EX.13 新たなる黒歴史(名もなき魔族Side)

 俺は魔族の国の人間の国との国境近くにあるとある村に生まれた。


 その日もいつもと変わらない日常を過ごす、そのはずであった。


 畑を耕し、青空の下で妻が作ってくれた昼飯を食べ、再び畑を耕して空が暗くなれば家に帰り、可愛い娘に出迎えられて暖かな家族の団欒の時間を堪能する。代り映えしない日常だったが、俺にとってはかけがえない日常。


 その日常はほんの一瞬で無残にも奪い去れてしまった。


「人類に仇なす魔王種ども!!お前たちは我々正統なる人類代表のヒュマルス王国が成敗する!!」


 突然現れたヒュマルス王国軍を名乗る武装した集団が、問答無用で俺たちに襲いかかってきたのだ。


 俺たちも農民とは言え魔族の一員。普通の人間の兵士程度に負けるはずがなかった。しかし、俺たちに襲いかかってきたのは兵士ではなく、ボロボロの貫頭衣を着た成人したてくらいの珍しい黒髪黒目の男女達であった。


「ぐはぁ!!」

「ふげぇ!?」


 その男女達は強かった。俺たちはまるで相手にならない程に。たった数十人の人間に、百人以上いるこの村が瞬きをする間のように一瞬で制圧されてしまった。


 俺は魔族の国の人間の国との国境近くにあるとある村に生まれた。


 その日もいつもと変わらない日常を過ごす、そのはずであった。


 畑を耕し、青空の下で妻が作ってくれた昼飯を食べ、再び畑を耕して空が暗くなれば家に帰り、可愛い娘に出迎えられて暖かな家族の団欒の時間を堪能する。代り映えしない日常だったが、俺にとってはかけがえない日常。


 その日常はほんの一瞬で無残にも奪い去れてしまった。


「人類に仇なす魔王種ども!!お前たちは我々正統なる人類代表のヒュマルス王国が成敗する!!」


 突然現れたヒュマルス王国軍を名乗る武装した集団が、問答無用で俺たちに襲いかかってきたのだ。


 俺たちも農民とは言え魔族の一員。普通の人間の兵士程度に負けるはずがなかった。しかし、俺たちに襲いかかってきたのは兵士ではなく、ボロボロの貫頭衣を着た成人したてくらいの珍しい黒髪黒目の男女達であった。


「ぐはぁ!!」

「ふげぇ!?」


 その男女達は強かった。俺たちはまるで相手にならない程に。たった数十人の人間に、百人以上いるこの村が瞬きをする間に制圧されてしまった。


「すまない」

「ごめんなさい」


 ただ、謝罪の言葉を吐きながら死んだような顔で俺たちに襲いかかる彼らがかなり印象的だった。彼ら全員の首に着けれた同じ黒いチョーカーがやけに鮮明に記憶の残った。


「ままぁ!!」

「止めて!!子供だけは!?ガッ!?」


 制圧されたところにやってきた兵士の一人が、娘に覆いかぶさるようにして守る妻から娘を取り上げて蹴飛ばした。妻は苦しげに息を吐き、少し吹き飛んで転がる。


「くそっ、お前ぇ!!」


 すでに捕らえられて押さえつけられていた俺は兵士を睨みつける。


「なんだ?化け物のくせに一丁前に親気取りか?うるせぇんだよ、くそが!!」

「ぐはっ!!」


 兵士は容赦なく俺を蹴飛ばし、そして剣を胸にズブリと突き刺した。


「ごはッ!!」


 俺は吐き、その場に力なく倒れ伏す。


「いいか!!反抗的な奴はこいつのようになる!!大人しくしていろ!!」

「ぱぱぁ!!」

「あ、あなた……ぐすっ……」


 霞む視界の先で倒れ伏す俺を見て泣き叫ぶ娘と妻。


 ここで俺は死ぬのか、愛する妻よ、娘よ、お前たちを守れずに先に逝ってしまう俺を許してほしい。


 俺の中から命が流れ出し、もうほとんど意識が消え掛けて外の世界が分からなくなった俺の体に、何か暖かい力が流れ込んだ。生命の喪失が止まったの感じたが、それを最後に俺は意識を失った。


「ここは!?」


 飛び起きて辺りを見回すと、そこには集落の同族たちが集められていて、光のある方を見ると、そこには鉄格子がハマっていて何かを閉じ込めておく場所であることが分かった。


 俺は確か体を剣で貫かれて死んだはず。


「あ、あなた!!」

「ぱぱぁ!!」


 気が動転している俺の元へ妻と娘が飛びついてきた。俺の胸に縋りつきグスグスと涙をこぼしている。


「黒髪の人間が助けてくれたのじゃよ」


 彼女たちの後ろから説明してくれたのは村の長老であった。黒髪といえば、思い出すのはあの年若い青年たち。彼らの誰かが癒してくれたようだ。


 そんな俺達の所に来訪者あった。


 最初は警戒した俺達の代表を務める年かさの魔族であったが、次々に与えられる物資と魔法の力による回復と浄化などによって警戒を解いた。


 少し遠くから見えたその男は黒髪黒目で、あの青年たちと雰囲気が良く似ていた。


 それからその男と隣にいた少女は俺達に信じられないことをいくつも見せた。


 ・捕らえられた場所からの脱出

 ・死んだはずの同胞の蘇生

 ・遠く離れた魔族の国への転移

 ・ヒュマルス王国軍の壊滅

 ・邪龍のアンデッドの討伐


 どれもが信じられないものばかりだった。


 その時俺は悟ったのだ。


 あの時俺を回復してくれたのはこの男だったのだと。


 さらに、その隣にいた少女はあの救国の英雄リンネ様であることに驚き、そして俺の確信を深めるに至った。


 俺はその瞬間からその男、いや剣神様と、リンネ様こそが俺の神だということを理解して世界に広めることを誓った。


 常に慈しみを注いでかわいがる愛の化身である、剣神様とリンネ様を崇拝する人たちは世界各地で見つかることになる。


 そしていつしか俺達の集団はこう呼ばれるようになった、


 「剣神慈愛教」


 と。

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