第250話 既存商品調査という名のデート

「店舗を作ったはいいけど、商品がない。まずは街の店を回ってどんな商品を取り扱っているか確認しておかないとな」


 勢いあまって店舗を作ったはいいが、肝心の売る物がない。いや、あるにはあるが、それは個人用であって、店舗の商売用に手に入れたものではないので、ここから出すのは違うと思う。


「一人で行くのもあれだし、リンネと一緒にいくか」


 次の日、俺はリンネを商人街の集まるに誘う。


「珍しいわね、商人街に行こうだなんて」


 俺は滅多に商店街に行くことなんてないのでリンネは不思議そうに俺に尋ねた。


「ん?ああ、商売を始めるための市場調査みたいなもんだ」

「なるほどね」

「それにリンネとあんまり二人で出かけてないからな。デートも兼ねてるつもりだ」

「そ、それなら付き合ってあげなくもないわ」


 納得したリンネにもう一つの理由も付け足すと、リンネはいつものようにそっぽを向いてまんざらではなさそうな態度をとった。


 相変わらず素直じゃないな。


「それじゃあ、さっさと行くぞ」

「ま、待ちなさいよ」


 俺がさっさと家から出ようとすると、リンネが慌てて追いかけてきた。


「よ!!剣神とリンネ様じゃねぇか、お熱いねぇ!!」

「あ、街が生んだベストカップル、剣神様とリンネ様よ!!キャー!!」


 俺とリンネが腕を組んで歩いていると、街に暮らす戦いとは無縁な一般人が俺達をみて騒ぎ立てる。


 そういえば忘れていた。


 冒険者達が多くいる地区では、リンネの力や俺の力によってそれほどでもなかったが、商人街にやってくる一般人たちや商魂たくましい商人にそういう配慮はなかった。


「剣神様!!この髪留め、リンネ様にどうだい!?」

「リンネ様!!こっちのジュース飲んでっとくれよ!!」


 俺とリンネのカップル像は最早この街の象徴とさえなっている。こうなってもおかしくなかった。


 この街を拠点にするの間違ったか!?


「ちょぉっと、居づらいわね……」


 リンネは周りの反応に肩を竦めて苦笑する。


「悪いな。完全に忘れていた」

「べ、別に……。あなたとは恋人に違いないんだから気にしてないわ!!」


 俺が謝ると、リンネはそっぽを向きながらも、手にグッと力を入れて俺の体に自身の体を引き寄せる。


「悪いけど、今日一日は我慢してくれよな」

「仕方ないわね!!」


 俺が申し訳なさそうな顔をすると、彼女はニカっと笑った。俺たちは住人たちに持て囃されながら街を散策した。


「随分買ったわね」

「ああ、勧められるとついついな。そのリボンも良く似合っている」

「ふふん、よく分かってるじゃない!!」


 童貞を殺しそうな服装を好むリンネだが、今日はリボンを新調していた。褒められて満足げに頷いている。


 喜んでくれたのなら結果的には良かったか。

 もちろん俺は童貞でなくなったが、常に殺されている。


 それに今回調査してみて改めてこの街は冒険者向けの商売で成り立っている部分が大きいということが分かった。武器や防具、野営道具、保存性に優れた食料、ポーション類の店舗が多かった。


 だから俺はそれらとは関係ない分野、生鮮食品や日持ちのしないお菓子、輸送で劇的に高額になってしまうスパイス類、チョコレート、砂糖、お茶類辺りがいいのではないだろうか。


 まだ見つけていない食材もあるが、探せばどこかにはあるはずだ。


 ひとまずは生鮮食品と現在所在の分かる食材から始めて、少し落ち着いたらリンネと一緒に旅行がてらそういう観点でまだ訪れていない国を回るのも悪くない。


 俺は今日分かったことから未来を想像してほくそ笑む。


「何かいいことでもあったの?」

「ん?あぁ、まぁな」


 俺の笑みを目ざとく見つけたリンネは俺に尋ねるが、曖昧に返しておく。


「何よ、私にも教えなさいよ!!」

「ははははっ。それはまた今度な」

「あっ、これは何か美味しそうな料理が分かったのね!!早く食べさせなさい!!」

 

 何か面白いことに違いないと思ったのか、俺にリンネが詰め寄るが、俺がニヤリと笑いながら答えを濁すと、何を考えたのか料理のことだと思ったらしい。まだ食べさせたことのない料理もあるし、それはそれでバレッタに作ってもらおう。


「仕方がないな……」

「やったぁ!!」


 俺は新しい料理に目を輝かせて喜ぶリンネを温かい目で見ながら、家へと帰宅した。

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