第203話 前線(カエデSide)

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 魔族の国の首都で情報を集めた私とテスタロッサは、帰投と転送を利用してヒュマルス王国との国境に近い一番大きな街の近くに来ていた。


「どうやら人間の国に侵攻したのは偵察部隊のようだな」

「んだな」


 街の外の少し離れた部分には数万を超える魔族たちの軍が駐屯し、その時を待っているようだった。魔族は多少なりとも戦闘能力をもつ種族、そんな種族を多数相手にして簡単に蹴散らせるほど手練れ。先遣隊はそんな手練れでも高確率で逃げおおせることができる隠密に特化した能力を持つ種族たち百名程度で構成されているらしい。


 こんな人数かつ隠れるのに特化した種族たちの侵攻をあの空の上にあるという宇宙から見逃さないとは、バレッタ達の力は今の時代では完全にオーバースペックだ。主君の前ですら姿までは捉えられていなかった私も彼女たちなら一瞬で完全に見つけてしまうことが出来るのだろう。


 そう思うとなんだか怖くなった。


「主を害するようなことをしなきゃそんなことにはならねぇよ」

「~~!?」


 私の横でふわぁと大きく口を開けて目の端に涙を浮かべて欠伸をしているテスタロッサが何気なく呟いた。それは私にとっては衝撃的で、まさか自分の考えを読まれるとは思わず、少々固まってしまった。私は人間にしか見えないゴーレムに似た少女たちに畏怖の念を抱かずにはいられなかった。


 それに比べて魔族たちときたら、私の隠形には誰も気づくことがなく、拍子抜けもいいところだ。まぁ情報が簡単に手に入るのはいいことだと、自分の中で納得させておく。


「ヤヴァン司令官。偵察部隊が帰ってまいりました。各部隊の体調がお越しです」

「そうか、中に入れろ」

「はっ」


 お、どうやら偵察部隊が帰ってきたららしい。


 しかし、私の隠形は大丈夫だろうか?

 魔族の隠密もかなりの能力者だろう。見つかったりしないだろうか。


 少々不安に思ったが、テスが問題ないと太鼓判を押してくれたので私の焦りは沈静化した。


「報告します。私の担当区域の集落は全滅でした。死体は数名。それ以外は見当たりませんでした」

「こちらも同様です」

「私の方も同じです」

「私は敵を視認しました。敵は数百名の程の人間。彼らは集落を襲い、同胞たちは攫っているようでした。その中でも数十名ほどの黒髪黒目の成人したばかりくらいの若い人間の集団が圧倒的な戦闘力を誇っており、同胞たちはその者達によって捕らえられ、反抗的なものはヒュマルス王国の兵士によって殺害されました。黒髪黒目の連中は戦うのがいやそうでしたが、おそらく首につけられた隷属の首輪によって無理やり戦わされているようです。私はその中の一人におそらく見つかってしまいましたが、兵士たちは私に気付かなかったようで見逃してもらえました。私は現状の戦力では私たちも捕まるだけだと考え撤退しました」

「なんと!?お前ほどの隠密能力をもつ兵が見つかったというのか!?」


 魔族の司令官が信じられないという顔で立ち上がって叫んだ。


 報告した魔族はよほどの能力者だったんだろうな。私のことは全く気が付かないけど。いつの間にか主君と同じように人の領域を外れてしまったのかもしれない。


「はい、その人間とは目が遭いましたので、おそらく……」

「なんということだ。しかし、見逃してくれたのかどうかは分からん。今頃報告されているかもしれないしな。こちらの動きを知られている前提で動くしかあるまい」

「申し訳ありません。失態を犯しておきながらみすみす帰ってくるなど……」


 愕然して椅子にすとんと腰を下ろした司令官に、ひどく申し訳なさそうな隊長格の兵士。


 確かに隠密や諜報に優れた部隊は基本的に見つかってはいけないが、捕まってもいないため、逃げられるなら逃げた方がいいだろう。彼らは隠密能力をもつというだけあって仮面をつけている。バレなければ問題ない。


 それにしても同胞たちが攫われるのを前にしてもグッと我慢して冷静に任務を全うするなど、自制心がとんでもなく強いな。私なら自分が死ぬことなど顧みずに飛び出しているかもしれない。


「いや、いい。お前は偵察部隊でもトップを争う隠密能力者だ。お前がダメなら他の奴らでも全員ダメだ。それにお前たちの任務はあくまで偵察だ。救出ではない。よって罰も何もない。いいな?」

「はっ!!」

「それでは報告を続けよ」


 それから報告を聞くところによると、勇者たちは北から南に向かって南下しながら道中にある集落を襲っているらしいことが分かった。でもどうやら喜々として襲っているわけではなさそうのなので一安心だ。主君に問題なく報告できる。


 カエデはホッと一息をついて偵察部隊の報告を聞き続けた。

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