第144話 螺旋

「お前たち一旦作業を止めて離れてくれ!!」

「なんでお前の言うことを聞かないといけないんだ!?」


 俺が兵士たちに指示を出すが、案の定聞き入れてくれそうにない。


 確かに俺たちは兵士たちの上司でもなんでもないからなぁ。


「おい、お前ら、ちょっと今回の崩落は何かおかしい。今までこれほどのモンスターの襲来はなかった。こいつらは冒険者。ダンジョン探索やモンスター討伐に関してはこいつらのほうが専門だ。今のままだと奉納祭の開催も危ぶまれる。ここで悠長に作業をしていると取り返しがつかなくなるかもしれねぇ。こいつらが何か出来るっていうならやってもらおうじゃねぇか」


 そこにボルボルが助け舟を出してくれる。


「隊長が言うなら仕方がねぇ」

「そうだな」

「任せてみるか」


 ボルボルの言葉で俺の指示通りに作業場所から離れてくれた。


 まだ何をするかを言ってもいないのに信頼してくれるなんてその気持ちに応えなくちゃな。


 俺は倉庫からあるものを取り出した。


 洞窟、そして崩落。そんな場所にお誂え向きの武器、というか掘削道具。円錐状の形をしていて、その周りを螺旋状に溝が彫られている。


 男なら憧れてやまないその道具の名。


 それはドリル!!


「な、なんなんだ!?あのバカでかい装備は!?」


 取り出したドリルは非常に大きくて俺の身長とそう変わらない。さらに右り込む取っ手が付いていて右手だけで持ちあげている。


「なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情け!!これはドリルという夢と希望が詰まった掘削道具だ!!」


 俺は掲げるようにドリルを持ち上げた。


―シャキーンッ


 ドリルがアニメのような効果音ときらめきを放つ。


 なんでこんな機能があるかって?

 これもロマンのなせる業。


 バレッタに寄れば、『ドリルというロマン武器は必要不可欠』という前所有者の言葉により制作されたものだそうだ。それを聞いた時、俺はまたその前所有者と会いたかったと悔しく思ったものだ。


『おお!!なんか分からんが、カッコいいぞ!!』


 ドワーフたちもどういう道具なのか分かっていないが、見た目だけでそのカッコよさを理解したらしい。


 うんうん、お前たちも中々分かってるじゃないか!!


「よし、早速やるか!!」

「とっととやりなさいよね!!向かってくる敵は大したことないとは言え、全く疲れないわけでもないのよ!!」


 なかなかドリルを使用しない俺にリンネに尻を叩かれる。


 やれやれ、リンネにはドリルの素晴らしさが分からないというのか……。


 先駆者は理解されぬもの致し方なし。


―ギロッ


 ヤレヤレと肩を竦めるような仕草をしていると、リンネから絶対零度の眼差しを送られる。


 ひえ!?すいませんでした!!

 すぐ取り掛からせていただきます!!


「分かっている」


 俺は腰だめに構えた。


『所有者情報を確認しました。起動します』


 取っ手を握り込むと無機質な音声と共に、ドリルがけたたましい音と共に回転し始め、淡い赤の燐光を放ちだす。


『うぉおおおおおお!!光ってるし、くっそかっけぇ!!』


 ドワーフたちが目を輝かせる。


 その期待に応えてやるぜ!!


「貫け!!ロンゴミニアドリル!!」

『エネルギー充填完了。発射まで5秒前。5、4、3、2、1、発射!!』


 無機質な音声の合図でドリル後方からジェット噴射のような風が排出され、俺と共に崩落したダンジョン壁へと突っ込んだ。


 ドリルの先端とダンジョン壁が接触した瞬間、手ごたえがあると思っていたが、全くない。


 まるで水でも削っているかのようにスゥッと差し込まれてしまった。そしてドリルに接触したそばからダンジョン壁の瓦礫が消し飛ばされていく。気づけば瓦礫の山を通り抜け、6階層への階段がある部屋へとたどり着いていた。


 名前はふざけているが、威力は折り紙付きなのである。


 俺はぶち抜いた穴がふさがってしまわないようにインフィレーネで支え、古代魔法を使って穴を固めた。


 最初から古代魔法でどうにかしろと言われるかもしれないが、こういう時にロマンの塊であるドリルを使わずにどうするってんだ!!


『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』


 一通りの作業が終わると、俺が開けた穴の向こうからドワーフたちの咆哮が届く。


 どうやら問題ないらしいな。


 俺は彼らの元へと歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る