第200話 企み

 本編も200話到達。いつも読んでいただきありがとうございます。引き続きお付き合いいただければ幸いです。



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「ふはははは、今頃魔族どもは慌ててることだろう」

「ええ、そうですわね。あの人間の皮を被った化け物どもも少しは役立つというものです」


 国王が上機嫌に笑い、その妻である妃が相槌を打つように口元を扇で隠して笑った。その顔は悪行を重ねてきたからか、醜悪に歪み、その人物の内面を象徴しているかのようだ。


 こいつらは魔族侵攻をまだつかんでいないようだな。衛星からみてすぐに分かったから情報の伝達はまだ先ということ。


 そんな呑気にしていていいだろうか。普通に考えれば魔族が攻めてくるのは予想できることだ。戦争の準備一つしている様子はない。それともそんな軍勢が来ても勇者たちがいればどうにかできると思っているのか。


 勇者たちがどのくらい強くなったか分からないが、たった数十人で何万という魔族を相手にするのは無理だと思うけどな、俺達の持つ船のような戦闘力があるのなら話は別だけど。


 捨て駒にするという意味合いもあるのか。そして他にも何かありそうだな。


「あれくらいは最低でもやって貰わないと、私達が体を張った価値もありませんわ、国王陛下」

「ふむ。お前たちには嫌な役目をさせた事、申し訳なく思う。その褒美は出来るだけ便宜を図ろう」

「ありがとうございます」


 王族以外にも複数の高校生と同年代か少し年上程度のいかにも貴族といった煌びやかな服やドレスを着た子女が集まっている。


 その中でも身分が高そうな少女が、何かを嫌そうに思い出しながら悪徳国王に話しかけて、国王陛下は娘でも見るような優しい眼差しで悲しげに謝罪した。


 はぁ……異世界の人間にそんな顔が出来るのに、なんで他の種族ってだけの相手には出来ないのか……。俺には理解するのが難しいな。


「それにしてもナーサルデリア。よく我慢できたね」


 妃によく似た金髪の若い男がナーサルデリアと呼ばれた先程の少女に優しげに語りかける。おそらく何番目かの息子だろう。


「ええ。侍女に扮して本当にあんな穢らわしい化け物達に触られたり、世話したりするなど、本当に身の毛もよだつ生活でした。ストレスでおかしくなりそうでしたわ」

「ごめんね。私の可愛いフィアンセ。私も君があんな気持ちの悪い連中に良いようにされたかと思うと、心の底から怒りがわくよ。嫌な思いさせてごめんね?そしてそんな役目を引き受けてくれてありがとう」

「い、いいえ、ヒュリオ様。お礼なんて結構です。貴方様のお役に立てたのならそれでいいのです」


 中性的な甘いマスクを持ち、王族という圧倒的な権力持つ王子に優しい言葉をかけられて少女は顔を赤らめて俯いた。


 話を聞くに、ここには勇者となった高校生達の侍女や執事になった人間が集められているらしい。つまりさっきの少女は王子の許嫁で、かつ勇者の侍女に扮して調子に乗った高校生を籠絡する役目を帯びていたという事だ。


 全く人をだまし打ちのようにして奴隷にしておいてこんな風な会話に興じているだけで胸糞悪いな、ホント。


「それで?大司教よ。どこまで進んでいるのかね?」


 そんな二人を尻目に王は大司教と呼ばれた五十代の初老の男に尋ねた。


「はい。前線から活きのいい魔族が少しずつ送られてくるようになりましたからな。これで一気に研究が進むでしょう」


 こいつらが魔王種イコール魔族だと確信してやっているのはわかったが、それは単に人間以外認めていないから殺すのだと思っていた。しかし、大司教という名前からこの国の教会まで絡んできて一気にきな臭くなってきやがった。


 もちろん他種族は嫌いなんだろうが、それだけでもないらしい。だって殺さずに捕らえてこの街へと連れ帰っているみたいだ。研究っていうくらいだからその生きてる魔族を使っておそらく何か実験してやがるはず。


 魔族を使って一体何の実験を行なっているんだ?


 出来れば罪もない魔族達だ。可能な限り無事で帰してやりたい。できれば全員無傷がいいが、すでに犠牲になった者達もいるかもしれない。そういう場合は俺でもどうしようもない。


 しかし大司教という男はなんだかヤバいヤツみたいだな。国王とはまた別の意味でだ。その表情は穏やかなのに、どこか狂気じみている。この国の王族や貴族たちへの制裁は後回しにして、ひとまずこいつの後をつけて研究所がどこにあるかを探さないといけないな。


「あの化け物たちも目的を果たしたら、褒美に好事家に売るか、実験に使うか、してやる予定だからな。せいぜい役に立ってほしいものだ」

「それは楽しみですねぇ」


 しかも高校生たちまで人体実験に使ったり、慰み者にでもさせようとしているらしい。そんなことさせるわけにはいかない。こうなればこっちもとことん邪魔してやろう。


 断罪は今じゃない。せいぜい最後の優雅な時間を過ごすと良い。最後に何もかも上手くいかなくなって絶望に顔を歪ませた時、その顔を拝みに来ようじゃないか。


 くっくっく。お前らの目論見は全部潰してやる。


 ひとまず小型発信機『バレッタの微笑み』を大司教につけて、メイドが退出するのに合わせて部屋の外に出た。




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