第253話 獣人は肉と穀類が好き
次の日は獣人の国の王都に向かった。
ここで仕入れるのは肉。
獣人達は狩りをするか農業と畜産を主に営んでいるが、農産物は扱っている商人たちがいるため、干し肉などの保存食品にして販売している豚や牛系の肉を、生で購入して販売する予定だ。
育てれば育てるだけ買ってもらえるとなれば彼らもどんどん育成してくれるはずだ。
それにダンジョンに長期的に潜ったり、依頼で長期間街から離れたりすることが多い冒険者は干し肉を食べることが多いが、街にいる間は新鮮な肉料理を食べたいだろうし、冒険者の街にも一般人は多く住んでいる。
当然生肉を扱っている商人もいるが、街全ての需要を満たしているとは言えないので大丈夫だ。それに俺はアルクィナスだけで売る必要もないので、余りにかち合うようなら別の街や国でも売るようにすればいい。
「獣王に会える?」
「リンネ様とケンゴ様は勝手に通せと命令が出ています。どうぞお通りください」
「ありがと」
俺とリンネは顔パスで城内に入ると、執務をしているであろう執務室へと向かった。
―コンコンッ
『誰だ?』
「ケンゴだ」
中から獣王の声が聞こえたので、俺が返事をすると、中でどったんばったん大騒ぎな音が聞こえたと思ったら、扉があいて獣王が顔を出した。
なんで王自ら部屋の入り口に迎えに来てんだ。
まぁこいつに言っても無駄な事か。
「よぉ、元気そうじゃねぇか、今日はどうしたんだ?」
「いや、畜産農家を紹介してもらいたくてな」
「ほほう」
俺が用件を伝えると、獣王は興味深そうに顔を歪めた。
「まぁ中に入れ。話はそっちでしよう」
「ああ、分かった」
俺とリンネは中に招き入れられ、執務室の端にある椅子をもってきて机の前に座った。
「それで畜産農家の紹介だったか?」
「ああ」
全員が席に付くと、獣王が話し始める。
「お前何かしようとしてんのか?」
「ああ、アルクィナスで商売を始めようと思ってな。生の肉を買いたいんだよ」
「なるほどな。別に紹介してやってもいいぜ」
俺が状況を説明すると、難なく承諾する獣王。
あの意地の悪そうな顔を見るに、これはなにか条件を付けられそうだな。
「ホントか?」
俺が訝し気な表情で尋ねると、
「ああ。たぁ・だぁ・し!!俺との勝負に勝ったらな!!」
とニヤリと笑って言い放った。
獣王は思った通り条件を出してきた。それも結構簡単やつを。
「なんだ?この前の大会のようにはいかないぞ。俺も日夜鍛えているからな!!」
「分かった。いいぞ」
「よっし、そうと決まれば早速闘技場に向かうぞ」
「へいへい」
今日はシンがいないのか、獣王を含む俺たちは意気揚々と闘技場へと向かった。
「よーし、いつでもいいぜ」
「了解」
「じゃあ私が審判してあげるわね」
「お前番がまけそうになっても贔屓すんなよ」
「まだ番じゃないわよ!!大丈夫よ、贔屓なんてしないから」
俺と獣王が開始位置に立ち、リンネが獣王の言動に顔を赤らめながらもしっかりと答える。
「両者構え!!」
リンネはすぐに真面目な表情になって二人に指示を出して動かせる。
「はじめ!!」
「おらぁ!!」
始まりの合図が出た瞬間に獣王が俺に攻撃を仕掛けてきたのでさらりとかわした後、
「ひぎっ」
俺の手刀が獣王の頭に落ちた。
「うごごごごご……」
獣王はあまりの痛みにあたまを押さえてしゃがみこんで唸った。
「お前強くなりすぎじゃないか?」
「まぁ俺も色々やってるからな」
「そういうレベルじゃないぞ」
暫くして立ち上がると、ジト目で俺を睨む獣王。
「まだやるの?やらないの?」
「あぁああ!!やめやめ!!これじゃあストレスの発散にもなりゃしねぇ」
「じゃああんたの負けね」
「はぁ〜……それでいいぞ」
リンネに問われると、両手を上げて降参のポーズで観念した。
いくつかの紹介状を貰った俺たちは、全ての畜産牧場に辿り着き、交渉して悪くない条件で取引できる事になった。
その夜。
「うがぁああああ!!」
お近づきの印ということで貰った肉が滋養強壮に効きすぎて俺が収まらなくなり、リンネに襲いかかった。
「もう無理!!無理だからぁああああ!!」
リンネの叫びが夜の荒野に響き渡ったことを知ったのは、次の日リンネが涙ながらに語った時であった。
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