第221話 城へ

 馬車の通常モードでゆったりと揺られて街の中央に聳え立つ黒に近い薄紫色の材質で作られたであろう城へ向かっていく。


 魔族の首都だけあって、人間や獣人、エルフやドワーフと言った種族は少なく、獣や爬虫類などが二足歩行に進化したような種族やアラクネやケンタウロスのような半魔のような魔族達が多い。


 街並みは種族差が大きいせいか、大きさも作りもバラツキがあり、かなり雑多な印象が強い。しかし、色合いは城同様黒よりの薄紫で作られた建物ばかりで統一感もあり、そのチグハグさがなんとも言えぬ独特な雰囲気を醸し出している。


 この世界の魔族は世界に仇なす種族ではないため、特に物騒な気配はない。


「魔族の街も人とそこまで変わらんな」

「他の種族と比べてかなり多様性が多い種族だけど、人間のように生活してる種族が多いからねぇ。首都には人種も結構来るわけだし」


 なるほどなぁ。首都だけにそういう生活様式の種族が集まっているのか。あまりに人とかけ離れた生活をしている者たちは通商の要所じゃない所で村や集落を形成しているのかもしれないな。


 そういう種族の暮らしぶりも少し気になる。落ち着いたら後学のためにいろんな種族の集落へと見にいくのも悪くない。


「とまってください!!」


 妄想を膨らませて馬車を走らせていると、どうやら城の前に着くようだったので、突撃する前にゴーレム馬達が自動的に止まった。


 そのまま突っ込むわけにもいかないから助かった。


「あなた方がリンネ様とケンゴ様でよろしいでしょうか?」


 困惑気味の俺達に話しかけるのは見事な毛並みを持つ狐頭の兵士だった。


「ああそうだ」

「承知しました。ギルドカードをお見せいただけますか?」

「分かった」


 兵士の指示に従い、二人のギルドカードを提示する。


「確認いたしました。どうぞお通りください」


 何やら手元にある羊皮紙に兵士が書き込みを行うと、許可が下りたので城門を潜る。


 城門の先で見上げる黒い城はやはり雰囲気がある。そんなことはないはずなのに、いかにもファンタジーの中の悪魔や吸血鬼などと言った邪悪なボスが住んでいそうな見た目をしていた。


 もっともこの世界の吸血鬼や悪魔というのは悪い連中ばかりではないが。


「ようこそお越しくださいました。リンネ様、ケンゴ様。馬車はお預かりしますので後はおまかせいただけますでしょうか?」

「いやそれには及ばない」

「なんと!?……失礼しました。現在陛下の予定がまだ整っておりませんので、一度客室でお待ちいただきます。中に入れば侍女がご案内しますのでよろしくお願いします」

「承知した」


 馬車を預かろうとする兵士だったが、俺が倉庫にしまうのを見て一瞬驚愕。しかし、流石訓練された兵士。数瞬後には通常運転に戻り、俺達を連れて城内へと向かった。


「中は外からのイメージとは全然違うな」

「久しぶりに来たけど変わってないわね」


 城内は外の雰囲気とは打って変わってきらびやかな内装をしており、まさに王城というにふさわしい造りになっている。調度品もその雰囲気に合わせるように選ばれているようだ。非常にセンスを感じる。


「やっぱり前に来たことがあるんだな」

「別に来たくはなかったんだけど、どうしてもってお願いされてね」

「流石に無碍には出来なかったか」

「私でも下心が感じなければ断りにくいわね」


 流石救国の英雄。どうやら前もここにきたことがあるらしい。


 侍女に個室に案内された俺たちはソファーに腰を下ろし、侍女にだされた紅茶を飲み、それからしばらくリンネと雑談に興じた。


「そういやぁ。魔王ってどんな人なんだ?」

「会ってからのお楽しみよ」


 リンネがニヤリと含みのある笑みを浮かべる。


 一体どんな奴なんだ……。

 何やら嫌な予感がするんだが……。


 そんなことを話している時、外からノックの音が聞こえた。


「お待たせしました。陛下の準備が整いましたので、ご案内いたします」


 やっとか。


 部屋に来て2時間ほど経ってようやく御呼ばれした俺たちは、侍女の案内の元、別の部屋へと案内された。


 おそらくそんなに早く来ると思っていなくて調整に時間がかかったのだろう。


 部屋に入ると、そこは謁見の間のように王の威厳を最大限に魅せるような場所ではなく、なんの変哲もない執務室であった。


「いらっしゃぁーい♡よくきたわねん♡」


 それが部屋に招き入れた主の最初の言葉だった。

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