第289話 帰還
「ただいま~」
「ただいま」
ヴェーネから転移で帰還した俺たちは懐かしの我が家に足を踏み入れる。
「なんだか凄く久しぶりの気がするわね」
「そうだな。ほんの二週間くらいだったのにな」
俺たちは家の中を見回して、久しぶりの我が家の空気を堪能した。
「少し休憩したら皆にお土産でも配りに行くか」
「いいわね」
俺たちはリビングでしばし静かに旅の余韻浸った。
「それじゃあ、カエデたちの所から行くか」
「そうね」
カエデたちとは謝神祭の後の宴に呼んだので最近会っているには会っているが、こっちに帰ってきたという報告はしていないので、報告がてら挨拶に行くことにした。
―ピンポーンっ
『誰だ』
「俺だ」
『おお、この香しいスメルは主君ではないか。ちょっと待っていてくれ。玄関を開ける』
名乗りもしないのに俺だと分かったカエデはすぐにインターホンの応答を切ってドアを開けた。
「久しぶり、と言うほどではないのに、こっちで会うと久しぶりという気持ちになるな。主君よ」
「確かにそうだな、カエデ。ただいま」
「カエデ、ただいま」
「お帰りだな主君、リンネ殿。旅行は楽しめたか?」
宴で会ったにもかかわらず、話していないので久しぶりにあったような感覚になる俺達。俺達はお互いにハグをして帰還を喜び合った。
なぜか俺たちはこんな挨拶をするようになっていた。欧米だろうか。
「ああ、これ以上ない程に満喫したさ、なぁ?」
「ええ、とても楽しかったわ」
「それは何よりだ。どうするこれから上がっていくのか?」
肩を竦めるように答えながら満足そうにする俺達の顔を、納得したような笑みでカエデは微笑み返す。
「いや、これから各所を回って帰還の報告をしてくるつもりだ。その後で寄らせてもらうわ」
「了解した」
「おっと、忘れるところだった。これお土産な」
地球のヴェネツィアにありそうなグラス、仮装仮面、レースを手渡した。
「おお、この仮面はいいな。隠密活動の時に使わせてもらおう」
「俺は逆に目立つと思うけどな」
「気分が違うのだよ、気分が」
「分からんでもないけどな」
カエデの奴は女性なんだけど、仮装仮面に一番興味を示していた。カエデらしいとというかなんというか。
「それじゃあ、また後でな」
「うむ。気を付けてな」
「ああ」
俺たちはカエデの家を後にした。
「あら?これはこれは剣神殿にリンネ殿、休暇はいかがでした?」
「ああ、すっかり満喫していたぞ」
「とても楽しかったわ」
「それはそれはようございました。これはお二人のお子さんを拝める日も近いですかね」
俺たちの仲睦まじい様子をみた門番がニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて問いかける。
「そうかもな」
「も、もう、そんなに簡単に出来るわけないでしょ」
門番の質問に肩を竦める俺と、顔を赤らめて答えるリンネ。
相変わらずリンネは初心なままだ。その辺りも長命なのと関係しているのかもしれない。
「分かりませんよ?ケンゴ様はリンネ様が見初めた相手。そんな強い男の精であれば、そんな種族の差なんて超えるかもしれません」
「こんなところでなんて話をするのよ!!」
リンネは顔を赤くしながら門番を問い詰める。
「すでに剣神様とリンネ様がご結婚されているのは町中の周知の事実。すでにカップル像は夫婦像へと改築されておりますよ。それに夫婦グッズも多数展開されております」
「なんてことしてくれんのよ!!」
しかし、門番は悪びれもなく追加情報を露にした。いやいつのまにかそんなことまでやり始めたのか?この街の倫理観を問いたくなるけど、肖像権とかこの世界にないからな。
「ふふふっ。ちゃんと剣神殿の許可はとっておりますよ。今では町中の人間があなた達のグッズを持っているかもしれませんね」
「ケンゴってばなんて契約しているのよ!!」
「いや、毎月マージンがもらえるっていうしさ。出しておいたがいいいかなって」
不労所得を貰えるって言われたら、そんなに頻繁には街に来ないなら契約しても実害はないと思っていた。
しかしこんなところでリンネの叱責を受ける羽目になるとは思わなんだ。
「どんな顔をして中に入ればいいのよ……」
「堂々としていればよいではありませんか。お二人の関係にやましいところなんてないのでしょう?」
「そんなことあるわけないわ」
「ならいいではありませんか」
「はぁ……それもそうね。気にしたら仕方ないし、それに私はケンゴと一緒になるって決めたんだからそれくらいどうってことはないわ」
後ろめたいことなど何もないので開き直ったリンネ。
「これはこれは少し手ごわくなられましたね。まぁでもこれを聞いても平気でいられますか?」
「な、何よ?」
スッと目を細める門番。その様子にリンネがゴクリと喉を鳴らす。
「実はリンネ様のうれし恥ずかしシーンを収めたリアルな絵画が人気を博しておりまして、ケンゴ様にお会いしてからのリンネ様の恋する乙女シーンを沢山集めた絵画が溢れかえってるんですよ」
「はぁ!?誰よ、そんなことしたのは!!」
更なる衝撃の事実にリンネは激昂した。
いやいや、流石にそれはどうかと思うぞ?
「グランドマスターですね」
「あんのクソジジイ!!許さない」
「はははっ。子離れが寂しいんですよ、許してあげてください」
リンネは激怒して怒りのオーラが体から漏れ始める。それには流石の門番もタジタジになってしまった。
あの爺さん、あんな好々爺みたいな顔してやる事がえげつないな。やりたい放題だわ。
「ハァ……どうせ何を言ってものらりくらりと躱されるんだから仕方ないわ」
リンネは激昂を収めてため息を吐いて諦める。
確かにあの爺さんなら煙に撒きそうだよな。
「とまぁ。今はリンネ様と剣神殿の結婚祝賀ムードで世間が賑わっていますので気を付けてくださいね」
「あぁ、分かった」
俺たちは街の中に足を踏み入れた。
案の定俺たちはもみくちゃにされて大変だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます