第193話 忌まわしき国へ
「なんだと!?」
俺はバレッタの報告を受けて椅子から立ち上がって叫んだ。
別にヒュマルス王国に誰が何をしようと構わないのだが、あそこには同郷の高校生たちがいる。おっさんだと蔑まれ、一時は恨みもしたが、今となってはどうでもいいというか、もはや恨みなど皆無に等しい。
今が充実しているからな。ちょっと痛い目を見ればいいとは思っていたが、流石に死んでほしいとは思わない。せっかく助ける力があるのだからあいつらくらいは助けに行かないと。
俺を嫌悪しなかったパンツちゃんもいるし。
それにしても一体何で魔族の国はヒュマルス王国に侵攻してきたんだ?冒険者にも魔族がいたりするが、見た目が多種多様ってくらいで、別段ラノベのファンタジーのように凶悪な種族って感じじゃなかったと思ったんだが。
魔王種とか言っていたが、実は敵は魔族でしたってことか?
あの王族たちを見る限り、自分達異世界の人間以外を人間と認めていない感じだったからな。あり得る仮説だ。
兎にも角にも実際に行ってみないと分からないか……。
「どうしますか?ケンゴ様」
「皆悪いが、天空島はお預けだ。その前にヒュマルス王国に向かう」
『えぇ~!?』
楽しみにしていた面々は不満たらたらな表情で避難の声を上げた。
「今度埋め合わせするから許してくれ。ちょっと俺の同郷の人間が絡んでるんだ」
「同郷だと?」
カエデが首を傾げる。
そういえばリンネ以外にはちゃんと話したことはなかったか。
「俺はこの世界とは別の世界から来た人間でな。そういっても分からないかもしれないが、この船でも行けないくらい遠い場所から来たと思ってもらえればいい。その時に俺以外の人間が三十人程一緒に連れてこられたんだ。そいつらがいるのがヒュマルス王国って国だ。今どうしてるか知らないが、魔族が攻めてきたってことはおそらく矢面に立たされていると思う。魔族達がどの程度強いかは知らないが、別の世界から俺たちを呼ぶくらいだ。かなり強いんだろう。ちょっと諍いというか一方的に嫌悪されていたこともあったが、死んで欲しいわけじゃないからな。ちょっとばっかし行って助けようと思う」
「なるほどな。そういうことか。それなら私から言うことはない」
『にゃ~ん(言うことなーい)』
『我慢する~』
俺が説明すると皆納得したように頷いた。
皆聞き分けが良くて助かる。
俺はつくづく良い仲間に恵まれたと思う。
「それじゃあ悪いが、これからヒュマルス王国に向かわせてもらう。子供たちは船で留守番だ。そしてカエデは獣人だ。あの国は純粋な人間以外に非常に差別的だから嫌な思いをするかもしれない。できれば子供たちと残っていた方がいいと思うが、どうする?」
「ふむ。そんなことか。何も問題ない。主君と奥方様、そして子供たち以外の言葉など私の心いささかも波風立てることはない。心配するな」
カエデは俺の心配にいささかも動揺することなく、フッと鼻で笑って答えた。
「そうか、カエデがそういうなら一緒に来てくれ。戦力は多い方がいいからな」
「うむ。承知した」
「それじゃあバレッタ、船を出してくれ」
「分かりました。ステルスモード起動。目標ヒュマルス王国首都近郊上空。大気圏突入シークエンス開始」
俺の指示でバレッタがカタカタとキーボードを操作して船を動かし、船は一路ヒュマルス王国に向かって航行を始めた、真っ逆さまで。
「え!?この状態で星に突入するのか!?」
「はい。何か問題ありますか?」
俺が慌てたように尋ねるが、バレッタは至極普通の表情で俺を振り返る。
いや俺の思考分かってるよな?な?
「普通はもうちょっと角度をつけて入るものじゃないのか!?燃え尽きない!?」
「いえ、ケンゴ様の時代の技術よりもはるかに高度な技術で造られておりますので、垂直に侵入しても何も問題ないのですよ」
にっこり笑うバレッタ。
俺にはその顔はまるで小悪魔のように見えた。
「うぉわぁああああああああああ!!」
『わーい!!』
俺達は垂直落下のジェットコースターのように異世界の星に落下することとなった。
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能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜
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