第284話 誰もいない街

 結界の近くまで来ると、より中が鮮明に見える。形はそのまま残っているが、人っ子一人いるようには見えない。探知に関してもあの結界が邪魔をして中を探知できない。間違いなく、超古代文明の技術が使われているのだろう。


 バレッタは特に何をするでもなく結界にそのまま突っ込んだ。


「ぶつかる!?」

「きゃっ」

『ふふふふ、ご安心ください』


 目の前に迫る結界に俺たちは思わず、意味もなく防御態勢をとってしまうが、結界はあろうことか船をすり抜けて、ブリッジも通り抜けていく。その際、俺たちもぶつかる事なく透過した。


「あ、あれ?」

「不思議だ」


 俺とリンネは困惑して体のあちこちを触って無事を確認する。


『何も問題ありませんよ。あの結界は私たちの持ち主とその関係者ははじきませんので』


 俺たちを安心させるようなバレッタの声が俺達に届いた。


 なるほどな。


『それではどうしますか?街並みを見ていきますか?それともすぐに神殿に向かいますか?』

「そうだな。ちょっと街を見て回っていいか?」

『もちろん何も問題ございません。建物の中に入ってみても構いませんのでよろしくお願いします』

「わかった」


 俺たちは船の入り口から飛び降りて空をゆっくり滑空して地面に降り立つ。


 ドームの中は普通に空気があって、問題なく呼吸ができる。リンネも問題ないということは俺だから大丈夫ということも無さそうだ。


「『魔法少女マジマジこのは』に出てくる街に似ているわね!!」

「ああ、俺達が生きていた日本という国の街並みのようだ」


 改めて地面を踏みしめ、辺りを確認すると、そこには見慣れた景色が広がっていた。


 普通の一軒家にアパート、スーパーなどの店。それに道は全て舗装されている上に、平安京のように街並みが碁盤上になっていて非常に効率的な造りになっていた。


 リンネはまるでアニメの世界に入ったように感じているのか、目を輝かせて辺りを見回している。俺は郷愁を胸にそんなリンネを眺めていた。


「ねぇねぇ、バレッタは建物の中に入っていいって言ってたわよね?」

「ああ。人っ子一人いないってことを考えれば、何も問題ないだろ」

「やった!!」


 リンネは早速近くにあった民家の扉に手をかける。


―ガチャリ


 特に鍵はかかっていないらしく俺たちは問題なく開けることができた。


「わぁああああ!!」


 リンネは扉を開けてさらに目をキラキラと輝かせる。


 それもそのはず、そこはリンネが夢見た魔法少女たちが過ごす家そのものの空間が広がっていたからだ。俺達にしてみればたあいのない光景だが、リンネには馴染みのない、そして憧れの光景だった。


 自分たちで建てた家もあるにはあるけど、あれはまた別の家、というか秘密結社の本社ビルを再現したような形になっているので、また別の話である。


「ねぇねぇ、中に入ってもいいのよね?ね?」

「まぁまぁ。落ち着け、ゆっくり回っていこうぜ」

「そ、そうね」


 魔法少女や俺達が住んでいた家を見ることが出来るとあってはしゃぐリンネを宥めつつ、家の中を回っていく。


「ウチとはやっぱりまた違うわねぇ。細かい設備や家電はほとんど同じだけど。これが一般家庭の家って感じだけどな。とは言え、ここは魔法が使われていて、各部屋の大きさが拡張されていたり、何もせずとも汚れず、室内の温度や湿度も最高の状態に管理されていたりしているから、俺達が住んでいた家とは違うけどな」

「そうなのねぇ」


 リンネは俺の説明に曖昧に返事をしながら家の中の色々な場所を確認していった。


「次はあの建物がいいわ!!」


 ある程度家の中を確認して満足したリンネは、別の建物に入りたいと言い出した。


「ああ、行ってみよう」


 別に急ぐ旅でもないので俺は了承する。


「ここはスーパーだな」

「スーパーね!!このはの友人の愛華ちゃんが良く買い物に行っていたところね!!」

「そうなんだな?」

「えぇ!!一緒に見たじゃない!!」

「あ、ああ、そうだったな!!」


 次にやってきたのはスーパー。


 この世界ではスーパーの先駆けがウチの店なんだが、こっちは本場どころか、その本場さえ超えている。中が空間拡張魔法で広げられていて、それほど大きなスーパーではないのに、中は巨大なショッピングモールの食品売り場くらいの広さがあった。


 しかも品物には劣化防止がかかっているようで、ウチの倉庫同様に商品は外に出るまで期限が止まったままだったのだろうと思う。


 一通りスーパーを見学して満足した俺達。その後もリンネに連れまわさる形で日本と同レベルの世界特有の施設を見て回わり、最後にやってきたのは銭湯。


「ここが銭湯なのね!!このはの友人の奏多ちゃんがおばあちゃんが経営している銭湯を一生懸命手伝っていたわ!!」

「そ、そうだったな」

「銭湯に入ることはできないのかしら?」

「いや、どうだろうな?」

『もちろんできますよ?』


 銭湯に興奮して入りたいとねだるリンネ。俺はバレッタに聞いてみると問題なく入れるようだ。


「それじゃあ、入りましょうよ!!」

「それじゃあ、俺が男湯、リンネは女湯な」

「何言ってるの?私達しかいないんだからあなたもこっちよ!!」

「うわ!?」


 男湯に行こうとした俺をリンネが強引に引っ張って女湯に連れていく。その後、銭湯から俺達が出てきたのは数時間後だったのはご愛敬である。

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