第143話 奉納祭の危機

「ガンツはそっちだ。リンドはあっちだ。」

『うっす』


 兵士というよりなんというか完全に大工の棟梁と部下って感じだな。


 ドワーフたちがテキパキと作業を進めていく。


「俺達は何をすればいい?」

「お前たち程の高ランク冒険者にこんなことを頼むのなんだが、ここはダンジョンだから作業の間俺たちの護衛をしておいてくれ。崩落があった時階層に見合わないモンスターが出ることがある」

「了解。緊急事態だから問題ないぞ」


 指示を出し終えた棟梁に尋ねると、護衛を依頼された。


 初めての護衛依頼だが、余程のことがない限り大丈夫だろう。俺たちがインフィレーネと魔法を使ってやってもいいが、こいつらの仕事を取る物でもない。


―グォオオオオオオオンッ


 引き受けたそばからモンスターの方向が洞窟内を駆け巡る。


「言ったそばからお出ましのようだ。頼んだぞ!!」

「任せろ」


 道の曲がり角から狼型のモンスターが複数飛び出してきた。


「ブラッドウルフだと!?」


 兵士の一人が迫りくるモンスターを視認すると、狼狽えるように震え声を上げる。


「なんでこんな所に深層のモンスターがいやがるんだ!?」

「こんなんじゃ作業どころか、俺たちの命があぶねぇ!!」


 一人の兵士を皮切りに他の兵士達にも動揺が広がる。


 ここはひとつ安心してもらわないとな!!


『グギャアアアアアアアアアアア!!』


 俺とリンネはお互いに頷きあって、それぞれの右と左に別れ、お互いのエリアにいるブラッドウルフを一刀のもとに切り伏せた。


「俺たちが守ってやるから安心して作業すると良い」

「私たちが一歩もここから通さないわ!!」


 俺とリンネが振り返って刀を振って血を振り払って自信ありげに宣う。血が洞窟の壁にビシャリと貼りついた。


『うぉおおおおおおおおおおおお!!』


 兵士たちから歓声が上がる。


 ちょっとカッコつけすぎた気がするが、効果は抜群のようだ。


 「マジで強かったのか!!」

 「信じてなかったけど、こいつら本物だ!!」


 中にはこんな声も聞こえた。


 こいつらときたら……。


 いや見た目は可憐な美少女とおっさんだけどもさ。

 流石に偽装したりしないっての。

 

 それから普通のダンジョンとは思えない頻度でモンスターとのエンカウント率で切り飛ばしつづける。


「ったくキリがないな!!」

「そうね。いくら雑魚だとしてもこれだけの数が集まると結構面倒ね」


 背中を合わせて敵を倒しながら会話を交わす俺達。


 一体このダンジョンで何が起こってやがる。

 崩落ってだけでこれほどの変化が起こるもんなのか?


「おい、ボルボル!!」

「なんだ!?」

「いつもの崩落もこんな感じなのか?」


 気になった俺は敵を駆逐しながらもボルボルに尋ねる。


「いや、これほどモンスターが溢れている事態は今まで出会ったことがない。正直崩落の先がどうなってるかも今の段階では不明だ」


 やはり異常事態か。

 これはあまり悠長にしている場合じゃないのではなさそうだ。


「作業の進捗はどうだ?」

「いや、崩落が思ったより広範囲に及んでいるらしくてな。なかなかダンジョン壁の採掘が進まない。こいつの強度は普通の好物をはるかにしのぐからな。ドワーフに伝わる特別な採掘道具を使う必要があるのだが、それでも一朝一夕に土砂に除去作業が進むわけじゃないんだ。くそっ。もうすぐ奉納祭だって時に……。鍛冶に必要な鉱物類もまだ全て集まっていない上に、このような事態になっては中止にせざるをないかもしれない」


 俺の質問に、悔しそうな表情を浮かべながら答え、最後に腿に拳を叩きつけた。


 モンスターの異常発生に、遅々として進まない作業、そして奉納祭という祭りが注視する可能性。これはもう相手の役割を尊重している場合じゃないな。


「俺に任せてくれないか?」


 少し考えるそぶりをしてから俺はそう答えていた。


「一体どうするつもりだ?」

「まぁ任せておけ!!リンネ一人で行けるよな?」

「誰にものを言ってるの?いけるに決まってるでしょ!!」

「なら任せた!!」

「任せて!!」


 俺は言うなり持ち場を離れて作業している兵士たちの元へと近寄り、ニヤリと笑いを浮かべた。

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