第052話 黒歴史

「まずはあいつらをどうにかしなきゃな」


 俺は捕まえた盗賊たちについて思いを馳せる。


 牢屋で眠らせているが、いくらなんでもエルフの国に着くまでそのままとはいくまい。


 どこかに預ける必要がある。


「何よ。一旦街に戻ればいいじゃない。ここまでは転送?とかいうのでくればいいでしょ」


 俺が悩んでいると、リンネが何でもないことのように宣う。


 確かにその通りだ。その通りなのだが、あれだけ盛大に送り出された手前、戻るのも躊躇してしまうんだよな。


 まぁでもあそこしか街を知らないし、それでいっか。


 気持ちを切り替えて街に戻ることにした。


「そうするか。んじゃ、一旦町へ帰ろう」


 俺たちは帰還機能で一旦船に戻ると、船の転送装置で街の近くの人気のない場所へと転移。


「ホントに凄いわね。町まで一瞬だわ」


 リンネは辺りをきょろきょろと見回して感心している。


「俺も実際に別の場所に移動するのに使ったのは初めてだが、便利だな」

「にゃーん(ここどこ?)」


 俺の肩にいるイナホが俺の顔に頭を擦り寄せてきた。


 くぉー!!くっそ可愛いなぁ、もう!!


「ここはイナホに出会う前にいた街の近くだ。ちょっと用があるから戻ってきたんだ」

「にゃにゃ?(そうなんだ。美味しいものある?)」


 目を輝かせながら尋ねるイナホは期待してうずうずしている。


 期待してるところ悪いが、街はいいところでもそれなりなのだ。


「そうだな。昨日のバーベキュー程美味いものはないが、お気に入りの店はあるぞ」

「にゃーん!!(やった!!早く食べに行こうよ!!)」


 イナホは肩を飛び降りて先に街の方へと走って行ってしまった。


 肩が寂しい……。


「直ってないわよ?」

「うっ。気を付ける」


 ジト目で俺に指摘してくるリンネ。


 そう、おっさんが猫みたいに妙に高い声でにゃーにゃー鳴いているように聞こえる症状は、まだまだ制御不能なのだ。


「とにかく盗賊を外に出して連れて行こう」

「そうね」


 俺たちは盗賊を牢屋から出してたたき起こし、インフィレーネの催眠波で俺の指示に従って町へと向かうようにした後、イナホを追いかけて街へと向かった。


「にゃーん(あるじぃ、早くしてよ~)」


 イナホは俺たちが追ってこないのに気づいて少し先で待っていたようだ。


「にゃにゃ!?(あ、この人たち!!)」


 盗賊を見るなりフシャーと威嚇するイナホ。


「ああ、お前を捕まえていた奴らだ。心配するな、今は何もできないから大丈夫だぞ。こいつらを街に連れて行って罰を与えてもらうんだ」

「にゃーん(そうなんだ。主おねがいね。こいつら酷いんだ)」

「了解」


 警戒を解いたイナホにお願いされたので、しっかり処罰を受けてもらわないとな。


 イナホがトコトコと走ってきて俺の肩へと上った。


 肩が暖かい。


「これはこれはリンネ様と剣神殿じゃないですか!?いったいどうされたのです?さっそくご結婚ですか?」

「んなわけあるか!!」


 城門が近づいてくると、俺たちを見つけたいつもの門番が駆け寄ってきて、そんなことを言う。


 一体どういうことだってばよ!!


