第307話 バレッタ様
「あぁ、美味かった」
「ホントね、これはこれで美味しかったわ。ただ、毎日は飽きると思うわね」
「それはまぁ分かる」
料理を食べ終えた俺達。
酒のつまみとして食べればなんとか燻製肉ばかりで構成された料理もなんとか食い切ることが出来たが、これが毎日となると、絶対に飽きてしまって食べられなくなるだろう。
もし、これが天翼族の一般家庭でもこのまま出されているのなら、天翼族の味覚は俺達とは違っているのかもしれない。あながち地上で這いつくばる俺達の進化種族というのは間違っていないのかもな。
俺は半ば自嘲的にそんな考えを過らせる。
「さて、腹も膨れたし、別の場所を回ってみるか」
「ええ、そうね」
「うむ、偵察といこうではないか」
俺達は席を立って店を後にしようとする。
「いくらだ?」
「六千シードになります」
俺は店員に話しかけ代金を確認すると、聞きなれない単位を聞いた。
シード?
言語理解を持っている俺は意味は理解できる。しかし、シードなんていうお金を俺達は持ち合わせていない。
俺たちは今まで金貨とか銀貨とか、そういう単位で支払いをしてきた。つまりここでは独自の貨幣か紙幣なのか分からないが、通貨が流通しているということだ。
こ、これはマズいぞ。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。ちょっと待ってくれるか?」
「は、はぁ……」
俺は中央で待っていたリンネたちの下に戻る。
「まずいことになった……」
「え、どうしたのよ」
俺が真剣な雰囲気で伝えると、リンネが少し驚いて俺に尋ねた。
「ここでは金貨とか銀貨が使えないらしい」
「なんですって!?」
リンネは俺のひそひそ声に合わせて、小さな声のまま店員の方に顔が見えないようにして驚いた。
そういう反応になるのは滅茶苦茶分かる。
「主君どうしたんだ?」
「いや、どうやら浮遊大陸は独自の通貨が流通しているらしくてな。金貨や銀貨がつかえなさそうなんだよ」
「つまり浮遊大陸の金がないと?」
「そういうことだ」
俺とリンネがこそこそと話していると、カエデが割り込んでくる。俺は正直に状況を説明すると、カエデが端的に状況をまとめて尋ねてくるので頷いた。
「私が外に行って盗んでくるか?」
「いや、流石にそういうことはしたくない」
流石に犯罪を犯すというのはちょっと最終手段にしておきたい。
「主君のそういう心意気は買うが、このままではどっちみち無銭飲食だぞ?」
「そうなんだがな」
「あ、こういう時こそバレッタに相談したらいいじゃない」
カエデの言葉に俺が考え込んでいると、リンネが名案とばかりにバレッタに相談することを提案する。
たしかにそれは名案だ。
「そういえばそうか。でもここまで何も言ってきていないのが気になるんだよな。まぁ一応聞いてみるか。バレッタ、浮遊大陸の通貨ってあるか?」
『ありますよ』
「そうだよな、流石にないよな」
バレッタにダメ元で確認すると、やはりないと言う返事が帰ってきて、俺はウンウンと頷いて、これからのことを考えようとする。
「いや、あるって言ってるじゃない」
「え、マジかよ」
リンネの突っ込みを入れられて、俺は初めて倉庫にすでにシードという通貨が入っているということを知った。
『マジです。倉庫から取り出せますよ』
「一体いつの間に」
『こういうことになりそうだったので仕入れました』
バレッタの言葉に返事に愕然としていると、彼女はドヤ顔をしてそうな自信満々の声を上げる。
「どうやってそんなもの手に入れたんだよ」
『企業秘密です』
「あ、そうですか。はぁ……まぁいい。それじゃあ、六千シード出してくれ」
俺の質問に黙秘とも取れる発言を返され、どうしようもないと悟った俺は、そのまま六千シードを取り出せるように頼んだ。
『分かりました』
呆れ気味にため息を吐く俺は、倉庫から六千シードを取り出す。
「待たせた」
「あの……もしかしてお金がない、とかじゃないですよね?」
お金の事を話していた後に仲間の元に行ってひそひそ話していたせいか、店員にもお金がないもバレていた。
まぁバレていたとしても、実際持っているのでバレてないということになる。
「ああ勿論だ。これが代金の六千シードだ」
「あ、はい。ありがとうございます」
疑っていた店員は、普通にお金を渡されて少し困惑気味な表情になったが、お金がきちんと渡されているので問題ないと思ったらしく、頭を下げた。
「いやいや、美味い料理だった。また来るよ」
「またね」
「また来る」
『じゃーねぇ』
俺たちは各々店員に笑顔で別れを告げると、店の中央から飛び立ち、店を辞した。
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