに行けばいいのか分かったな」

「そうね、何が"真"なのかは分からないけど、地上の組織とは別なんでしょうね。最低ランクからなんて久々だけど、なんだかワクワクするわ!!」

「うむ。私も登録したことがなかったから登録してみるのも面白そうだ」

「私も〜!!」

「わたしも〜!!」

「僕も!!」

「肉ハンターに俺もなる!!」

『僕も〜』


 話を聞いた俺達は地上とは別の冒険者組合がある事を知り、俄然楽しみになってきた。地上では登録していなかったカエデ達も興味津々のようだ。


 流石にイナホは無理だろ。


『まぁ仕方ないか〜、僕はペットだしねぇ。獣魔ということで我慢する〜』


 そう伝えたら、すぐに気持ちを切り替えていた。


「とりあえず真冒険者組合とやらを探してみよう」

『了解!!』


 俺達は空を飛んでそれらしい建物を探して始める。その建物はすぐに見つかった。だって見つけてくれと言わんばかりに自己主張が激しかったからだ。


「どうやらあれが真冒険者組合らしいな」

「そうね、見ただけで分かるわね」

「なんとも分かりやすい建物だな」


 俺とリンネとカエデはお互いに顔を見合わせて苦笑する。


 滅茶苦茶大きな文字が描かれているというよりは、デカい立体状の文字のオブジェがデカデカと建物の周りに置かれていて、空から見ると『こちら真冒険者組合です』と描かれていた。


「何はともあれ中に入ってみるか」

「ええ、楽しみだわ」

「私もだ」


 皆が楽しみらしいので俺たちはゆっくりと下降して真冒険者組合の中に降り立った。


 その瞬間、中にいた人物たちの視線が俺達に向く。しかし、俺たちはその視線を無視して受付らしき場所に向かって歩き出した。


「いらっしゃいませ。いかがなされましたか?」

「ああ。ちょっと登録してみたいんだが、いいか?」

「ええ勿論です。ここでは年齢関係なく、登録したい方は全て登録することができます」


 受付で登録できるか確認すると、特に怪しまれることもなく、にこりと笑って答えられた。


「それじゃあ、ここにいる全員を登録して欲しい」

「分かりました。こちらの用紙に記入してください」


 俺たちは各々申請用紙を記入して、晴れて真の冒険者になった。ルールなどは地上の冒険者とほとんど変わらず、違いはたった一行の文言だった。


 それは真の冒険者として必要な資格として”羽をもっている者に限る”という事だった。本当に羽のない人間に対してかなりの偏見があるらしいな。


 話を聞くと、天空島にはいくつかのダンジョンがあり、そこで取れる素材の採集が主な依頼になるようだ。


「おいおい、姉ちゃんたち、そんなおっさんほっといて俺達と一緒にダンジョンに潜ろうぜ」


 話を聞いた俺達が依頼書が張り出されているクエストボードを繁々と眺めていると、リンネとカエデに声をかける奴がいた。


「これなんかいいんじゃない?」

「ん?おお、面白そうだな」


 リンネとカエデはかけられた声を無視しながら二人依頼書見て相談しあっている。


「てめぇ!!聞いてんのか?」

「ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 その態度が気に入らなかった他の冒険者らしき人物達がリンネ達に触れようとした。


 しかし、次の瞬間、男達の目の前から二人は消え、男達の背後から武器を突きつけていた。


「あんた達死にたいの?」

「女性の体には勝手触っちゃいけないと教わらなかったのか?」


 二人は少々威圧の篭った声で声をかけてきた男達に話しかける。


「ひぃ!?」

「バカな!?」


 男達は自分達が強者だと思っていたようだが、二人が自分達よりも圧倒的な強者である事を理解したようだ。


 他にも狙っていたような視線があったが、全員が目を逸らし、口をつぐんだ。


「今回はこれで許してあげる」

「二度と私たちに関わるな?いいな?」


 二人が男達に脅すと、二人は必死になって首を縦に振って、そそくさと建物から出て行った。


「あれがテンプレってやつなのね!!」

「うむ。お約束ってやつなのだな!!」


 二人は自分達が絡まれたことがアニメでよくあるシーンだったことが嬉しかったようで、逆にはしゃいでいた。


 俺達はひとまず初心者が受けるであろう依頼を受けてダンジョンに潜ることにした。

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