第219話 御威光②

 感動の?再会を果たした魔族達だったが、暫くのちに元の位置に戻ってもらい、改めて話をすることになった。


「戦争を待ってほしい?」

「そうだ。俺が連れてきた事で魔族が攫われたことでこちらから仕掛ける理由はかなり減ったはずだ。それに、あの国には俺も思うところがあってな。もし戦争するなら誰一人死ぬ事なく完勝して貰いたいのと、ちょっとやって貰いたいことがあってな。それで魔族の王に会わせてもらいたいのよ」


 ヒュマルス王国側の兵士が死のうが、町がどうなろうが知った事ではないが、出来るだけ今後に禍根を残さないで終わった方がいいのは明白だろう。


 ここでどちらかの国に大きな被害が出れば、ずっと仲が悪くなってしまう。今のヒュマルス王国の人間はどうでもいいが、未来までその責任を負う必要はない。


「ふむむ……確かに、今現に再会した事でここに来た者の多くの溜飲が下がり、ついでに全体の士気も下がってるのは否めないな。ただ、戦場にいきなり現れた何処の馬の骨とも知らぬ輩に魔王様に会わせることは難しい」

「これでもか?」


 俺とリンネはギルドカードを出す。


「こ、これは!?SランクとSSSランク!?ま、まさか邪龍戦役の英雄リンネ・グラヴァール様?」

「そうよ?宜しくね!!」

「ははぁ。まさか邪龍戦役に続いて今回もお助け頂くことになるとは、感謝の言葉もありません」


 いつものように尊大なリンネの挨拶に相手の指揮官は片膝をついて頭を下げた。


 リンネはそういう態度は望んで居ないのだが、救国の英雄ともなればそうもいかないのだろうな。


 後でヨシヨシしてあげよう。


「立って頭をあげなさい。今回はケンゴ、この人のことだけど、ケンゴが主導でやってることだわ。私はその手伝いみたいなものよ」

「ほほう。リンネ様が手伝うとはこの人も余程の方なのでしょうな?どういうご関係でしょうか?」

「私の恋人よ」


 もう全く吃らなくなったな。

 悲しいような、嬉しいような。

 恥じらうリンネが可愛いのになぁ。


 まぁ若干頬が赤らんでいるのではずかしいのだろう。うん、悪くない。


「なんと!!あの孤高の女神と名高いリンネ様に伴侶が出来たというのですか!!これはめでたい!!」

「そ、それで、戦争の開始の延期と魔王陛下との謁見は出来そうかしら?」

「ははっ。直ぐに伝令燕を送り、約束を取り付けて参ります」


 はははっ!!まさか魔族の国でもぼっち伝説が語り継がれているとはな!!


「ケンゴ、何かおかしな事を考えなかったかしら?」

「い、いや、気のせいじゃないか?」

「そう?ならいいんだけど」


 この話題に関してはホントの鋭いんだからな、全く。それはまぁいい。


 しかし、こっちから仕掛けないとしても、ヒュマルス王国側が焦れて戦争を仕掛けてくるかもしれない。


 そろそろ高校生や他の兵士達が戻らないことに気づかれているだろうし、あっちは魔族の国を国だと思ってないからな。宣戦布告もしないでいきなり進軍してくるだろう。


『承知しました』


 まだ何も言ってませんよ?バレッタ?


『カエデとテスタロッサに、補給部隊の物資回収と軍への嫌がらせに向かわせます』


 ははぁ、流石バレッタやりたいことがよくわかってらっしゃる。それでは頼もうかな。


『かしこまりました』


 これであっちからの開戦は暫く無理だろう。少なくとも今日明日ってことにはならないはずだ。まだ見える位置にいるわけでもないしな。


「伝令燕が帰ってくるのは明日になります。天幕をご用意しますので、それまでお休みになられては如何でしょうか?」


 伝令燕の手配が終わった指揮官が俺たちに提案する。


「それなら心配ないわ。私達の馬車で休むから」

「馬車では御寛ぎになれないのでは?」

「特別な馬車だから天幕より快適だし、問題ないわ」

「そうですか。分かりました。お食事はどうされますか?」

「それも問題ないわ。あなた達の物資を私達に使う必要はないからね」

「そうですか。しかし、今回私達はあなた達に救われた。せめてもの感謝にお食事だけでもお付き合い願えないでしょうか?」


 ウルウルと目を潤ませるおじさん魔族。


 そういうのは求めてないが、そこまでされると断りにくい。


「そこまで言われたらしょうがないわね。御相伴に預からせてもらうわ」

「ありがとうございます。諸君!!聞いていたか!!リンネ様とケンゴ様が我らが同胞を救ってくれた!!これから祝勝会を行う!!」


 リンネが苦笑しながら承諾すると、指揮官は振り返って宣伝した。


『うぉおおおおおおおお!!』

「ただし、まだ敵軍は国境近くの町付近に駐屯しているのは変わらない!!羽目の外しすぎはしないようにな!!」

『はっ!!』


 指揮官の言葉に兵士達は一矢乱れぬ返事と動きを見せて、あれよあれよという間に俺たちは宴会の主賓席へと座らされ、酒をしこたま飲まされる羽目になった。


 久しぶりに馬車で二人きりになった俺たちがハッスルしたのはここだけの話だ。

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