「いやぁ、旅で一日イチャイチャしたら我慢が出来なくなったのかと思いましてね」

「そんなわけないでしょ!!」


 今度は俺の代わりに顔を真っ赤にしたリンネが突っ込んだ。


「それはそうと、後ろに居るのはもしかして?」

「ん?ああ。俺たちを襲ってきた盗賊だ。アジトも壊滅させてきたから引き取ってほしい」


 門番が俺たちの後ろの盗賊たちに目をやると、俺が同意するように頷く。


「流石剣神殿。ご案内しますね」


 兵士は納得顔をして俺たちは街の中に入った。


 何が流石なのか分からないが。


「なんだかめちゃくちゃ賑わってないか?」

「そりゃそうですよ、カップル記念祭が行われていますからね」

「なんじゃそりゃ」

「そういえばそうでした。後で街の中央に行ってみるといいですよ」


 振り返って意味ありげに俺に答える門番。俺たちは兵士の詰め所へ向かい、兵士に盗賊を預けて指をパチンと鳴らして催眠を解く。


「ここは……」


 盗賊たちが揃いも揃ってキョロキョロと周りを確認している。


「あ、お前たちは!!」


 リーダーが俺たちを見つけて掴みかかろうとするが、腕を縛られているので何もできない。


「俺たちにこんな真似をしてどうなるかわかってんのか!?」


 それでもなお食い下がるように詰め寄る盗賊リーダー。


 そんな恰好で凄まれてもなぁ。


「いや、お前こそここがどこかわかってんのか?」


 俺は状況を理解していない盗賊リーダーにニヤリと口を歪ませて問う。リーダーが再度辺りを見回す。そこには多数の兵士の姿。


「ここってまさか……」


 顔が青ざめていくリーダー。


「そうだ、兵士の詰め所だ。連れて行ってくれ」

「はっ!!」

「くそっ!!覚えてろよぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺が憮然とした態度で兵士に頼むと、盗賊たちは捨て台詞を吐いて兵士に連行されていった。


「さて、戻るか」

「ええ」

「にゃーん、にゃーん(ごっはん♪ごっはん♪)」


 俺たちは兵士の詰め所を後にすると、ロドスの店に向かって歩く。


「あ、リンネ様だ!!おめでとう!!」

「「「「「「おめでとう」」」」」」


 その途中至る所でリンネと俺は口々に祝いの言葉を掛けられる。


「一体何のお祝いかしら」

「なんだろうな……」


 俺たちは困惑しながら進んでいく。


「お、剣神とリンネ様じゃねぇか。それになんか新しいペットもいるな。なんだ?出戻りか?」


 ロドスの店に着くと、俺を見つけたあいつが俺に声を掛けた。


「ちょっと用が出来てな。3本くれ」

「あいよ」


 ロドスは肉を焼き始める。俺の顔の隣でイナホがよだれを垂らし始めた。可愛いけど、服にたらさないでくれよ?


「ちょっと聞きたいんだが、なんか町が賑わってないか?」

「ん?ああ、お前たちはまだ知らないのか。当人が知らないとは面白いな。街の中央広場にいけ。そこで面白いものがみられる」


 ロドスはそう言ったきり話さなくなり、出来た肉を手渡され、イナホ用に皿に串から肉を取り外して置いてやった。


「にゃぉおおおん(美味いニャ!!)」


 肉を食べたイナホはご満悦な様子で鳴く。食べたそうにしていたので、俺とリンネは自分たちの分もイナホにあげた。


 可愛いから仕方ない。


 食べ終えた俺たちはダンジョン前の中央広場に向かうと、そこは多数のカップルらしき人間達でごった返していた。


「ホントに一体なんだんだ?」

「そうね……」


 カップルたちは俺たちを見るなり、ザザッと整列するように道をあけ、広場中央までの俺たち専用の道が出来上がった。


 俺たちはおそるおそる道を進んでいく。


 そこにあったのは、女性と男性であることが分かる木像と、『リンネ様と剣神のカップル誕生記念像(仮)』と書かれた看板であった。


「なんじゃこりゃぁああああああああああああ!!」

「なによこれぇええええええええええええええ!!」


 木像は時間がなかったからか似てないが、服装や装備品の見た目はかなり似たように作られており、男の手をそっぽ向いて取る女という構図になっている。


 完全に俺たちじゃねぇか!!


 俺とリンネは顔を見せ合わせると、


「「成敗!!」」


 と言って像を破壊した。


「「「「「「ああっ」」」」」」


 周りから悲しみの悲鳴が上がる。


 そしてその音に気付いたやじ馬たちが集まって来る。


 そいつらは俺たちに気付くなり、


「リンネ様!!おめでとう!!」

「リンネ様!!お幸せに!!」

「リンネ様!!頑張ってください!!」

「リンネ様!!踏んでください!!」


 と、一部可笑しな野次も混ざっているが、皆が皆リンネをはやし立てた。


「うるさぁあああああああああああああああああああい!!」


 やかんのように湯気を幻視できるように頬を赤らめたリンネは、力の限り叫んだ。


 その後、弁償や注意など諸々もお叱りを受け、俺たちは旅へと戻った。そんなこんなで幕を開けた俺たち旅は、その後何事もなく進み、エルフの国が目前に迫るのであった。


 ちなみに、壊れた木像は後に非常に壊れにくい素材で精巧に作られた『リンネ様と剣神のカップル誕生記念像』の正式版へとレベルアップし、町のシンボルとなる。


 そのことを俺たちが知るのはかなり先の話である。





◼️◼️◼️


いつもお読みいただきありがとうございます。

また新作投稿しました。

こちらもよろしくお願いします!!


能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330649374806786

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る